僕が村を追い出され、メイヤの宿る神樹を育ててメイヤと契約してから5日間、今日でちょうど一週間です。
その間も、創造魔法で様々なものを作りあげていき、生活環境を整えていきました。
メイヤはいつの間にか、僕のスキル限界値を上げる神樹の実や新しいスキルを覚えるための実を食べさせていたらしく、そちらも非常に有効活用しています。
特に役立っているのは『錬金術』でした。
ある物質と別の物質を融合させることで別のものを生み出すという技術ですが、これがいろいろできて面白い。
特に傷を癒すためのポーション関係と弱った体を回復させる栄養剤関係は作り置きしておき、いざと言うために備えておきます。
メイヤに言わせれば「そんなものより神樹の実を食べさせた方が早いし効率もいい!」って言っていましたけど、固形物を食べられないほど弱っている者が来た場合どうするのかを聞くとさすがに言葉に詰まりましたね。
メイヤ、神樹であることに誇りを持つことは構いませんが、なんでも解決できるとは限りませんよ?
ポーション素材として神樹の木の実や神樹の葉なども使用させていただいているので強くは言えませんが、状況に応じた対応を取れるようにしておきましょう。
この地を訪れる者はさほど多くないでしょうけどね。
そんなことを考えながらもう数日時は過ぎ各種回復薬も揃ってきた頃、メイヤがやってきて警告が発せられました。
『シント、この森の……いえ、この神樹の結界側まで来ている人がいるわ。どうする?』
「この神樹って悪い人には見えないし近づけないんですよね?」
『まあ、そうだけど……契約主の許可なく勝手に招き入れるのもね』
「困っている方なら助けてあげましょう。食料と回復薬だけでしたら渡せますし」
『わかった。その人が入ってくることができるように招き入れるわ』
メイヤが「招き入れる」と言って出て行ってから少し経つと森の中からボロボロの姿をした少女が姿を現しました。
彼女が今回、結界の側まで来ていた訪問者でしょうか?
ともかく、怪我も酷そうですし回復してあげないと。
メイヤの覚えさせてくれたスキルの中には〝命魔法〟という伝説級のスキルも含まれていたんですよね……。
これ、身体欠損すら治せるという伝承なんですが、メイヤはどこを目指させているのか。
「あの、大丈夫ですか?」
「お前、誰だ!?」
「ああ、ここの主……らしいです。お怪我が酷いですが治療したいので近くによっても大丈夫ですか?」
「だめだ! 私の近くに寄ったら……」
「え?」
「う……うわぁぁ!?」
『危ない!』
少女から突然放たれた様々な魔法。
僕に向かってくるものはすべてメイヤが間に割り込んではじき落としてくれましたが……放たれた数や周囲の状況を見る限りかなり危険な魔法だったようです。
焼け焦げた地面などはすぐにメイヤが修復しましたが、この少女はなぜこのような真似を?
「メイヤ、その少女は?」
『深刻な魔力枯渇で気絶しているわ。ただ、傷も酷いしここにくるまでの間も相当出血しているようだから傷だけでも治さないとこのまま衰弱死ね。シント、命魔法で回復してあげて』
「ポーションは?」
『下手に使うと魔力も回復しちゃうからだめ。この子には申し訳ないけど魔力枯渇が抜ける前に起きて事情を聞くわ。また魔法を使われちゃたまらないもの』
「わかりました。それでは失礼して……《ピュアライト》」
命魔法でも中程度の回復力を持つ回復魔法|《ピュアライト》を使います。
この魔法のすごいところは失われた血液なども回復してくれるところなんですよね。
それに伴い魔力消費も激しいのですが……メイヤの魔力増強の実を毎食食べている僕にとってはもうすでに誤差の範囲です。
……僕の魔力量、すでに大魔術師クラスでは?
