シエロとシエルの一件を受け神樹の里も警戒態勢を強めました。

 水場ならどこでも移動できる水の精霊たちは水の妖精や精霊が〝狩り〟に遭っていないかどうか見回るようになり、風の精霊たちも高空から偵察して回るようにしています。

 その結果として、ケット・シーやニンフ、五徳猫などを救い出すことができたのは幸いでしょう。

 それぞれの種族の代表者たちは僕たちとの契約を望み、それらは一手にリンが引き受け、ケット・シーは〝セルバン〟、ニンフは〝ミルキー〟、五徳猫は〝イツビ〟と名付けました。

 ほかにも知っている限りの妖精や精霊たちの居住地を回ってもらっていますが、その多くがすでに手遅れ。

 何者かの手によって荒らされ尽くしたあとだそうです。

 おそらくは〝狩り〟の結果だろうと。

 後手に回っているのが悔しいですが、これ以上なにもできないのが現状。

 どうしようもありません。

 フェアリーやピクシーなどはそれでも少数ずつ救い出すことができているので、それらは神樹の里に来てもらっています。

 あと、〝狩り〟の護送隊を見つけた場合も五大精霊たちとともに強襲を仕掛けることにしました。

 やはり人殺しは気持ちのよいものではありませんが仕方がありません。

 護送隊から解放できたのはユニコーンやグリフォン、ガルムなどでした。

 彼らにはひとまず神樹の里で傷を癒やしてもらっていますが、僕やリンに対しても相当神経質になっているためあまり近寄らないことにしています。

 そして今日もまた〝狩り〟の部隊を発見したという報告が届きました。

『……〝狩り〟が相当激しくなってきているわね』

「そうですね。それも、いまでは幻獣相手が多いです」

「今回も鳳凰様相手なのでしょう? 〝王都〟の人間たちはよくこれほどまでに命知らずな真似を……」

『あなたたちだから話すけれど、幻獣に対応した『対抗装備』というものが作れちゃうのよ。一部の種族では。ただ、それを作れるのもドワーフやエルフの協力があってこそ。人間どもがそんな装備をどうやってかき集めているのかしら?』

「謎解きは後回しです。最近はヴォルケーノボムやウィンディ、トルマリンが暴れ回りすぎたせいでそれらの対抗装備も持ち歩かれてしまっているんですよね?」

『そうみたいね。さすがに専用の対抗装備じゃないから数分持ちこたえればいい方らしいけれど、面倒にはなってきているみたい』

「どうなさいますか、メイヤ様。最大戦力は五大精霊の皆様です。それを封じられてきては……」

『ペガサスたちだけじゃ不安なのよね。一般的な対抗装備でもある程度耐えられてしまうから。少し無茶はさせるけどヴォルケーノボムたちに行ってもらうほかは……』

『話は聞かせてもらった。聖霊様、契約者様に守護者様よ』

「ユニコーン? それにグリフォンにガルムまで」

「大丈夫ですか? 傷は癒えましたか?」

『傷などすでに癒えている。それ以上に、助けられておきながらその恩返しもしないでいるなど幻獣の名折れだ』

『その通り。意固地になってしまっていたが、許してもらいたい』

『その上で提案だ。これからは我らも〝狩り〟の救出作戦に加わらせていただく』

「いいのですか? また傷を負う可能性も……」

『神樹の里に戻れるのであればすぐにでも癒える。そんな些細なことよりも仲間を助けられぬ方が心苦しい』

『左様。五大精霊様に我らも加われば人間どもの対抗装備程度すぐに破壊できるだろう』

『少しでも早く仲間を助けてやりたい。どうだ、話に乗ってもらえないだろうか?』

「ええと、メイヤ?」

『可能です。ただ、グリフォンも空を飛ぶ速度はサラマンダーやペガサスには及びません。ユニコーンやガルムなど地を駆けるのみ。移動速度が問題です。解決するにはシントと契約を結び、〝狩り〟の本隊と戦いを始めたあとに召喚してもらわねば』

 え、召喚?

 契約ってそんなこともできたのですか?

