アクエリアたち湖の精霊、妖精たちのうっかりというかなんというかが判明し、僕たちはやることもなくなったので少し早いですが神樹の元へと戻りました。

 神樹の元には少し疲れた表情のメイヤがいますね。

『ああ、お疲れ様。根本的な原因はわかったようね』

「わかったらしいですね」

「魚だけ呼び込んで呼吸も食事もできないのでは逃げ帰ると思うんです、メイヤ様」

『私も同じ意見よ。アクエリアたちの方が詳しいし湖の環境整備はしていると考えていたのだけれど……まさか、なにもしていなかっただなんて思いもよらなかったわ』

「メイヤ、どうしてあげたんですか?」

『植物性プランクトンは私の力でなんとかなるからある程度の量を湖や池の中に作ってあげたわ。あとは水中に生える水草なども用意してあげた。基本はそれくらいね。それだけで十分とも言えるのだけれど』

「ここ数日の私たちってなにをしていたんでしょうか?」

『……アクエリアに振り回されていただけね』

 疲れました。

 今日は本当にリンへと甘えてしまいましょうか……。

「ねえ、シント。少し甘えてもいい?」

「リンも甘えたくなりましたか……」

「シントも甘えたい?」

「ええ、とても」

「じゃあ、夜はシントが甘えてもいいから夕食までは私に甘えさせて?」

「そういうことなら。甘えさせてあげますからしがみつくなりなんなりしてください」

「やったぁ!」

 リンは僕の左腕にしっかりとしがみついてきました。

 顔も擦り付けてきていますし、本当に甘えん坊モードです。

 それにしても……。

「なんでアクエリアは基本的なことにすら気がつかなかったのでしょうね?」

「よくわかんない。メイヤ様は理解できますか?」

『私にもちょっと……そもそも魚しか通れないゲートってほかの淡水系生物はどうするつもりだったのかもわからないし……』

「淡水系の生物ってそんなにたくさんいるんですか?」

『いるわよ。海族館では見る機会がないけど、海にはもっといろいろな生き物が生息しているし。湖や泉、沼なんかにもいろいろと生物はいるわ。それにそういう場所にしか咲かない花もあるからね』

「そうなのですね。メイヤ様、湖も賑やかになるのでしょうか?」

『なるでしょうね。根本的な原因が取り除かれれば魚や水生生物にとって住みよい環境のはずだし、いろいろな魚が住み着くんじゃないかしら?』

「シント、海族館みたいな建物の依頼が来ても受けちゃだめだよ?」

「僕もこれ以上アクエリアにはしばらく振り回されたくありません。アクエリアには申し訳ありませんが1年以上増設などは待ってもらいましょう」

『その方がいいわね。あの子、調子に乗って新しいお願いもしてきていたし』

「新しいお願い……」

 嫌な響きですが内容だけは聞いておきましょう。

 内容だけは。

『川をもう一本造ってほしいそうよ。今度は滝に繋がる川じゃなくて、なだらかに海へ繋がる川が』

「お断りしたいのですが理由だけは聞いておきましょう」

『川魚ってね、産卵だけ川でして育つときは海で育つっていう種類がいるのよ。それらの生息域を確保するために新しい川がほしいそうよ?』

「……それ、作らなくちゃだめですか?」

『少なくとも秋までは待つように伝えたわ。そのあとはあなた方がやりたくなったら手伝ってあげなさい』

「1年はシントを貸したくありません」

「僕もアクエリアがらみの依頼はちょっと……」

『アクエリアも今回はあなた方を振り回しすぎたものね。少し反省してもらわないと。ふたりとも果樹園に行って果物でも食べてきたら? 夕食まではまだ時間があるわよ?』

「……動くのも面倒な気持ちなんですよね」

「私もシントに甘えていたい気分です」

『本当にアクエリアは反省ね』

 そのまま僕とリンは神樹に寄りかかって寝転び、気がついたら本当に眠ってしまっていました。

 メイヤに起こされたのはディーヴァとミンストレルが来たときで、ディーヴァからは「よほど疲れていたのですね……」と心配されてしまい……なんだか申し訳ありません。

 本当に気疲れしていたんですよ……僕もリンも。

 夕食後はふたり仲良く温泉につかりもたれ合いながら疲れをとり、そのまま寝間着に着替えたら部屋のベッドで一緒に寝ます。

 いや、本当に疲れた数日間でした。

 そして翌朝もシルキーが焼いてくれた一口サイズのパンをいくつか食べて神樹の元へ向かい朝食です。

 朝食ですが……メイヤから面倒くさいお願いをされました。

『シント、リン。湖に魚たちが住み着いたそうだから見に来てほしいんだって、アクエリアが』

「昨日の今日ですか……」

「はりきりすぎですよ、アクエリア様……」

『ゲートをたくさん作っていろいろなところから魚を呼び込んだようね。あと、焼き魚もごちそうしてくれるって』

「やりたい放題ですね」

「〝水の〟五大精霊様ですよね?」

『……海の魚だけ何度も振る舞われているのが悔しいらしいのよ』

「あの、メイヤ。神樹の里って段々おかしくなってきていませんか?」

『おかしくはなっていないわ。ただ、いろいろなものから解放された反動でいろいろ要望が上がってきてしまっているだけで』

「……つまり、まだまだ要望はあると」

『大丈夫よ。シントばかりに働かせないから。ちょうどアクエリア向けの要望も来ているし』

「アクエリア向けの要望ですか?」

『山エリアに渓流……つまり谷のある川を造ってほしいって依頼ね。マインにも頼んで土地の準備はさせるからあとはアクエリアに任せるわ』

「わかりました。ところで山とかに住んでいる皆さんは水などをどうしていたのでしょう?」

『山の中にも水の精霊たちが作った泉があるのよ。そこで水を飲んでいるわよ』

「それならよかった。……面倒ですがアクエリアたちのところに行きましょうか」

「行かなかったら家まで押しかけてきそう……」

『ごめんなさいね、ふたりとも。こんな大事になるとは思ってもいなかったものだから』

「いえ。行きましょう、リン」

「……今晩も甘えようか、シント」

「それがいいです」

 面倒くさいながらもアクエリアたちの湖エリアに行くと、本当に魚が住み着いていました。

 アクエリアは1種類1種類捕まえてきては丁寧に説明をしてくれてお昼時には〝美味しい川魚〟を食べさせてくれたし本当に美味しかったのですが……どうにも気持ちが付いてきません。

 なんでしょうね、このモヤモヤ感は……。