「大分戦えるようになってきましたね」

「うん!」

『GIHYUO』

『この短期間でここまで成長できれば見込みがあるそうよ』

 トルマリンが来てからというもの、基礎訓練を終えたらトルマリンに相手をしてもらっています。

 段々、トルマリンも強さを上げていっていますが、僕たちも成長しているのかそれにだってついていけました。

 ……新しい装備を渡したがっていたマインやドワーフの皆さんには申し訳ないんですが、できる限りいまの装備で戦ってみたいんですよね。

 実力がどれだけ通じるかを図るためにも。

「……それにしても、そろそろ秋ですか。僕がこの神樹の里を作ってから半年ですね」

『そうね。神樹の里も賑やかになってきたわ。最初にリンがやってきて、そのあとも幻獣や妖精、精霊たちがどんどんやってくるんだもの』

「……わたし、お邪魔でしたか?」

『邪魔なら神樹の里に招き入れないわ。最初にいきなり攻撃魔法を使われたときは少々驚いたけどね』

「とんだご迷惑を……」

『過ぎたことよ。それに、あなたがいてくれるおかげでシントの手助けにもなっているのだからこちらとしても助かるわ』

「シントの手助け……本当?」

「もちろん。リンがいてくれないと寂しいです」

「ありがとう、シント!」

『うふふ。見ていて微笑ましいわ』

『DESOKIU』

 そんな風にいつも通り過ごしていると、いきなりメイヤの目が鋭くなりました。

 顔も一点を見つめ始めましたし、なにがあったのでしょうか?

『シント、新しい来訪者よ。深手を負ったペガサスがこちらに近づいてきているわ。迎え入れる?』

「深手ということは事情がありますよね。招き入れて上げてください。僕はすぐにでも治療を行えるようにします」

『お願い。飛ぶのもやっとなほどの傷、放っておいたら命がないわ。命魔法と私の果実から作ったポーション、両方使いなさい』

「はい」

 メイヤが指示を出して数分後、僕たちの目の前に全身傷だらけとなった翼の生えた馬が着陸……いえ、地面に倒れ込みながら降り立ちました。

 確かにこれは危険です。

 僕はすぐに命魔法で全身の治療を行い、メイヤの果実から作ったポーションを2本振りかけ、もう1本を何とか飲んでもらいます。

 すると、この馬も元気になってくれたみたいでまだ力なくではありますが立ち上がってくれました。

『助かった、少年。ここは神樹の里で相違ないか?』

「はい。神樹の里の契約者、シントといいます」

「私が守護者のリンです。ペガサス様」

『怪我を治していただいたばかりで申し訳ない。だが、すぐにでも出発せねばならないのだ。この恩は必ず返す。いまは行かせてもらいたい』

『お待ちなさいな、ペガサス。あなたがあれほど傷だらけになって一体なにがあったの?』

『神樹の聖霊様か……話す時間も惜しいのだが……我々親子が〝幻獣狩り〟に遭った。私だけは命からがら逃げ出せたが、妻と息子、娘を捕らえられてしまったのだ。それを助けに行かねば……』

「そんな!」

「〝王都〟の人間ども! 幻獣様方にまで手を出すなんて!」

『……止めても行くわよね、ふたりとも』

「その覚悟です」

「許せません!」

『ペガサス、少しだけ待ちなさい。サラマンダーとシルフィード、ライトニングボルトを手助けにつけるわ。五大精霊のうち三柱がそろい踏みだもの、人間ごときが太刀打ちできるはずもない。対抗装備でもない限りね』

『いや、それは嬉しいのだが……よろしいのか? この里の守りが手薄になるのでは?』

『ほかにも幻獣や精霊、特にウンディーネとノームがいるわ。非常に強固な守りの結界と迷いの森に守られたこの神域にたどり着ける人間なんているはずもないけれど』

『……その助力、受けさせてもらう。まことにかたじけない』

『すでに指示は飛ばしてあるわ。もうすぐ2匹とも集まる。ノームも来るからシントとリンは鎧を着替えなさい』

「鎧を?」

『いまの鎧よりも少ない魔力でより高速に空を飛べる鎧よ。透明化もできるわ。あなた方が、いま姿を見られるのはまずいの。手を下すのは精霊たちに任せて、あなた方はペガサス親子の治療と逃がす準備だけに集中。いいわね』

