僕たち3人が神樹の里まで帰り着いたのは夕刻頃、そのままディーヴァとミンストレルが合流して夕食です。
今日はベニャトも一緒ですが。
『ふむ、これからは定期的にフロレンシオに行きたいと』
「そうなります、聖霊様。どうかお許しを」
『シント、リン。あなた方の判断は?』
「毎週とかでなければいいのではないでしょうか? あの街ではよくしてくれた人間もいますし」
「私たち、ヒト族って悪人ばかりだと考えていたものね。ああいう善良な人がいるだなんて思いもしなかったよ」
『なるほど。それではベニャト、1カ月に二度だけフロレンシオに向かうことを許します。ただし、護衛としてシントとリンは必ず連れて行くように』
「え? そんなに行ってもよろしいのですか?」
『シントもリンも人の悪意に触れすぎていました。それを矯正するためにもいい機会です。この里にヒト族は招けませんが社会勉強になるでしょう。ふたりもいいヒト族と悪いヒト族がいることを忘れてはなりませんよ?』
「わかりました」
「気をつけます、メイヤ様」
『よろしい。それで、ベニャト。お酒の醸造装置? でしたか。それを作るためにはどれくらいかかるのです?』
「あー、その。俺が街に出かけられることを知ったそのときから作り始めているのであと2日もあれば完成かと」
『ドワーフはお酒のことになると手が早い。それで、原料になる種苗はどれくらい買ってくることができましたか?』
「はい。これだけでございます」
ベニャトは買ってきた種と苗をテーブルの上に並べました。
それをメイヤはひとつずつ手に取り品定めするように眺めていきます。
『……種や苗の作り方は覚えました。それから適切な栽培方法も。大麦は収穫しなければいけないので刈り取ることになりますがホップとブドウは多年草のようです。あなた方ドワーフに任せると無制限にお酒を造るでしょうから制限させていただきますが、3日に一度くらいは収穫できるように調整してあげましょう』
「えぇ!?」
『私は神樹の聖霊。植物に関することなら大抵のことは可能です。ただ、酵母でしたか。それは生物に関するもの。自分たちで増やしなさい。増やし方も聞いてきたのでしょう?』
「それはもちろん」
『では、そういうことで。シント、あなたは明日私と一緒に畑作りです。一から耕すのではなく創造魔法を使って耕してしまいましょう。そうすれば、すぐにでも育て始めることができます。明日は特別サービスとして私が一気に収穫できるところまで育てます。そのあとは3日後との収穫。あなた方がお酒を飲みたいと言いだしたのですから、それくらいは引き受けなさい』
「はい!」
『では、ベニャトに伝えることは以上です。ドワーフたちの元に帰っていまの話を伝えなさい』
「承知いたしました! 失礼いたします!」
ベニャトは走り去っていきましたが……そんなに飲みたかったのでしょうか、お酒。
『ふう。これでドワーフの不満も解消されるでしょう』
「大丈夫ですか、メイヤ様。3日おきに収穫だなんて」
『無理そうなら一週間毎に頻度を下げるわ。ドワーフのお酒への執念はものすごいから軽々とこなしそうだけれど……』
「あの、メイヤ様。そんなに収穫をできるようにしては土地が痩せ細ってしまうのでは?」
『心配ないわよ、ディーヴァ。神樹の管理する神域だもの。農作物をいくら作ったところで土地が痩せ細ることなんてありはしないから』
「そうでしたか。……それでは、まことに勝手ながら私も食べたいものが」
『なに?』
「イチゴが食べたいのです。その……好きだったもので」
『イチゴね。イチゴ味の木の実は作れるけどそういう問題じゃないでしょう? シントとリン、次にフロレンシオに行ったときイチゴの種も買ってきなさい』
「そうしましょう。ディーヴァとミンストレルはほかに要望がありますか?」
「私はよくわかんない。果物ってあんまり食べたことがないから」
「私もガインの森で出されたものしか……」
『それならベニャトに言って買える範囲で果物の種や苗木などを買ってきなさい。私が果樹園にしてあげるわ』
「よろしいのでしょうか。毎日、食事として神樹様の木の実を頂いているのに……」
『たまには別のものも食べたいでしょう? さすがに肉はどうにもできないけど植物だったらいくらでも栽培してあげるわ。音楽堂の管理でシルキーたちもやってきているし、料理やお菓子作りも彼女たちに任せられるわよ』
「そこまでいろいろ頼るのは気が引けるというか……」
『シルキーって家事妖精なのよ。家事をすることがなによりの喜び。家で食べ過ぎない程度の料理とかをお願いすればもっと喜ぶわよ?』
「……そう言えばシルキーたちが来てから家の中がものすごく綺麗に掃除されていました」
「僕たちの家もですね。昔は創造魔法で掃除をしていたのですが、それよりもいつの間にかピカピカにされています」
そうでしたか、全部シルキーたちの仕業。
お礼をしたいのですが、多分家事をさせた方がお礼になるんでしょうね。
『なんだったら買える範囲の種や苗をすべて買ってきなさい。私がまとめて面倒を見るから。それらを見てシルキーたちにどんな料理が作れるか考えてもらいましょう』
「……投げやりでは?」
『シルキーって家事関連が大好きだからねえ……』
「種を買ってくるのはベニャトにお願いすればどうとでもなるでしょう。彼もお金にはこだわりがないようですし。でも、菜園を作ってどうするんですか? 食べる者がいませんよ?」
『あら、許可さえ出しておけば幻獣や精霊、妖精がおやつ代わりに食べるわよ? 彼らも変わった味には興味を示すでしょうし』
「……本当に投げやりですね」
『そんなものよ。なんだったら菜園の管理をするための者たちを招き入れてもいいし』
メイヤが本当に投げやりです。
なんだか面倒になっているのでは?
