ニンフたちが作った美術館、マーメイドたちの作った海族館も大好評。
もちろん、2カ月かけて作りあげた音楽堂も大好評です。
そして、いまはメイヤが徹底的に品種改良を行った果物園が造園され、シルキーたちの小麦畑も完成し、いつの間にか用意してあった酵母を使ったパンも美味しく頂いていました。
……そんなに幻獣や精霊、妖精たちは娯楽や趣味に飢えていたんでしょうか?
とりあえずシルキーが作ったパンをひとつ食べてから朝食へ向かいましょう。
このパンも柔らかくてふっくらしていて美味しいのですが。
「シント、なにを難しい顔をしているの?」
「ああ、いえ。神樹の里のみんなは娯楽に飢えていたのかなと」
「そのことかぁ。確かにそうなのかも。音楽堂もなにかに利用されるたびに満員だって聞くし、幻獣たちって普段はなにをして過ごしていたんだろうね?」
「はい。神樹の里も……僕らの魔力が上がって行っているおかげでものすごく広がっているらしいのですが、あまりみんなが楽しめる施設はなかったと感じて」
「……野生の幻獣や精霊、妖精たちってどうやって過ごしているんだろうね?」
「さあ? メイヤにでも聞いてみましょうか、朝食を食べ終わったら」
「それがいいかも。メイヤ様に聞いてみよう」
僕とリンは途中でディーヴァとミンストレルに合流、4人で神樹の元へと向かいます。
そこで朝食を食べて気になっていたことを聞いてみたのですが、メイヤの答えは意外なものでした。
『幻獣や精霊、妖精たちなんて気ままなものよ? この神樹の里の中でだって住む場所をよく変えているもの』
「そうなんですか?」
『そうよ。そこに音楽堂や美術館、海族館ができたからみんな興味本位で行って楽しんでいるだけ。行く者たちが途絶えることはないでしょうけれど、本来的に幻獣などが娯楽施設で楽しむ方がおかしいのよ』
「なるほど。僕はてっきり神樹の里でやることがないため、みんな退屈しているものだとばかり」
『退屈じゃないけれど、狩りができないのは不満だって言っていたわね。ここって野生動物がいないでしょ? そういった動物たちをときどき食べていた者たちからは要望が出ているわ』
「それって、僕たちが外に出て捕まえてくればいいのでしょうか?」
『気の長い話になるわよ? 野生動物だって自然に増えていくわけじゃないもの。たくさん捕まえてきて数を増やさせて生活圏をつくり、育て上げる。とてもじゃないけれどシントとリンが解決できる問題じゃないわ』
「そうでしたか。では、そういった者たちを一時的に外へと出してあげるのは?」
『それも提案したのだけれど、美味しい果実がたくさん手に入るこの里を離れるのも嫌だって。みんな〝狩り〟に怯えて不安な生活を暮らしていた反動で不満を言っているだけよ。とりあえず無視しておきなさい』
「わかりましたが……本当にいいのですか?」
『いいのよ。ここにいれば食べ物に困ることは無いし、戦闘訓練相手だってたくさんいる。力の弱い者たちも怯えて暮らす不安がない。縄張り争いの必要だってないわ。むしろ、シントとリンの魔力に合わせて里が拡張されていっているせいで自分たちだけが住んでいていいのか困っているくらいよ?』
そうですか、そんな状況だったんですね。
でもそうなると、春頃から出ていた問題は?
