『そうじゃわい! ふたりとも息はバッチリ合うてるし、動きもようのっとるのう!』

「ありがとうございます……」

「でも、一撃も当てられたことがないのが悔しい……」

『儂も五大精霊じゃし』

 最近は暇さえできればヴォルケーノボムと手合わせをしています。

 魔法や近接戦闘の訓練もしていますが、実戦訓練ができる相手ができたのでそちらの訓練を優先したくなったというのが本音でしょうか。

『しかし、ふたりとも気が逸りすぎじゃぞい? 〝王都〟連中の〝狩り〟が許せへんのはわかる。だが、いまはまだ基礎固めをするべき時じゃい。訓練の相手は引き受けるが……基礎鍛錬の時間まで減らすのは感心せんわ』

「……やはりそうですか」

「……うん、なんとなくわかってはいたんだよ。でも」

『落ち着け。可能な範囲で儂らも動いとるけん。〝王都〟どもが活発すぎて救えるのはごく一部になっとるのが気に食わんが、それでも救って歩いとる。この神樹の里にも見知らぬ妖精が増えとるやろ?』

「そう言えば……」

「まったく気にしてなかった……」

『そういうことじゃ。メイヤ様の許可は取っとる。お主らは焦らず力を貯め込めばええ。いずれは〝王都〟も調べる日が来るじゃろ。そのときに備えろ』

「はい!」

「うん!」

『つーわけで、今日の実戦練習はここまで。明日以降も実戦よりも基礎訓練に勤しめ、少年少女』

「わかりました」

「わかったよ!」

 基礎訓練、最近は疎かになりがちでしたからね。

 僕はまず魔剣をもっと扱えるようにならないと!

 リンは……どこから始めるんでしょう?


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 基礎訓練に明け暮れる日々も一週間ばかり過ぎた頃、メイヤから新しいお客さんが来たと連絡を受けて神樹の元までやってきました。

 そこには背の低い老人のような方とそれに付き従っている毛むくじゃらな背の低い方々。

 彼らはなんでしょうか?

『来たわね。シント、メイヤ。今日は土の五大精霊がやってきたわよ』

「土の五大精霊。この方が」

『左様。儂が土の五大精霊ノームじゃ。まあ、人間どもの〝狩り〟には遭っていなかったがな』

「そうなんですか? ではなぜここに?」

『サラマンダーが厄介になる地というのが気になってやってきた。……人間どもの〝狩り〟も迫っていたことだしな』

「それは申し訳ない」

『契約者は人間とは言え〝王都〟とは無縁。謝る所以はない。問題は、後ろにいる者たちだな』

「後ろの方々ですか?」

『こやつらは精霊でも妖精でもない。亜人じゃ。〝ドワーフ〟という儂を崇拝し、ともに地下で鉱脈探しや宝石掘りなどをしている一族である』

「メイヤ?」

『ちょっとウィンディにも頼んで調べたのよ。人間どもは一部の亜人も〝狩り〟の対象としているらしいのよね』

『ああ。それで、すまぬがドワーフたちの保護も頼みたい。我々は離れた場所に岩山の入口を作りそこから地下を目指し坑道を掘り進む。できればそこで出てきた金属で鍛冶ができる鍛冶場も用意していただけるとなお助かるのだがどうだろうか?』

「ええと、僕はそのあたり、詳しくないのですが……」

『鍛冶場はサラマンダーがいれば火を分けてもらえるので問題ない。問題は煙が出続けてしまうことによる環境汚染と木材の大量消費、あとは水質汚染か』

 むう、それは難しい問題です。

 煙が出続けて空気が汚れてしまえば風の妖精たちが困るでしょうし、木材もツリーハウスが困るでしょう。

 水質汚染もアクエリアが困るでしょうし……どうしたものか。

『あら、シント。そんなに困るものではないわよ?』

「そうなんですか、メイヤ?」

『空気汚染はエアリアルたちが勝手に浄化して回るし、木材も事前にドライアドのツリーハウスと交渉しておけば鍛冶に適した木材を近場に生やしてくれるわ。水質汚染だって水の精霊たちが勝手に綺麗にしてしまう……と言うか、神域がその程度で汚染されるはずもないしまったく問題ないわ』

「だそうですが、ノームさん。これでよろしいでしょうか?」

『十分だ! 契約者は創造魔法の使い手と聞くが我々には不要。物作りの醍醐味を奪われても困るからな! それでは儂も契約しておこう! 名は〝マイン〟を望む!』

「わかりました。それでは、始めます」

 いつも通りの手順で契約をすませ、メイヤが彼らを鉱山の入口となる岩山の予定地まで連れて行きました。

 何でもマインもドワーフも土の中で暮らすのが一般的なんだとか。

 鍛冶場なども最終的には地下に移すそうで、そうなると木材などもいらなくなるそうです。

 いやはや、すごい種族ですね。

 僕はエルフのこともよく知りませんでしたがドワーフのことも知りませんでした。

 まったく無知な辺境の田舎者です。

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『シントよ! 新しい武器を作ったぞ!』

「ああ、マイン。どんな武器を作ってきたんですか?」

『氷の魔剣だ! 振るえば氷の刃が伸び相手を切り裂ける!』

「マインの作品でしょうか?」

『魔剣にしたのは儂じゃが基本はドワーフたちの作品じゃ! あいつらも貴重な鉱石がどんどん掘れるので勢いづいていたわ!』

「ああ、それで昨日リンに渡した短剣と弓も」

『すまないな、彼女が魔剣を使えないとは思わなくての』

「いえ、慌ててメイヤから魔剣術を覚えていたので。弓だって魔力消費なしで無制限に魔力の矢を放てるんでしょう。それも弾き飛ばされたとしてもリンが望めば手元に帰ってくるとか」

『あの機構は苦労した! だが、ここで手に入る鉱石や宝石を使って作るのじゃ! 失敗などできるものか!!』

「そんなにすごいんですね。神樹の里の鉱石って」

『魔力に満ちあふれた魔法金属など見たことがない! それも掘れば掘るだけ出てくるし、数日経てばまた同じ場所に復活している! 腕を磨き続ける事ができる理想郷じゃ!!』

「喜んでいただけて嬉しいです。ですが、ドワーフさんたちは休んでますか?」

『強制的に休ませておる。そうでもせねば永久に掘り続けるか武器や防具を鍛え続けるからな!』

「防具はまだ見たことがないんですが……」

『あやつら基準でもまだ満足できない品なんじゃよ。前の鉱山では武器作り以外の鉱石などほとんど余力がなかったからな』

「……無理をしないようにだけ伝えてください」

『うむ! 儂も時間が惜しいのでこれで失礼する!!』

 そうですか、彼らにとって神樹の里は理想郷ですか。

 メイヤも現状を知っていて止めないと言うことは問題ないのでしょう。

 数日おきに僕やリンの装備が増えるのは困りものですが……ありがたく頂戴しておきましょうかね。