「はい!」

「承知いたしました、メイヤ様!」

 僕たちの話が終わった頃、ヴォルケーノボム、ウィンディ、マインが合流してくれました。

 僕とリンはマインが持ってきた新しい鎧を身につけて出発準備完了です。

 ただ、ペガサスの飛ぶ速度はかなり速いということなのでヴォルケーノボムに乗っていくことに。

 僕たちがヴォルケーノボムに乗り込むと急いで出発、ペガサスはぐんぐん速度を上げて森や山を越え、一本の街道までたどり着きました。

 そこでは確かに翼の生えた馬が3匹檻の中で鎖に繋がれて囚われています。

 あれがペガサスの奥さんや子供たちなのでしょう。

『おのれ、人間ども!』

『落ち着け、ペガサス。お前が戦って勝てなかったということはお前に対する対抗装備を身につけて挑んでいるはずだわい』

『そうですね。怒る気持ちも自分で戦いたい気持ちもわかりますがここは五大精霊の私たちにお任せを』

『GURAVIYU』

『その上で数が減ったらシントとリンを連れてお主の家族を救い出いだせい。人間どもは我々で一掃してやるけん』

『すまない、五大精霊。力を拝借する』

『元よりそのつもりで来ております。シント様とリン様も逸らずに、〝掃除〟が終わってから来てください。親ペガサスとは違い、傷は負っていますが致命傷とはほど遠いです』

『DYUIOPS』

「わかりました。みんなも気をつけて」

「皆さんも無理はしないでください」

『引き際は心得とるけん』

『下手は打ちません』

『WRO』

 ヴォルケーノボム、シルフィード、トルマリンが飛んでいくと、兵士や騎士たちは一気に倒されていきました。

 ヴォルケーノボムの巻き起こす溶岩を防ごうにも盾や鎧は役立たず溶け落ちそのまま焼かれます。

 シルフィードの風の刃は金属の装備をものともせずに切り裂き、その命まで刈り取っていきました。

 もっとも強いのはやはりトルマリンで、強力な電光が走ると兵士や騎士たちがバタバタと焼け倒れ、地面をほとばしる電撃によって立っている兵士や馬たちも次々と感電死していきます。