「メイヤ、本音を言ってください」
『……シルキーたちからもっと家事がしたいって要望が出ているのよ。ここで暮らしているヒト族ってあなた方4人だけでしょう? あなた方がいない間に掃除や洗濯などはしているらしいけど料理もしたいって』
「……そう言えば洗濯をしていないのに服もピカピカでした」
「私たち、知らない間に毒されちゃってたね」
「そう考えるとシルキーたちのためになにかお仕事を与えるのも悪くはないでしょうね……」
『そういうわけだから、次にフロレンシオへ行くときはいろいろな種や苗を買ってきて。あなた方が太らないような木の実は用意してあげるからシルキーたちにも存分に料理させるわ。あと、パンを焼くときは酵母も必要だからそっちも……シルキーたちなら自家製酵母を作れそうだから問題ないか』
パンですか。
僕は一回も食べたことがありませんがどういう味なんでしょう?
そう考えると料理をしてもらうのも悪くないかもしれません。
ともかく、まずはお酒を造るための準備からですけどね?
今日はベニャトも一緒ですが。
『ふむ、これからは定期的にフロレンシオに行きたいと』
「そうなります、聖霊様。どうかお許しを」
『シント、リン。あなた方の判断は?』
「毎週とかでなければいいのではないでしょうか? あの街ではよくしてくれた人間もいますし」
「私たち、ヒト族って悪人ばかりだと考えていたものね。ああいう善良な人がいるだなんて思いもしなかったよ」
『なるほど。それではベニャト、1カ月に二度だけフロレンシオに向かうことを許します。ただし、護衛としてシントとリンは必ず連れて行くように』
「え? そんなに行ってもよろしいのですか?」
『シントもリンも人の悪意に触れすぎていました。それを矯正するためにもいい機会です。この里にヒト族は招けませんが社会勉強になるでしょう。ふたりもいいヒト族と悪いヒト族がいることを忘れてはなりませんよ?』
「わかりました」
「気をつけます、メイヤ様」
『よろしい。それで、ベニャト。お酒の醸造装置? でしたか。それを作るためにはどれくらいかかるのです?』
「あー、その。俺が街に出かけられることを知ったそのときから作り始めているのであと2日もあれば完成かと」
『ドワーフはお酒のことになると手が早い。それで、原料になる種苗はどれくらい買ってくることができましたか?』
「はい。これだけでございます」
ベニャトは買ってきた種と苗をテーブルの上に並べました。
それをメイヤはひとつずつ手に取り品定めするように眺めていきます。
『……種や苗の作り方は覚えました。それから適切な栽培方法も。大麦は収穫しなければいけないので刈り取ることになりますがホップとブドウは多年草のようです。あなた方ドワーフに任せると無制限にお酒を造るでしょうから制限させていただきますが、3日に一度くらいは収穫できるように調整してあげましょう』
「えぇ!?」
『私は神樹の聖霊。植物に関することなら大抵のことは可能です。ただ、酵母でしたか。それは生物に関するもの。自分たちで増やしなさい。増やし方も聞いてきたのでしょう?』
「それはもちろん」
『では、そういうことで。シント、あなたは明日私と一緒に畑作りです。一から耕すのではなく創造魔法を使って耕してしまいましょう。そうすれば、すぐにでも育て始めることができます。明日は特別サービスとして私が一気に収穫できるところまで育てます。そのあとは3日後との収穫。あなた方がお酒を飲みたいと言いだしたのですから、それくらいは引き受けなさい』
「はい!」
『では、ベニャトに伝えることは以上です。ドワーフたちの元に帰っていまの話を伝えなさい』
「承知いたしました! 失礼いたします!」
ベニャトは走り去っていきましたが……そんなに飲みたかったのでしょうか、お酒。
『ふう。これでドワーフの不満も解消されるでしょう』