『その程度のことは受け入れる。時間もないことだ、すぐに始めよう。私は〝チャージランス〟を所望する』

『私は〝フリューゲル〟だ』

『我は〝カエン〟を』

「わかりました。時間もありませんし始めましょう」

 僕が放った契約の魔力は3匹に吸い込まれて契約が成立、それぞれが僕の契約幻獣になりました。

 そのあと、契約した精霊や幻獣などを呼び出す際の注意点などをメイヤから教えてもらいシエロにまたがってヴォルケーノボムたちと一緒に出発。

 鳳凰を護送している〝狩り〟の部隊はそれなりに大人数ですがこの戦力なら大丈夫でしょう。

『それでは私たちは打ち合わせ通りシントとリンを森の中へ下ろしたあとに別の場所から急襲をかける』

『頼みますで。その間に儂らは部隊を引っかき回しておくわい』

『シント、リン。あなた方は戦闘終了まで透明化を解いちゃだめよ? 近くに敵兵が来てもカエンに任せること。いいわね?』

「わかりました。すべて指示に従います」

 打ち合わせの終わったみんなはそれぞれ作戦通りの行動を始めます。

 召喚に応じてやってきてくれたチャージランスとフリューゲルも加わり、護送部隊は大混乱になっていますね。

 僕とリンは透明になりながらカエンにまたがってときどき森の中へと逃げ込んでくる敵兵を始末して回り……やっぱり人を殺すのは慣れません。

 ヴォルケーノボムたちに対する対抗装備を持っているというのも本当のようで、倒すのに時間はかかってしまいましたが討ち漏らしもなく今回も全員倒せたようです。

 周囲の安全確認をみんなが終えてくれたあと、僕たちはカエンに乗ったまま檻の場所まで向かいました。

「この方が鳳凰ですか」

『そうじゃの。かなり強力な封印具で縛られておる。それさえ破壊してやれば元気になるじゃろ』

「封印具……その鎖かな?」

「おそらく。これしか見当たりませんし」

『一気に破壊してしまいなさい。封印具の魔力が途切れればあとは鳳凰が自力でなんとかできるから』

「わかりました。いきますね!」

 僕が取り出したのは大ぶりな斧。

 マインたちが幻獣たちを縛り付けている鎖を破壊するため専用の道具として作ってくれたものです。

 こういった魔力封印効果のある道具を破壊するには非常に効果が高いのだとか。

 実際、鳳凰をつなぎ止めていた鎖も一回で破壊できましたしね。

 それを鎖の本数分繰り返せば……封印解除完了です!

 完了ですが……鳳凰は復活しませんね。

 どうしたのでしょう?

『あなた、この馬車から離れていただけますか? 私が力を放つとこの馬車ごと燃やしてしまいます。恩人をやけどさせたくはありません』

「それは失礼しました。すぐに退きますね」

 慌てて牢から出て馬車から飛び出すと、鳳凰が光り輝き馬車を深紅の炎が焼き尽くしました。

 そしてその炎が収束すると中から現れたのは、美しい姿を持った一羽の火の鳥。

 これが鳳凰本来の姿ですか。

『助かりましたよ少年。あれだけの拘束具に絡め取られては一切の魔力を使えませんでしたので』

「いえ、お役に立てて光栄です」

『ところで……五大精霊もともにいるということは神樹の里の契約者ですか?』

「はい。シントと申します」

『なるほど、高貴な魂をお持ちのようだ。いかがでしょう、私とも契約を結びませんか?』

「よろしいのですか?」

『命を助けられたお礼です。それに、いま神樹の里では同じように囚われた同胞を救い歩いているとの噂。私の翼も役に立つでしょう』

「ありがとうございます。名はなんと?」

『そうですね……〝フランベルジュ〟と』

「では、契約を」

 いつも通りの契約手順を踏み契約を果たしました。

 フランベルジュは一足先に神樹の里へと戻り、失われた魔力を回復させるそうです。

 僕たちも召喚していた幻獣たちを送り返したあとは急いで神樹の里へと戻っていきました。

 これで、救える幻獣や精霊、妖精たちが少しでも増えると嬉しいんですが……。