『よし、傷口もすべて塞がっているわ。この子には申し訳ないけれど、シントの命魔法の実験台になってくれて助かったわね』
「本当に失礼ですよ、メイヤ」
『いきなり初対面の相手に攻撃魔法を乱発する相手よりもマシよ。それじゃあ、起こすわよ』
メイヤ、攻撃魔法を使われたことに相当腹を立てているみたいです。
あのままでは危なかったですし……仕方がないのかもしれません。
「あ……ここは……?」
『気がついたかしら?』
「あ、はい。その、ものすごく気持ち悪いですが……」
『深刻な魔力枯渇は回復してあげなかったからね。目だけ覚まさせたの。傷は回復させたから心配しないで』
「深刻な魔力枯渇……そうだ、あの少年!」
「僕なら大丈夫です」
「あ、よかった……また、間違って他人を傷つけたんじゃないかと考えたら怖くて……」
『間違って他人を傷つける?』
「……はい。私、属性魔法の才能しかないサードエルフなんです。それで、魔力封印の枷をはめられて森からも追放されたのですが、その枷も2年しないうちに壊れてしまい」
「サードエルフ?」
「ああ、人間族は知らないですよね。エルフ族にとっても汚点なんですから。サードエルフとはハーフエルフと純血のエルフの間に生まれたエルフの血を4分の3引いた子供のことを指します。魔法の才能は極めて高くなるのですが、コントロール能力はまるっきり失ってしまい制御できません。もし、森でサードエルフが生まれてもその子供は厳重に隔離されて一生を過ごします。寿命はエルフ族のように長命種ではなく人間族のような短命種ですから……」
「それが汚点?」
「エルフにとってはハーフエルフと恋に落ちる純血のエルフがいる時点で汚点なんです。そして、その子供は最大の忌み子。発覚すれば親は処刑され子供は隔離されます。私も親の顔は知りません」
なんと酷い……。
たったそれだけで子供を無碍に扱うだなんて。
『あなたが忌み子なのはわかったわ。それがなぜ森の中にいたの? それもあんなボロボロの姿で』
「……サードエルフは兵器なんです。森に凶悪な魔獣が迫ってきたときその命と引き換えに森を守るための。私も5年前に森を魔獣の群れに襲われそうになったとき兵器として放たれました。ほかのみんなが魔獣に襲われ喰われていく中、私は必死に生きあがこうとして……才能を開花させてしまったんですよ。私の放った魔法によって魔獣の群れは全滅しました。ほかのみんなを巻き込んで」
「それは……」
「その結果、私だけが生き残りましたが、私の感情が少しでも揺らぐと魔法を暴発するようになってしまい、強力な魔法封印の枷をはめられて森からの追放処分です。そのあとは……人間の奴隷狩りなどから逃げ回りながら暮らし、魔力封印の枷も私の魔力に耐えきれずに崩れ落ち、必死に生き繋いできました。そして、この近辺までたどり着くと、天まで届く巨大な樹が見えたのでそれを目印に歩いてきたんです。……まさか先住者がいて、その方を殺しかけてしまうなど夢にも思いませんでしたが」
『まったくね。とんだ暴力娘だわ』
「……申し訳ありません」
「メイヤも落ち着いて。それで、あなたのお名前は?」
「失礼しました。名乗っていませんでしたね。リンと申します。森は追放されてしまったので、森の名前は言えません」
「僕はシントです。いまでも信じられませんがあちらにある巨木、神樹の契約者……らしいですね。そちらにいるのはメイヤ。神樹の聖霊ですよ」
「聖霊様でしたか!? そうとはつゆ知らずとんだご無礼を!」
『シントに魔法を放ったこと以外は気にしていないから許すわ。それにしても魔力暴走を抑えられないサードエルフ。困ったものね』
「メイヤはサードエルフについて知っているんですか?」
『これでも300年生きているから幻獣や精霊たちとも親交があるわ。エルフどもが純血のエルフとハーフエルフが恋に落ちるのを黙って見逃し、子供が生まれたらそれを奪い取って兵器として利用する。それがサードエルフだと聞いているわね。ちなみに、短命種だというのも嘘。エルフよりも長命種よ。兵器として使い潰されるから早死にさせられているだけでね』
「そんな……」
「メイヤ……いい方を……」
『私はただ事実を言っただけよ。それで、リンと言ったかしら。あなたはどうするの?』
「え?」
『あなたはこの地のことを知ってしまった。悪意がある者はこの地にたどり着くことができないのだけれど、それでも邪魔なヒト族がわんさか集まってくるのは面倒なの。傷の治療は終わっているから出ていくなら問題ないはずよ。それとも、ここに留まる?』