「メイヤ、移住希望者の件ってどうなっています?」
『悪意がないか調べて少しずつだけど受け入れているわ。里だけが無駄に広くなって住民ががらがらというのもね……』
「メイヤには苦労をかけています……」
『幻獣などの管理なんて契約者や守護者のあなたたちでもできないでしょう? 里の神樹の聖霊で管理者の私がやるのが一番なの。あまり気にしないでおきなさい』
「そうさせていただきます。……ところで、シルキーの数、増えていませんか?」
『増えたわよ? 美術館に海族館が増えたからそっちの掃除をするためのシルキーを追加で招き入れたわ。彼女たちも掃除のしがいがある建物を任せられて大喜びね』
「……僕の家でも毎朝と夕方に少量ずつパンを焼いていてくれますが、便利に使いすぎていませんか?」
『シルキーは家事ができれば満足な妖精だから放っておきなさいな。感謝しているでしょ?』
「それはもちろん。彼女たちが来てくれてからすべての家事をやらなくても済んでいますから」
『それだけで十分よ。まあ、彼女たちからも困った要望が出てきているのだけれど……』
「シルキーたちの要望ですか? 簡単なものなら応じますよ。普段のお礼に」
『牛を飼いたいそうなのよ。乳を搾っていろいろな料理を作るために。あと野菜畑も作りたいそうだわ』
「牛ってなんでしょう? そしてシルキーって家事の妖精なんですよね? なんで野良仕事までしたがっているんですか?」
『牛は食肉として供給されることもあるけれど、その乳を搾って飲んだりいろいろな食品を作ったりできる家畜よ。野菜栽培をしたがっているのは、あなた方に果物以外のお料理を食べさせたがっているのね』
「僕は果物だけでも十分なんですが……」
『シルキーとしてはそれが不満らしいのよ。肉料理はともかく、野菜料理すら食べない……と言うか自分たちの料理を食べてもらえないというのが』
シルキーたちって一体……。
まともな食事を与えられずに生きてきた僕は首をかしげてしまいますし、同じような生活だったリンも困った顔をしています。
ミンストレルもよくわからないような顔をしていますし、少しだけ理解がありそうなのはディーヴァだけですか。
少し彼女に聞いてみましょう。
「ディーヴァ、果実だけの食事というのは問題なのでしょうか?」
「私もいままで用意された食事を食べていただけなのでなんとも言えませんが……里にいた頃は野菜も食べていました。メイヤ様の果実ほど美味しくはなかったのですが、いろいろな味のお野菜がありましたね」
「なるほど。シルキーたちはそれも知ってもらいたいのでしょうか?」
「そこまではわかりかねますが、木の実一辺倒のお食事だけではなく豊かな大地ですのでいろいろと味わっていただきたいのでしょう。……正直に申しますと、ミンストレルにも木の実以外の作物を食べさせてあげたいところです」
「そうなんですね。では、次にフロレンシオへと行ったときには野菜の種苗も買ってきましょうか」
『その方がいいでしょう。私が品種改良をしてあげるから、みずみずしくて苦みが少なく甘い野菜が食べられるわよ。あとは……油の原料にできるような種などがあれば食用油も作ってあげる』
「食用油?」
『オリーブやごまなどを絞って作った食べ物を焼いたりする時の調味料よ。ああ、でも、ローズマリーがいるのだからひまわりを咲かせてもらってその種からひまわり油を作るのが一番早いわね』
「よくわかりませんが……手に入りそうだったら買ってきます」
『そうしてちょうだい。本当は圧搾機とか道具が必要なのだけど、聖霊である私なら素材だけあれば油を作り出すことができるから』
「……聖霊も大概いろいろなことができますよね?」
『聖霊だもの』
メイヤとの付き合いも1年以上ですが植物関係については本当に万能です。
自分で新しい花や木を生み出すことはできないようですが、そちらはアルラウネのローズマリーやドライアドのツリーハウスに任せているようですし。
果物園だって設備は僕が創造魔法で作りましたが、種や苗、苗木を植える以外の作業はすべてメイヤがやってしまいました。
新しいものを生み出すことは苦手なようですが、一度覚えたものを改良するのは得意なようですし、なんというか万能です。
『さて、朝食も食べ終わったところで新しい……と言うか遂に私でもせき止められなくなった問題の解決に出向いてもらいたいの』
「それってひょっとして……」
『アクエリアたちの湖に魚などが住み着かない問題よ。アクエリアも困っていて対処して欲しがっているのよ。力を貸してあげて』
「わかりました。〝狩り〟の対処では散々お世話になっていますし、できる範囲で力になってきます」
「シント、私も行くからね。また、オーバーワークを起こしたら困るもの」
『そこまで無理しなくてもいいのだけれど……ともかく、話を聞いて調査をお願い。それでもだめだったら諦めもつくでしょうし』
はあ、遂に来ましたか。
僕もリンもついでに言えばディーヴァとミンストレルも水場事情には疎いのに。
どうやって解決しましょうか、この難題……。
もちろん、2カ月かけて作りあげた音楽堂も大好評です。
そして、いまはメイヤが徹底的に品種改良を行った果物園が造園され、シルキーたちの小麦畑も完成し、いつの間にか用意してあった酵母を使ったパンも美味しく頂いていました。
……そんなに幻獣や精霊、妖精たちは娯楽や趣味に飢えていたんでしょうか?
