「さあ、契約者様と守護者様も飲め飲め! この里一号の酒だ!」

「フロレンシオから買ってきた酒も混じっているけどな! こっちも本当に美味い! 買い付けに行ったベニャトに感謝だな」

「おう! 新しい酒の研究費用も渡してきた! さすがに人間の酒造りだから1年単位の時間はかかるだろうが新しい酒が飲めるかもしれねえぞ!」

 新しいお酒ができたと聞きその宴会に呼ばれた僕とリンですが……完全にペースに着いていけません。

 メイヤも保護者として着いてきてくれていますが、ここまでとは想像していなかったのでしょう。

 頭を抱えてしまっています。

『む、聖霊様に契約者と守護者か。お前たちは加わらないのか?』

『この子たちにはあの輪へ加わるのは無理よ。ドワーフの宴会に加われるようなお酒の飲み方を知らないわ』

「はい。僕たちはお酒なんて飲んだことがありません」

「マイン様のお誘いでもちょっと……」

『それもそうか。端のほうにテーブルをひとつ用意しよう。そこで適当に酒を楽しんで行ってくれ』

「お酒ってエレメンタルエルフには毒と聞きましたが人間やエルフには大丈夫ですか?」

『飲む量を間違えなければな。とりあえず席に着け。あの様子ではこちらに気がつくまい。儂が酒を運んで来る。まずは基本のエールからだな。少量ずつ運んでくるから飲めなくとも気にするな』

 五大精霊であるマインを給仕役に使うのは気が引けますが、あの大宴会の中に加わるのは無理ですし諦めましょう。

 そして持って来てもらったエールですが……。

「苦い……」

「うん……」

『お前たちには合わぬか。では次、ビールというものを持ってこよう』

 次に持ってきてくれたビールものどごしはいいのですがやっぱり苦みがあります。

 リンも同じような感想でしたのでこれもだめでしょう。

『契約者と守護者は酒が苦手なようだ。どれ、次は飲みやすい果実酒を運んでこよう』

 次に運んできてくれたのは、なにか不思議な甘い香りがするお酒。

 これなら飲めそうと思って口をつけたのですが……喉を焼くような感覚がちょっと。

『どうだ? これならいけるか?』

「味は問題ありませんが飲んだあとに喉が焼けるような感覚が……」

「そう? 私はそれも含めて気に入ったけど」

『ふむ。守護者の方が酒には強いようだ。ほかの果実酒もいくつか持ってこよう。そちらも試すといい』

「なんだかすみません、マイン」

『なんのなんの。儂らが巻き込んでしまったのだ、この程度のもてなしはするさ』

 次にマインが運んできてくれたのはいろいろな香りがするお酒を数種類ずつ。

 やっぱり僕は喉を焼く感覚が気になるので一口つけるだけで終わりましたが、その分も含めてリンが飲み干してしまっています。

 大丈夫でしょうか?

『守護者よ。そのような速いペースで強い酒を飲むのは儂ですら感心せんのだが……』

「だいじょうぶれす! 次のお酒を!」

『メイヤ様?』

『これも社会勉強です。リンには恥をかいてもらいましょう』

『そういうことでしたら。次は弱めの果実酒だ。こちらなら契約者でも飲めるかもしれん』

 そう言って次に持ってきてくれたのは香りが先ほどよりも弱いお酒。

 飲んでみると喉を焼く感触も弱いので僕でも少しは飲めそうです。

 僕が一杯飲み干す間にはリンはすべて飲んでしまっていましたが……。

『次で最後にしよう『シードル』というリンゴから作った酒らしい。シュワシュワと泡立っており、一気に飲み干すのは難しいがアルコールはそれほどきつくない。……守護者はかなり酔っているが、契約者がなんとかしてくれ』

 いや、なんとかしてくれと言われましても……。

 僕たちの前に持ってこられたシードルというお酒は薄く色付き、シュワシュワと泡が出ています。

 あ、甘いですし、これなら僕も飲めるかも。

 そう思ってリンの方をみればすでにシードルを飲み干してしまいましたし……。

 マインに別の果実酒を要求していますしなにがなんだか。

 マインも嫌な顔ひとつせず新しいお酒を持ってきてリンに飲ませていますが、本当に大丈夫なんでしょうね?