「お許しいただけるのですか? 聖霊様?」
『許すか許さないかを決めるのはシントよ。私はシントの契約聖霊。この地はシントの契約神域。すべてはシントの決めることだもの』
「……シント様! この神域の端で構いません! どうかここで過ごさせてください! 差し出せるものでしたら何でも差し出します! どうかよろしくお願いいたします!」
『ですって。どうするの、シント?』
どうする、ですか……。
僕も助けてあげたいですが、魔力暴走だけは起こさないように治さないとお互いに危険ですよね。
『ちなみに、シント。あなたが望むなら、その子の魔力暴走も抑える果実を作ってあげるわ』
「え!?」
『シントのことだもの、懸念点はそれくらいでしょう。私としてもシントを怪我させるような暴力娘は側に置きたくないもの。その程度のサポートはしてあげる。ああ、あと、その汚れた服は交換ね。ここで暮らすなら私のお友達から新しい服をもらってくるから』
「なるほど。魔力暴走もなくなるのでしたら問題ないです。それでは、リンさん。一緒に暮らしましょう。メイヤしか話し相手もいなくて寂しかったんです」
「ありがとうございます! シント様!」
「シントで結構ですよ。口調もかしこまったものでなくても構いません」
「そういうわけには……」
『主の命令だと考えて受け入れなさい。それから、あなたが最初に食べなくちゃいけない果実がこのふたつ。先に食べるのが白い果実でスキル限界値を上げる果実。ふたつ目が桃色の果実で〝魔力暴走封印〟を覚えられる果実よ。ただ、〝魔力暴走封印〟を覚えてしまうと最大魔法出力にも影響するからそこは訓練で勘を取り戻して』
「はい! ありがとうございます、メイヤ様!」
リンさんは勢いよくふたつの果実にかぶりつき、すぐに食べ終わってしまいました。
食べ終わったあとに話を聞くと、ここ数日はまともに食事もできていなかったらしく相当お腹が空いていたらしいです。
メイヤにお願いしてほかの果実も用意してもらいましたが……これ、絶対に普通の果実ではなくスキルを覚えるための果実ですね。
魔力暴走は収まるようですし驚く程度は我慢していただきましょう。
実際に僕が作ったマジックポーションを飲んでも魔法は暴発しなくなりましたから、もう不本意な魔法は発動しないはずです。
泣いて喜んでいるあたり、相当辛かったんでしょうね……。
これからは楽しく一緒に暮らしていきたいです。
その間も、創造魔法で様々なものを作りあげていき、生活環境を整えていきました。
メイヤはいつの間にか、僕のスキル限界値を上げる神樹の実や新しいスキルを覚えるための実を食べさせていたらしく、そちらも非常に有効活用しています。
特に役立っているのは『錬金術』でした。
ある物質と別の物質を融合させることで別のものを生み出すという技術ですが、これがいろいろできて面白い。
特に傷を癒すためのポーション関係と弱った体を回復させる栄養剤関係は作り置きしておき、いざと言うために備えておきます。
メイヤに言わせれば「そんなものより神樹の実を食べさせた方が早いし効率もいい!」って言っていましたけど、固形物を食べられないほど弱っている者が来た場合どうするのかを聞くとさすがに言葉に詰まりましたね。
メイヤ、神樹であることに誇りを持つことは構いませんが、なんでも解決できるとは限りませんよ?
ポーション素材として神樹の木の実や神樹の葉なども使用させていただいているので強くは言えませんが、状況に応じた対応を取れるようにしておきましょう。
この地を訪れる者はさほど多くないでしょうけどね。
そんなことを考えながらもう数日時は過ぎ各種回復薬も揃ってきた頃、メイヤがやってきて警告が発せられました。
『シント、この森の……いえ、この神樹の結界側まで来ている人がいるわ。どうする?』
「この神樹って悪い人には見えないし近づけないんですよね?」
『まあ、そうだけど……契約主の許可なく勝手に招き入れるのもね』
「困っている方なら助けてあげましょう。食料と回復薬だけでしたら渡せますし」
『わかった。その人が入ってくることができるように招き入れるわ』
メイヤが「招き入れる」と言って出て行ってから少し経つと森の中からボロボロの姿をした少女が姿を現しました。
彼女が今回、結界の側まで来ていた訪問者でしょうか?
