「あれが〝王都〟ですか……」

「大きな街だね、シント」

『この国のすべてが決まる街だ。小さいはずもない』

『その通り。お前たちがメイヤと相談して里の運営を決めているのと同じように、国全体の舵取りを行っている。それが〝王都〟なのだよ』

 今日は〝王都〟襲撃決行日。

 マインたちが新しく作ってくれた鎧などを身にまとい、いよいよ決戦です。

 失敗は許されません。

「それで、捕らえられた幻獣たちはどこにいるのですか?」

『〝王城〟とかいう一番立派な建物の中だ。すでに影の軍勢を忍び込ませてある。道案内は任せろ』

「それは頼もしい。それで、みんなを召喚する場所は?」

『〝貴族街〟とかいう、立派な建物が並んでいるあたりがいいな。そこで大暴れすれば自然と城の守りも手薄になるだろう。まあ、ケルベロスだの、ガルーダだの、フェニックスだのが大暴れするんだ。俺に言わせれば貴族街とやらは壊滅するだろうな』

「そうですか……」

『心が痛むだろうが、神樹の里の契約者様と守護者様はそれくらいがちょうどいい。強大過ぎる力を持ち傲慢になってしまっては行かんからな』

「すみません、オニキス。わがままを言ってしまい」

「ごめんね、オニキス」

『気にしていない。さあ、そろそろ作戦決行の時間だ。幻獣たちも今か今かと待ち望んでいるはず。一般市民にはなるべく手を出さないように伝えてあるがどうだろうな?』

「そこは守ってもらいたいな」

『俺の契約者は優しい。実に俺好みだ。トライも先行している。行くぞ!』

「はい」

「うん」

 僕たちは再度空へと舞い上がり、魔力検知用障壁と言うものがないほど高空から〝王都〟に侵入しました。

 トライが待ち構えていたのは〝王城〟とやらがほど近い豪華な屋敷が並んでいる場所。

 どうやらここでみんなを召喚してもらいたいようです。

『来たか。ここで騒ぎを起こせば〝王城〟とやらの兵士も出てくるよりほかない。飛び出してくる幻獣たちも多種多様で対抗装備など用意しても無力。申し訳ないがこの貴族街に住む人間と〝王城〟から出てくる人間、それらには犠牲となってもらう』

「……わかりました。覚悟はすでに決めてあります」

『……無理はするなよ、シント。すべての責は幻獣たちが負う。お前はとリンは混乱に乗じて〝王城〟内へと侵入、五大精霊たちを召喚し更に混乱を巻き起こしながら幻獣たちの解放をすればいいだけなのだからな』

「そうばかりも言ってられませんよ。この作戦を決めたのは僕たちです。僕たちにだって責任はあります」

『……頑固な契約者だ。だが、だからこそ我ら影の軍勢も力を貸したくなる。オニキス、準備はいいな?』

『いつでも』

『リンは?』

「もちろんです」

『では作戦決行だ。シント、リン、契約幻獣たちの召喚を』

「はい」

「わかりました」

 ここからは一方的な蹂躙の始まりでした。

 伝説にしか聞かない幻獣たとが大挙として〝貴族街〟とやらの中に大量出現し、家々を破壊して回るのですから。

 今回召喚した者の中には竜種に近い者たちも含まれ、手の施しようがありません。

 瞬く間に〝貴族街〟と言う場所は炎とがれきの山になり、それを鎮めるために〝王城〟から大量の兵士が飛び出してきました。

 ここがチャンスですね。

 僕たち4人はそれぞれの方法で〝王城〟内へと侵入し、移動途中で気付かれないように五大精霊たちをバラバラに召喚していきます。

 五大精霊たちも持てる力のすべてを発揮して兵士たちとの戦闘に入りました。

 ですが、さすがは五大精霊、近くにいる人間はおろか遠くにいる人間たちもその力によって倒していきます。

 ヴォルケーノボムは業炎で、アクエリア氷の槍や水の檻、氷柱の雨などで、ウィンディは風の刃と激しい竜巻で、マインは整理出す岩による圧殺と岩の槍による串刺しで、トルマリンは稲妻による攻撃で。