「大丈夫ですか、メイヤ様。3日おきに収穫だなんて」
『無理そうなら一週間毎に頻度を下げるわ。ドワーフのお酒への執念はものすごいから軽々とこなしそうだけれど……』
「あの、メイヤ様。そんなに収穫をできるようにしては土地が痩せ細ってしまうのでは?」
『心配ないわよ、ディーヴァ。神樹の管理する神域だもの。農作物をいくら作ったところで土地が痩せ細ることなんてありはしないから』
「そうでしたか。……それでは、まことに勝手ながら私も食べたいものが」
『なに?』
「イチゴが食べたいのです。その……好きだったもので」
『イチゴね。イチゴ味の木の実は作れるけどそういう問題じゃないでしょう? シントとリン、次にフロレンシオに行ったときイチゴの種も買ってきなさい』
「そうしましょう。ディーヴァとミンストレルはほかに要望がありますか?」
「私はよくわかんない。果物ってあんまり食べたことがないから」
「私もガインの森で出されたものしか……」
『それならベニャトに言って買える範囲で果物の種や苗木などを買ってきなさい。私が果樹園にしてあげるわ』
「よろしいのでしょうか。毎日、食事として神樹様の木の実を頂いているのに……」
『たまには別のものも食べたいでしょう? さすがに肉はどうにもできないけど植物だったらいくらでも栽培してあげるわ。音楽堂の管理でシルキーたちもやってきているし、料理やお菓子作りも彼女たちに任せられるわよ』
「そこまでいろいろ頼るのは気が引けるというか……」
『シルキーって家事妖精なのよ。家事をすることがなによりの喜び。家で食べ過ぎない程度の料理とかをお願いすればもっと喜ぶわよ?』
「……そう言えばシルキーたちが来てから家の中がものすごく綺麗に掃除されていました」
「僕たちの家もですね。昔は創造魔法で掃除をしていたのですが、それよりもいつの間にかピカピカにされています」
そうでしたか、全部シルキーたちの仕業。
お礼をしたいのですが、多分家事をさせた方がお礼になるんでしょうね。
『なんだったら買える範囲の種や苗をすべて買ってきなさい。私がまとめて面倒を見るから。それらを見てシルキーたちにどんな料理が作れるか考えてもらいましょう』
「……投げやりでは?」
『シルキーって家事関連が大好きだからねえ……』
「種を買ってくるのはベニャトにお願いすればどうとでもなるでしょう。彼もお金にはこだわりがないようですし。でも、菜園を作ってどうするんですか? 食べる者がいませんよ?」
『あら、許可さえ出しておけば幻獣や精霊、妖精がおやつ代わりに食べるわよ? 彼らも変わった味には興味を示すでしょうし』
「……本当に投げやりですね」
『そんなものよ。なんだったら菜園の管理をするための者たちを招き入れてもいいし』
メイヤが本当に投げやりです。
なんだか面倒になっているのでは?
「メイヤ、本音を言ってください」
『……シルキーたちからもっと家事がしたいって要望が出ているのよ。ここで暮らしているヒト族ってあなた方4人だけでしょう? あなた方がいない間に掃除や洗濯などはしているらしいけど料理もしたいって』
「……そう言えば洗濯をしていないのに服もピカピカでした」
「私たち、知らない間に毒されちゃってたね」
「そう考えるとシルキーたちのためになにかお仕事を与えるのも悪くはないでしょうね……」
『そういうわけだから、次にフロレンシオへ行くときはいろいろな種や苗を買ってきて。あなた方が太らないような木の実は用意してあげるからシルキーたちにも存分に料理させるわ。あと、パンを焼くときは酵母も必要だからそっちも……シルキーたちなら自家製酵母を作れそうだから問題ないか』
パンですか。
僕は一回も食べたことがありませんがどういう味なんでしょう?
そう考えると料理をしてもらうのも悪くないかもしれません。
ともかく、まずはお酒を造るための準備からですけどね?