 あれが五大精霊の本気なのですね……。

 ともかく、五大精霊の攻撃と混乱により、ペガサスの家族の周囲にいた兵士や騎士はすべて倒されました。

 みんなは残党狩りに出ていますし、いまがペガサスの家族を救い出すチャンスでしょう。

「行きましょう、ペガサス!」

『うむ!』

 僕たちは一気に檻へと向かい魔剣によって檻を切り裂き、鎖も破壊しました。

 かなり頑丈でしたがなんとか切り裂くことができてよかったです。

「最初は傷の深いペガサスの奥さんからですね」

『すまない。子供の治療を優先してほしいところだが……この傷では』

「気にしないでください。魔力もポーションもたくさんあります」

 まずは命魔法で大まかな傷を回復。

 そのあとはポーションを使い治療を施します。

 そのあと、ペガサスの子供たちも解放し、こちらは比較的軽傷だったのでポーションだけの回復で間に合いました。

 ……ですが……治療が終わるといままで気にしていなかった、死んだ人間の臭いや血の臭いがきついです。

『契約者よ。どうした?』

「申し訳ありません。死んだ人間の臭いやこれだけ濃い血の臭いをかぐのは初めてで……」

『……それは無理もないか。お前たち、もう飛べるな?』

『はい、あなた』

『うん、お父さん!』

『私も飛べるよ!』

『わかった。契約者は私の背に乗れ。守護者は妻の背に。里の方角を悟られないために遠回りをして帰る』

「……お願いできますか?」

『無理を言ったのはこちらだ』

「ヴォルケーノボム、ウィンディ、トルマリン」

『儂らはこやつらを皆殺しにしたら帰るけん、心配せずともええ』

『先にお戻りください、シント様』

『AYUKIO』

「申し訳ありませんが、後を頼みます……」

 僕はそのままペガサスの背に乗り脱出。

 神樹の里にたどり着いたのは日が落ちたあとでしたが、僕は軽く埃を洗い流すとそのままベッドに倒れ込むように寝てしましました。

 翌朝、目が覚めるとリンが僕の頭を優しく抱きしめながら寝てくれていたあたり、僕は相当消耗していたのでしょう。

 実際、まだ気持ちが悪いです……。

 そのまま、みんなの無事を確認し、〝王都〟から来ていたらしい〝幻獣狩り〟部隊も皆殺しにしたという報告を受けた後、3日間は食事と家で休むだけの生活を送ってしまいました。

 精霊や妖精のみんなも心配になってときどき様子を見に来てくれて……情けなくも、嬉しかったです。

 そして、そんな生活が続いた4日目。

 ようやく踏ん切りがつきました。

 今後も〝狩り〟を阻止するためには戦うことが多くなるでしょうし、そうなれば敵勢力を殺さなければいけない場合も多いでしょう。

 そんなとき、いちいち落ち込んでいてはいられませんからね。

 メイヤとリンにもその報告をすると一安心してくれたようでした。

『よかったわ。あなたは田舎の村暮らし。人殺しの経験も心構えもないもの。このまま落ち込んだままだとどうしようかと』

「うん。私は兵器扱いだったし、仲間もたくさん殺しちゃったから感覚が麻痺していたけど……やっぱり辛いよね?」

「ふたりにも心配をかけました。これからは大丈夫です」

『わかった。復活したところで申し訳ないのだけれど、朝食を食べ終わったら一緒に来てほしいところがあるの。お願いできるかしら?』

「はい、構いません」

 久しぶりに〝美味しい〟と感じられる食事を終え、連れて行かれた先はペガサスたちが遊んでいる草原でした。

 ペガサスたちも僕らが来たことに気がつくと、全員が集まってきます。

『すまないな、契約者様。我々を助けるために辛い思いをさせてしまい』

『本当に申し訳ありませんでした。まさか、こんな大事になるだなんて』

『ごめんなさい』

『ごめんね』

「気にしないでください。僕の覚悟不足が原因ですから」

『そうか。では、この話は一旦止めにしよう。話が先に進まなくなる。メイヤ様に契約者をお連れいただいたのは私との契約を行っていただきたいからなのだ』

 契約!?

 それも幻獣ペガサスと!?

『こう見えてそれなりの戦闘力もあるし空を駆ければ速度も速い。役に立てるぞ?』

「ですがよろしいのですか? ご家族のことも……」

『ああ、メイヤ様からこの神樹の里で暮らす許可をいただいた。ここならば人間が攻めてきたとしても耐えられる。私や妻が離れていても子供たちに心配はいらない』

 ん?

 妻?

「えっとね、シント。シントが塞ぎ込んでいる間に私ペガサス様の奥様と契約しちゃったの。名前はシエル。契約もすんなり受け入れてもらえちゃった」

「リン……ペガサスたちはよろしいのですか?」

『むしろ、喜んで契約に応じる。私の命と家族を救い出してくれた恩を返すにはこれくらいしかできないのが歯がゆいほどだ。どうか受け入れてほしい』

「わかりました。名前の希望は?」

『〝シエロ〟がいいな。妻の〝シエル〟もそうだが『空』を意味する言葉なのだ』

「では契約を結びましょう」

 僕から出た契約の光はペガサスへと吸い込まれ契約成立、これでペガサスの〝シエロ〟の誕生です。

『これからよろしく頼むぞ、シント。普段は子供たちと神樹の里で気ままに過ごさせてもらうが必要なときはいつでも呼んでほしい』

『はい。命を助けられたご恩、いつでもお返しいたします』

「そんな硬くならずともいいですよ」

「うん。子供たちを大切にしてあげてね」

 また新しく増えた住人、ペガサス一家。

 神樹の里もどんどん賑やかになっていきます。

 いいことですね。