ともかく、怪我も酷そうですし回復してあげないと。
メイヤの覚えさせてくれたスキルの中には〝命魔法〟という伝説級のスキルも含まれていたんですよね……。
これ、身体欠損すら治せるという伝承なんですが、メイヤはどこを目指させているのか。
「あの、大丈夫ですか?」
「お前、誰だ!?」
「ああ、ここの主……らしいです。お怪我が酷いですが治療したいので近くによっても大丈夫ですか?」
「だめだ! 私の近くに寄ったら……」
「え?」
「う……うわぁぁ!?」
『危ない!』
少女から突然放たれた様々な魔法。
僕に向かってくるものはすべてメイヤが間に割り込んではじき落としてくれましたが……放たれた数や周囲の状況を見る限りかなり危険な魔法だったようです。
焼け焦げた地面などはすぐにメイヤが修復しましたが、この少女はなぜこのような真似を?
「メイヤ、その少女は?」
『深刻な魔力枯渇で気絶しているわ。ただ、傷も酷いしここにくるまでの間も相当出血しているようだから傷だけでも治さないとこのまま衰弱死ね。シント、命魔法で回復してあげて』
「ポーションは?」
『下手に使うと魔力も回復しちゃうからだめ。この子には申し訳ないけど魔力枯渇が抜ける前に起きて事情を聞くわ。また魔法を使われちゃたまらないもの』
「わかりました。それでは失礼して……《ピュアライト》」
命魔法でも中程度の回復力を持つ回復魔法|《ピュアライト》を使います。
この魔法のすごいところは失われた血液なども回復してくれるところなんですよね。
それに伴い魔力消費も激しいのですが……メイヤの魔力増強の実を毎食食べている僕にとってはもうすでに誤差の範囲です。
……僕の魔力量、すでに大魔術師クラスでは?
『よし、傷口もすべて塞がっているわ。この子には申し訳ないけれど、シントの命魔法の実験台になってくれて助かったわね』
「本当に失礼ですよ、メイヤ」
『いきなり初対面の相手に攻撃魔法を乱発する相手よりもマシよ。それじゃあ、起こすわよ』
メイヤ、攻撃魔法を使われたことに相当腹を立てているみたいです。
あのままでは危なかったですし……仕方がないのかもしれません。
「あ……ここは……?」
『気がついたかしら?』
「あ、はい。その、ものすごく気持ち悪いですが……」
『深刻な魔力枯渇は回復してあげなかったからね。目だけ覚まさせたの。傷は回復させたから心配しないで』
「深刻な魔力枯渇……そうだ、あの少年!」
「僕なら大丈夫です」
「あ、よかった……また、間違って他人を傷つけたんじゃないかと考えたら怖くて……」
『間違って他人を傷つける?』
「……はい。私、属性魔法の才能しかないサードエルフなんです。それで、魔力封印の枷をはめられて森からも追放されたのですが、その枷も2年しないうちに壊れてしまい」
「サードエルフ?」
「ああ、人間族は知らないですよね。エルフ族にとっても汚点なんですから。サードエルフとはハーフエルフと純血のエルフの間に生まれたエルフの血を4分の3引いた子供のことを指します。魔法の才能は極めて高くなるのですが、コントロール能力はまるっきり失ってしまい制御できません。もし、森でサードエルフが生まれてもその子供は厳重に隔離されて一生を過ごします。寿命はエルフ族のように長命種ではなく人間族のような短命種ですから……」
「それが汚点?」
「エルフにとってはハーフエルフと恋に落ちる純血のエルフがいる時点で汚点なんです。そして、その子供は最大の忌み子。発覚すれば親は処刑され子供は隔離されます。私も親の顔は知りません」
なんと酷い……。
たったそれだけで子供を無碍に扱うだなんて。
『あなたが忌み子なのはわかったわ。それがなぜ森の中にいたの? それもあんなボロボロの姿で』
「……サードエルフは兵器なんです。森に凶悪な魔獣が迫ってきたときその命と引き換えに森を守るための。私も5年前に森を魔獣の群れに襲われそうになったとき兵器として放たれました。ほかのみんなが魔獣に襲われ喰われていく中、私は必死に生きあがこうとして……才能を開花させてしまったんですよ。私の放った魔法によって魔獣の群れは全滅しました。ほかのみんなを巻き込んで」
「それは……」
