ミンストレルの屋外ステージが完成した翌日、いよいよ〝音楽堂〟を作り始めます。

 作り始めるのですが……そのとき見本として渡された素材がちょっと。

「……本当にこれを使って〝音楽堂〟を作るのですか?」

『当然だ。あれほどの歌姫たちが使う音楽堂、見栄えもよくなければ』

「ちなみにこの鉱石。僕の神眼ではクリスタルと出ているのですが……」

『クリスタルよ?』

「どこから持ってきたのですか?」

『私たちのねぐらの側にいいクリスタルが産出できる場所があったのだ。そこから特に透明度の高いものを用意してきた』

「これで〝音楽堂〟を作れと?」

『外観はな。完成したあとは我々が強固な結界魔法を施す。我らでさえ傷つけることが不可能なほどの結界だ。傷ひとつ付かないぞ』

「それはありがたいのですが……これで送られてきたイメージ通りの外観を作るのですよね? 1回作るだけでも魔力枯渇を起こすのですが……」

『魔力回復用のポーションは山ほど持っていると聞くわ。頑張りなさい』

「……はい」

 このクリスタル、神眼で調べた限りかなり特別製なんですよね。

 これ自体、魔力親和度が異常に高く、普通のクリスタルなんかよりもはるかに強固。

 これを創造魔法で複製して送られてきただけの大ホールを作るとは……。

 ともかく嘆いてばかりもいられません。

 始めましょう。

 今日一日でできれば運がよかったと考えて……。


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『ふむ。大分形にはなってきているのだが、まだまだ甘いな』

『そうだな。可能な限り外観は整えたい』

『大型の幻獣なども出入りするんだもの、初めはしっかり整えないとね』

 ……やっぱり初日ではだめでしたか。

 ええ、わかっていましたとも。

 こうなることくらい。

『もう日が暮れる。続きは明日だな』

『そうしよう。ではな、契約者』

『明日も頑張りましょう』

「……はい」

 僕は夕食を食べ終え、温泉に入っているときと寝るときはリンに甘えきり、毎朝になると朝食と昼食以外は〝音楽堂〟作りを続けます。

 そんな日々が5日間、つまり一週間続いた頃、ようやくドラゴン達から合格が出ました。

『これならばよかろう』

『内部で混み合うこともないはずだ』

『ご苦労様。第一段階は終了ね』

「……第一段階?」

『扉もなしに放置するのか?』

『幻獣や精霊相手といえども見栄えが悪いぞ』

『魔力を通したら自動で開閉する仕組みのドアを作るわ。同じクリスタル製でね』

「……ああ、入口のところに妙な隙間があったのはそう言う意味ですか」

『そういうことだ。外箱には結界魔法を施した。これで誰も傷つけられない』

『さあ、扉作りだぞ。気を抜くな』

『妖精たちでも開閉できるような微弱な魔力にも反応しなくちゃだめよ?』

「……はい」

 この魔力開閉式の扉、調整がなかなか難しい。

 少しでも強くしようとすると精霊クラスの魔力でなければ開かないようになってしまい、弱くしすぎると近くを妖精が飛んだだけでも開くようになってしまう。

 結局、この扉の調整にも一週間かけ、ここまで2週間かけた計算です。

 リンは僕が毎日甘えてくれることに上機嫌ですが……僕は疲れ切っていますよ?

 そして、翌日は更に面倒なことを依頼されました。

『外箱はできた。出入り口の扉もできた。あとは内部の遮熱処理だな』

「遮熱処理?」

『この神樹の里では常春なのだろうが日差しを受け続ければ室内の温度はぐんぐん上がって行く。そうならないために外部からの熱をある程度通さないための遮熱処理が必要なのだ』

『そうね。音楽堂本体は木製だもの。魔法仕掛けの空調設備や結界魔法もつけるけれど、不快な場所はない方がいいに決まっているわ』

「あなた方だけで施す、と言う選択肢はないんですね……」

『我々がいなくなったあとの管理は基本お前の仕事だ。音楽堂の掃除にはシルキーを使えばいいがそれ以外の管理は自力でできるようにせよ』

「……はい。わかりました」

 遮熱処理の魔法はそこまで難しいものでもなく、3日で終わりました。

 終わりましたが……確かに〝音楽堂〟の内部は暑かったです。

 汗だくになりながらの作業は想像以上に体力を消耗していたようで、リンには「温泉に入りながら寝ていたよ?」とまで言われる始末。

 汗は綺麗さっぱり流せるのですが、とにかく疲れています。

 寝るときのリンの匂いが心地いい……。