とりあえずシルキーが作ったパンをひとつ食べてから朝食へ向かいましょう。
このパンも柔らかくてふっくらしていて美味しいのですが。
「シント、なにを難しい顔をしているの?」
「ああ、いえ。神樹の里のみんなは娯楽に飢えていたのかなと」
「そのことかぁ。確かにそうなのかも。音楽堂もなにかに利用されるたびに満員だって聞くし、幻獣たちって普段はなにをして過ごしていたんだろうね?」
「はい。神樹の里も……僕らの魔力が上がって行っているおかげでものすごく広がっているらしいのですが、あまりみんなが楽しめる施設はなかったと感じて」
「……野生の幻獣や精霊、妖精たちってどうやって過ごしているんだろうね?」
「さあ? メイヤにでも聞いてみましょうか、朝食を食べ終わったら」
「それがいいかも。メイヤ様に聞いてみよう」
僕とリンは途中でディーヴァとミンストレルに合流、4人で神樹の元へと向かいます。
そこで朝食を食べて気になっていたことを聞いてみたのですが、メイヤの答えは意外なものでした。
『幻獣や精霊、妖精たちなんて気ままなものよ? この神樹の里の中でだって住む場所をよく変えているもの』
「そうなんですか?」
『そうよ。そこに音楽堂や美術館、海族館ができたからみんな興味本位で行って楽しんでいるだけ。行く者たちが途絶えることはないでしょうけれど、本来的に幻獣などが娯楽施設で楽しむ方がおかしいのよ』
「なるほど。僕はてっきり神樹の里でやることがないため、みんな退屈しているものだとばかり」
『退屈じゃないけれど、狩りができないのは不満だって言っていたわね。ここって野生動物がいないでしょ? そういった動物たちをときどき食べていた者たちからは要望が出ているわ』
「それって、僕たちが外に出て捕まえてくればいいのでしょうか?」
『気の長い話になるわよ? 野生動物だって自然に増えていくわけじゃないもの。たくさん捕まえてきて数を増やさせて生活圏をつくり、育て上げる。とてもじゃないけれどシントとリンが解決できる問題じゃないわ』
「そうでしたか。では、そういった者たちを一時的に外へと出してあげるのは?」
『それも提案したのだけれど、美味しい果実がたくさん手に入るこの里を離れるのも嫌だって。みんな〝狩り〟に怯えて不安な生活を暮らしていた反動で不満を言っているだけよ。とりあえず無視しておきなさい』
「わかりましたが……本当にいいのですか?」
『いいのよ。ここにいれば食べ物に困ることは無いし、戦闘訓練相手だってたくさんいる。力の弱い者たちも怯えて暮らす不安がない。縄張り争いの必要だってないわ。むしろ、シントとリンの魔力に合わせて里が拡張されていっているせいで自分たちだけが住んでいていいのか困っているくらいよ?』
そうですか、そんな状況だったんですね。
でもそうなると、春頃から出ていた問題は?
