僕とリンが幻獣などの閉じ込められた檻を見張るようになってしばらく、ようやく檻を動かし始めました。

「あ、檻が移動を始めたよ」

「まだですよ。護衛の兵士は山ほど残っています」

 僕たちはそのまま檻と一緒に移動を開始、たどり着いたのは……どこかの地下にある空間でしょうか?

 幻獣などが入った檻はその奥のスペースに並べられ、先ほどよりも少ない兵士が守りについています。

 そして、それを見つめるように段差になった半円状の……見物席というものでしょうか?

 そこには豪華な身なりをした人間たちが大勢集まっていました。

 そして、最上段にある席には更に豪華な身なりをした男女が数名。

 ここは一体?

「さあさあ、お待たせいたしました! 幻獣や精霊、妖精たちの販売会を始めたいと思います!」

 この近くに立っていた男がそんな宣言をしました。

 やはりここは幻獣たちを売りさばく場所でしたか。

「司会は私、創造魔法使い『トマージュ』が担当させて頂きます! 下等な幻獣どもの首には〝強制従属の首輪〟がはまっておりますのでお買い上げ頂いた皆様に逆らうことはできません! 観賞用に使うなり気晴らしにもてあそぶなりご自由にどうぞ!」

 トマージュとか言う男の宣言にリンが怒りを貯め込んでいくのがわかりますがいまは堪えさせます。

 影の軍勢たちが動き始めたら僕たちも行動開始なのですから。

「さて、まずは商品番号1番! マンティコアからです!」

 マンティコア……外で暴れ狂っていますが、あのような危険な幻獣まで捕まえていましたか。

「さて、このマンティコアを捕まえるには大変苦労いたしました! なので、金額もミスリル貨100枚からのスタートとさせていただきます!」

〝ミスリル貨〟と言うのが里暮らしの僕たちにはわかりませんがそろそろ行動を始めてもいいでしょう。

 僕は右手を掲げ振り下ろします。

 それと同時に影の軍勢たちが行動を開始、この会場全体が薄暗いためその闇に便乗して様々な方法で豪華な身なりを整えた人間たちを始末していきました。

「な、なんですか、これは!? 一体なんの騒ぎです!?」

 慌てて衛兵たちが駆け出し事態を鎮圧させようと動き始めましたが、そちらの方が都合のいい。

 僕とリンが持っていた魔剣で衛兵たちを真っ二つにして走り出しました。

「な、なんだ!? なにが起こってる!?」

「トマージュ様、創造魔法を! このステージにも賊が侵入しておりま……」

 とりあえずなにかを言い出しそうだった男の首もはね、増援でやってきた衛兵たちも魔剣でまとめて命を刈り取ります。

 ……昔は血の臭いだけでも体調を崩していたのに、いまでは自分から相手を殺しても気にしなくなるとは。

 成長したのか、感覚が麻痺してしまったのか、わかりませんね。

 増援の兵士が出てこなくなったタイミングで檻を創造魔法ですべて消し去り、〝強制従属の首輪〟をマインからもらったナイフで切り落としていきます。

 首輪を失った幻獣や精霊たちは力を取り戻し、その本来の凶暴さを発揮して周囲にいる者たちを攻撃し始めました。

 豪華な身なりをした者たちはそれによってほぼ皆殺しにされ、最も高いところにいたより豪華な身なりをした人間たちも影の軍勢によって逃げ場を塞がれているようです。

 ただ、あの場には対抗装備を持った兵士たちがいて完全に制圧できていない様子。

 僕は残っていた幻獣たちも呼び出して増援に向かわせました。

「……幻獣を召喚だと!? やはり侵入者か! 姿を現せ!」

 今更のようにトマージュと呼ばれていた男が創造魔法を使い僕とリンの鎧にかかっていた透明化の効果をかき消しました。

 それによって僕たちの姿も露わになったわけですが……すでに勝敗は決していますし大差ないでしょう。

「なんだお前たちは! どこから入り込んだ!?」

「幻獣たちの檻が運び込まれるとき、一緒に入ってきましたよ」

「その前から幻獣たちと一緒にいたけどね! 本当に腹が立つわ!!」

「そんな時からいただと! 嘘をつくな! 私の創造魔法を欺くなど……」

「創造魔法、使っていなかったじゃないですか」

「私たちが幻獣のみんなを召喚して始めて使ったものね」

「うるさい、うるさい、うるさい! 名を名乗れ!」

 この男、意味がわかっているのでしょうか?

 この場で名前を聞いたところで意味などないことに……。

 僕もリンも、より高出力の創造魔法で身を守られているのですが……。

「まあ、あなたの最期です名乗っておきましょうか。僕はある里の契約者、シントです」

「私は守護者のリンよ。すぐにお別れするけどよろしくね?」

「くっくっく! 名を名乗ったな! 行け、〝強制従属の首輪〟よ! あの者たちを捕らえよ!」

 ああ、やっぱりそれですか。

 事前にメイヤから話を聞いていましたけども本当に使ってくるとは。

 ……それにしても〝強制従属の首輪〟にしては魔力が薄すぎるような?

 ともかく、僕たちにあたった〝強制従属の首輪〟……の出来損ないのようなものはより強い創造魔法によって守られている僕たちに触れた瞬間、崩れ落ちました。

 無様ですね。

「なんだと!? 私の〝強制従属の首輪〟が通じない!? 精霊だって従えられるのに!!」

「精霊? 幻獣は?」

「幻獣は別のお方の担当だ! それにしてもどこかの里の田舎者が私をコケにするなど100年早いわ! お前の里の広さなど雀の涙程度だろう! 私が国王様から頂いた領地では私が創造したトメィトがトメィト畑で毎日たくさん収穫されている! それはそのまま食べてもよし! 飲み物にしてもよし! パンの材料にしてもよしなのだ! その収益金はお前の里の収益などとは桁外れに大きいぞ!」

「……ねえ、シント。この男は一体なにを言い出したの?」

「……さあ? とりあえず、そろそろ退場してもらいましょうか」

「そうだね。私が魔弓で頭を吹き飛ばしてもいい?」

「……どうせなら腹を吹き飛ばしましょう。死ぬまでもがき苦しんでもらうように」

「わかったよ。それじゃあ、始めるね」

 リンは保管庫からマインの新しく作った弓を取り出してトメィトと自慢していたトマージュとかいう男に向けました。

 ですが、トマージュはまったく怯んでいませんね?

「ふん! 魔弓だかなんだか知らないが私の創造魔法の防壁を破れると思うな、小娘!」

「試せばわかるわよ!」

 リンが放った魔弓の一射。

 それだけでトマージュの腹には大きな穴が開き大量の血がこぼれ落ちました。

「え? 私の創造魔法が通用しない? それに傷の回復もできないだなんて?」

「創造魔法では大怪我の回復は無理ですよ。そのまま死になさい。愚か者」

「そんな……私はこの国第二位の創造魔法使いだぞ? 私が失われればこの国の損失に……」

「知ったこっちゃないわね。幻獣たちをもてあそんだ罪、その身で償いなさい」

「嫌だ、私が死ねば私のトメィト畑はどうなる? 私の収益金は?」

「……知らないわよ」

「私のトメィト……」

 その言葉を最期にトメィト……じゃなかったトマージュは動かなくなりました。

 トメィトってそんなに大事だったのでしょうかね?