「その結果、私だけが生き残りましたが、私の感情が少しでも揺らぐと魔法を暴発するようになってしまい、強力な魔法封印の枷をはめられて森からの追放処分です。そのあとは……人間の奴隷狩りなどから逃げ回りながら暮らし、魔力封印の枷も私の魔力に耐えきれずに崩れ落ち、必死に生き繋いできました。そして、この近辺までたどり着くと、天まで届く巨大な樹が見えたのでそれを目印に歩いてきたんです。……まさか先住者がいて、その方を殺しかけてしまうなど夢にも思いませんでしたが」
『まったくね。とんだ暴力娘だわ』
「……申し訳ありません」
「メイヤも落ち着いて。それで、あなたのお名前は?」
「失礼しました。名乗っていませんでしたね。リンと申します。森は追放されてしまったので、森の名前は言えません」
「僕はシントです。いまでも信じられませんがあちらにある巨木、神樹の契約者……らしいですね。そちらにいるのはメイヤ。神樹の聖霊ですよ」
「聖霊様でしたか!? そうとはつゆ知らずとんだご無礼を!」
『シントに魔法を放ったこと以外は気にしていないから許すわ。それにしても魔力暴走を抑えられないサードエルフ。困ったものね』
「メイヤはサードエルフについて知っているんですか?」
『これでも300年生きているから幻獣や精霊たちとも親交があるわ。エルフどもが純血のエルフとハーフエルフが恋に落ちるのを黙って見逃し、子供が生まれたらそれを奪い取って兵器として利用する。それがサードエルフだと聞いているわね。ちなみに、短命種だというのも嘘。エルフよりも長命種よ。兵器として使い潰されるから早死にさせられているだけでね』
「そんな……」
「メイヤ……いい方を……」
『私はただ事実を言っただけよ。それで、リンと言ったかしら。あなたはどうするの?』
「え?」
『あなたはこの地のことを知ってしまった。悪意がある者はこの地にたどり着くことができないのだけれど、それでも邪魔なヒト族がわんさか集まってくるのは面倒なの。傷の治療は終わっているから出ていくなら問題ないはずよ。それとも、ここに留まる?』
「お許しいただけるのですか? 聖霊様?」
『許すか許さないかを決めるのはシントよ。私はシントの契約聖霊。この地はシントの契約神域。すべてはシントの決めることだもの』
「……シント様! この神域の端で構いません! どうかここで過ごさせてください! 差し出せるものでしたら何でも差し出します! どうかよろしくお願いいたします!」
『ですって。どうするの、シント?』
どうする、ですか……。
僕も助けてあげたいですが、魔力暴走だけは起こさないように治さないとお互いに危険ですよね。
『ちなみに、シント。あなたが望むなら、その子の魔力暴走も抑える果実を作ってあげるわ』
「え!?」
『シントのことだもの、懸念点はそれくらいでしょう。私としてもシントを怪我させるような暴力娘は側に置きたくないもの。その程度のサポートはしてあげる。ああ、あと、その汚れた服は交換ね。ここで暮らすなら私のお友達から新しい服をもらってくるから』
「なるほど。魔力暴走もなくなるのでしたら問題ないです。それでは、リンさん。一緒に暮らしましょう。メイヤしか話し相手もいなくて寂しかったんです」
「ありがとうございます! シント様!」
「シントで結構ですよ。口調もかしこまったものでなくても構いません」
「そういうわけには……」
『主の命令だと考えて受け入れなさい。それから、あなたが最初に食べなくちゃいけない果実がこのふたつ。先に食べるのが白い果実でスキル限界値を上げる果実。ふたつ目が桃色の果実で〝魔力暴走封印〟を覚えられる果実よ。ただ、〝魔力暴走封印〟を覚えてしまうと最大魔法出力にも影響するからそこは訓練で勘を取り戻して』
「はい! ありがとうございます、メイヤ様!」
リンさんは勢いよくふたつの果実にかぶりつき、すぐに食べ終わってしまいました。
食べ終わったあとに話を聞くと、ここ数日はまともに食事もできていなかったらしく相当お腹が空いていたらしいです。
メイヤにお願いしてほかの果実も用意してもらいましたが……これ、絶対に普通の果実ではなくスキルを覚えるための果実ですね。
魔力暴走は収まるようですし驚く程度は我慢していただきましょう。
実際に僕が作ったマジックポーションを飲んでも魔法は暴発しなくなりましたから、もう不本意な魔法は発動しないはずです。
泣いて喜んでいるあたり、相当辛かったんでしょうね……。
これからは楽しく一緒に暮らしていきたいです。