「メイヤ、移住希望者の件ってどうなっています?」
『悪意がないか調べて少しずつだけど受け入れているわ。里だけが無駄に広くなって住民ががらがらというのもね……』
「メイヤには苦労をかけています……」
『幻獣などの管理なんて契約者や守護者のあなたたちでもできないでしょう? 里の神樹の聖霊で管理者の私がやるのが一番なの。あまり気にしないでおきなさい』
「そうさせていただきます。……ところで、シルキーの数、増えていませんか?」
『増えたわよ? 美術館に海族館が増えたからそっちの掃除をするためのシルキーを追加で招き入れたわ。彼女たちも掃除のしがいがある建物を任せられて大喜びね』
「……僕の家でも毎朝と夕方に少量ずつパンを焼いていてくれますが、便利に使いすぎていませんか?」
『シルキーは家事ができれば満足な妖精だから放っておきなさいな。感謝しているでしょ?』
「それはもちろん。彼女たちが来てくれてからすべての家事をやらなくても済んでいますから」
『それだけで十分よ。まあ、彼女たちからも困った要望が出てきているのだけれど……』
「シルキーたちの要望ですか? 簡単なものなら応じますよ。普段のお礼に」
『牛を飼いたいそうなのよ。乳を搾っていろいろな料理を作るために。あと野菜畑も作りたいそうだわ』
「牛ってなんでしょう? そしてシルキーって家事の妖精なんですよね? なんで野良仕事までしたがっているんですか?」
『牛は食肉として供給されることもあるけれど、その乳を搾って飲んだりいろいろな食品を作ったりできる家畜よ。野菜栽培をしたがっているのは、あなた方に果物以外のお料理を食べさせたがっているのね』
「僕は果物だけでも十分なんですが……」
『シルキーとしてはそれが不満らしいのよ。肉料理はともかく、野菜料理すら食べない……と言うか自分たちの料理を食べてもらえないというのが』
シルキーたちって一体……。
まともな食事を与えられずに生きてきた僕は首をかしげてしまいますし、同じような生活だったリンも困った顔をしています。
ミンストレルもよくわからないような顔をしていますし、少しだけ理解がありそうなのはディーヴァだけですか。
少し彼女に聞いてみましょう。
「ディーヴァ、果実だけの食事というのは問題なのでしょうか?」
「私もいままで用意された食事を食べていただけなのでなんとも言えませんが……里にいた頃は野菜も食べていました。メイヤ様の果実ほど美味しくはなかったのですが、いろいろな味のお野菜がありましたね」
「なるほど。シルキーたちはそれも知ってもらいたいのでしょうか?」
「そこまではわかりかねますが、木の実一辺倒のお食事だけではなく豊かな大地ですのでいろいろと味わっていただきたいのでしょう。……正直に申しますと、ミンストレルにも木の実以外の作物を食べさせてあげたいところです」
「そうなんですね。では、次にフロレンシオへと行ったときには野菜の種苗も買ってきましょうか」
『その方がいいでしょう。私が品種改良をしてあげるから、みずみずしくて苦みが少なく甘い野菜が食べられるわよ。あとは……油の原料にできるような種などがあれば食用油も作ってあげる』
「食用油?」
『オリーブやごまなどを絞って作った食べ物を焼いたりする時の調味料よ。ああ、でも、ローズマリーがいるのだからひまわりを咲かせてもらってその種からひまわり油を作るのが一番早いわね』
「よくわかりませんが……手に入りそうだったら買ってきます」
『そうしてちょうだい。本当は圧搾機とか道具が必要なのだけど、聖霊である私なら素材だけあれば油を作り出すことができるから』
「……聖霊も大概いろいろなことができますよね?」
『聖霊だもの』
メイヤとの付き合いも1年以上ですが植物関係については本当に万能です。
自分で新しい花や木を生み出すことはできないようですが、そちらはアルラウネのローズマリーやドライアドのツリーハウスに任せているようですし。
果物園だって設備は僕が創造魔法で作りましたが、種や苗、苗木を植える以外の作業はすべてメイヤがやってしまいました。
新しいものを生み出すことは苦手なようですが、一度覚えたものを改良するのは得意なようですし、なんというか万能です。
『さて、朝食も食べ終わったところで新しい……と言うか遂に私でもせき止められなくなった問題の解決に出向いてもらいたいの』
「それってひょっとして……」
『アクエリアたちの湖に魚などが住み着かない問題よ。アクエリアも困っていて対処して欲しがっているのよ。力を貸してあげて』
「わかりました。〝狩り〟の対処では散々お世話になっていますし、できる範囲で力になってきます」
「シント、私も行くからね。また、オーバーワークを起こしたら困るもの」
『そこまで無理しなくてもいいのだけれど……ともかく、話を聞いて調査をお願い。それでもだめだったら諦めもつくでしょうし』
はあ、遂に来ましたか。
僕もリンもついでに言えばディーヴァとミンストレルも水場事情には疎いのに。
どうやって解決しましょうか、この難題……。