 それぞれの属性に見合った攻撃方法で攻めながら場所を移動し、敵兵をどんどんなぎ払っていきます。

『さすがは五大精霊たち。〝対抗装備〟という装備などという身を守る盾がなければ人間ごときひとたまりもないか』

『我らは我らの行く先に向かうぞ。出遅れては話にならぬ』

「そうですね。先へ急ぎましょう」

『残りの手勢は?』

「ペガサスと、ユニコーン、グリフォン、ガルム、ホーリーフェンリルです」

『それだけいれば十分。急ぐか』

 トライとオニキスに案内された最初の場所はエルフやドワーフたちがなにかの武器や防具を作り続けているところ。

 ここが〝対抗装備〟を作っている場所なのでしょう。

『こうやつらの始末は影の軍勢が務める。少しばかり残忍な手段になってしまうが大丈夫か?』

「その程度で立ち止まれません。僕はなにを?」

『創造魔法でこの部屋の中にあるものすべてを綺麗さっぱり消してもらいたい。ここにあるのが〝対抗装備〟に関する知識のほとんどだ』

「ほとんど。ほかにもあるんですね?」

『似たような場所がほかに数カ所あることが確認されている。そちらもお願いできるか?』

「わかりました。引き受けます」

『契約者の了解も得られた。始めるぞ、オニキス』

『わかった。見たくないのであれば目をつむり耳を塞げ』

「そんなやわな覚悟でここに立ってはいません」

「はい。どんな危険からもお守りするのが私の役目ですから」

『わかった。始めるぞ』

 影の軍勢であるトライとオニキスが影に潜っていくと、この場にいた全員の影からいくつもの触手が伸び働いていたエルフやドワーフたちを圧殺していきました。

 なるほど、こういうことですか。

『始末は終わった。この者たちの死体も含めて創造魔法で消せるか?』

「試してみます。〝創造魔法〟発動」

 僕の放った創造魔法は部屋の一部すら切り取り部屋の中にあった資料や死体、すべてを跡形もなく消し去りました。

 やり過ぎですかね?

『想像以上に強力な魔法だが都合がいいな、オニキスよ』

『消し漏れがでるより遙かにマシだ。この部屋には隠し部屋もない。次の部屋に向かうぞ』

 こうして僕たちは全部で5部屋を潰して回りました。

 トライとオニキスによればこれで〝対抗装備〟の研究は大分遅れるとのこと。

 王城の中にある別の場所や、各貴族が持っている資料もあるがそこまでつぶりしている暇はないとのことでした。

 次はいよいよ本命、幻獣などの解放になります。

 なりますが……邪魔な兵士などがたくさん待ち構えていますね。

『これは困った。これでは我々も手の施しようがない』

『しかもあの鎧は汎用製のあるものとはいえ、〝対抗装備〟だ。影で圧殺しようとしても時間がかかってしまう。五大精霊ならば一瞬で終わるが、いまから呼び戻してもなにかあると宣言するようなもの。どうしたものか』

「ほかの幻獣たちを突撃させるのは?」

『そちらも対抗装備のせいでうまくいかないな。手間だが……五大精霊の誰かを呼び戻して見張りの兵士たちを全滅させてもらう方が早いか?』

「ちょっとコンタクトを取ってみます」

 五大精霊たちに最近使えるようになった念話で話しかけてみましたが、どの精霊たちも「いま集まって来ている兵士どもの処理で手一杯。いきなりいなくなれば怪しまれてしまう」という回答でした。

 さて、この状況、どうしたものか……。

『五大精霊たちも動けないか。手詰まりだな』

『仕方があるまい。幻獣たちは売りに出されると聞いた。申し訳ないがそのときまで待つのだ。それよりほかない』

「悔しいですが……そのときに見張りが少なくなるのを祈りましょう」

「うん。見張りが数なくなったら私たちの出番だね」

『お前たちの魔剣や魔弓ならば〝対抗装備〟など意味を持たないからな。物量で押されないことだけを気をつければ問題ない』

『影の軍勢も守りにつけるが……どれほどの意味を持つかわからぬ。攻撃するときは残りの幻獣たちも使え』

「アドバイス、ありがとうございます」

「うん。気をつけるよ」

『それでは我々は別行動を取らせてもらう』

『この国に集められている創造魔法使いも始末せねばならないからな。……子供も含まれている以上、お前たちでは荷が重いだろう?』

「……申し訳ありません。汚れ仕事を押しつけるようで」

「私たちじゃできそうにないもんね」

『気にするな。適材適所だ』

『この国を根底から覆す以上、仕方のないこと。いざとなればこの〝王城〟も破壊せよ』

 この〝王城〟を破壊ですか……。

 五大精霊たちならできる気がしますが、やってしまっていいのでしょうか?

「難しいことを考えるのはあとだよ。いまは目の前にいるみんなを助けることを考えないと」

「そうでしたね。トライとオニキスも気をつけて」

『創造魔法使いであろうと遅れは取らぬ』

『すでに配下の影の軍勢が位置も特定している。あとは手を下すだけだ』

「……そうでしたか。よろしくお願いします」

『任せておけ。ではな』

『そちらも無理はするな』

 消え去っていったトライとオニキスを見送り、僕たちは自分たちの出番を待ちます。

 目の前に囚われているみんながいるのに助けられないというのがじれったい……。

 早くチャンスが巡ってきてくれますように。