 目もすごくとろんとしてきていますし……。

「ねえ、シント。シントって私のこと、好き?」

「どうしたんですか、リン?」

「あのね。私はシントのこと好きだよ。もっともっと甘えてほしいくらいに大好き」

「それがどうしたんですか?」

「……寂しいの」

「寂しい?」

「最近シントっていろいろな物作りで私と別行動が多いじゃない。それが寂しい」

「……僕も寂しいですが、仕方がないことでは?」

「それも嫌なの。私は守護者としてもっともっと強くならなくちゃいけないのはわかってる。でも、シントが一緒じゃない時間が多い方が嫌」

「どうしたんですか、リン。急にそんなことを言いだして」

「ともかく私はシントと一緒にいて甘えてもらいたい。だめ?」

「さすがに外で甘えるのはちょっと……」

「じゃあ、家の中とか温泉とかならいい?」

「そのくらいなら」

「やった! シント、大好き!」

 そう言うと急にリンが抱きついてきました。

 そして、そのまま眠ってしまいましたね……。

『あらあら。リンは絡み酒だったようね』

『守護者も甘えたがりのようじゃ。契約者も甘えさせてやれ』

「ええと、この状況はどうすれば?」

『もう連れ帰ってもいいぞ。契約者と守護者が酒を飲んだときの反応が見たかっただけだ』

『シントの酒癖がわからなかったのが残念だけど……シント、あまりお酒は口に合わなかったようね?』

「ええ。シードルというお酒なら少しくらい飲んでもいいかな、程度です」

『その程度がちょうどいい。守護者の嬢ちゃんも二度と深酒はしないだろう』

『あとは今日の出来事を明日覚えているかどうかだけど、二日酔いは確定ね。飲み過ぎた罰として、午前中は気持ち悪さを体感してもらいましょう』

「……メイヤ、怒っています?」

『ちょっとだけ』

 これ、ちょっとだけじゃありませんね。

 とりあえず、眠ってしまったリンは僕が背負って家まで帰ることに。

 メイヤは「お姫様抱っこでもできるでしょう?」と言っていましたが、やり方がわかりませんし、リンの体勢が崩れてもいけないので背負って帰ります。

 そのままベッドに寝かせて、僕は温泉に行き汗を流しリンの待つベッドへと寝転がりました。

 すると、リンが僕のことを重みで見つけたのかぎゅっと力一杯抱きついてきて離してくれません。

 ……今日はこのまま寝てしまいましょうか。


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「ほんっとうにごめんなさい!」

 朝起きてリンが放った最初の声は僕に対する大声での謝罪でした。

「リン、昨日の夜のこと覚えているんですか?」

「……はい、全部覚えています」

「僕にもっと甘えてほしいのも本心ですか?」

「はい、本心です」

「いろいろと作って回るときに寂しいのも?」

「……うん、寂しい」

「修行の時、一緒じゃないのも嫌なんですか?」

「我慢しているよ? シントを守るのが守護者の務めだもん。それでも寂しい……」

「リン。本当にあなたは甘えたがりですね」

「だって、初めて人として扱ってくれたのはシントだったんだもの。ディーヴァは遠いお姫様だったし……」

「わかりました。なるべく僕も訓練に加わります。ただ、里のみんなも大なり小なり要望が出てきているようですし、それを解決するときは一緒にはいられませんよ?」

「そのときは私が付いていく!」

「リン……」

「だって、我慢できなくなっちゃって……」

 そう言えば昨日の夜メイヤは二日酔いがどうのと言っていましたが……どういう意味なんでしょう?

 リンの体調が悪いのでしょうか?

「あと……ものすごく頭が痛いんだけど、これってなに?」

「ああ、それは多分『二日酔い』という症状らしいです。メイヤなら治せるでしょうが、午前中は昨日お酒を飲み過ぎた罰として治してくれないそうですよ」

「……お酒、今後は飲みません」

「僕も飲みませんが……リンは飲みたいのでは?」

「シントが飲まないなら私も飲まない! ……あ、頭が」

「とりあえず、服を着替えたら朝食です。自分で歩いて行ってくださいね」

「シント、おぶっていってくれない?」

「だめです。それも含めて飲み過ぎた罰です」

「今後は絶対にお酒は飲みません……」

 ふらつきながらも朝食の場についたリンは気分が悪いようで少しだけ木の実を食べてあとは全部保管庫にしまいました。

 そのあとメイヤにもがっつり叱られていましたし、リン、本当に反省してください。

 家で甘えたり甘えられたりするのは僕も心地よいので許しますけど。