「ああ、やっぱり寝るときもシントの温もりがないと寂しい……」

「すべて、あなたの浅はかな行動がとった結果だと言うことをお忘れなく」

「……反省しています」

 リンが飛び出して行こうとしてから今日で6日目。

 昨日の夜は久し振りにリンと一緒に寝ました。

 その結果がリンのこの態度です。

 まったく、勝手な真似をしなければ……。

「でも、どうするの? サラマンダー様と言えば五大精霊の一角とも呼ばれるほど強い精霊様なんだよ? それを〝精霊狩り〟で連れ去ろうとするだなんて……」

「それについてはメイヤたちが話し合ってくれています。僕たちでは口を挟めません」

「……だよね。私たち、まだまだ弱いもんね」

 悔しいですが、僕たちはふたりがかりでもまだまだヴォルケーノボムどころかツリーハウスにすら勝てません。

 その程度の強さしかない僕たちが五大精霊を捕まえようなどとしている〝王都〟に行ってもなにもできないのは明白。

 せいぜい、逃げ帰ってくることしかできないでしょう。

 お互い、転移だけはできる……はずですから。

 それすら封じられていたら捕らえられてしまいます。

 そんな危ないことリンにはさせられませんし、リンも僕にはさせられないでしょう。

 つまり、完全に手詰まりなんですよ。

「朝食、食べに行きましょう。そして、少しでも強くなるのです。そのあとは精霊のみんなにお願いして実戦訓練ですね」

「うん。それしかないよね……」

 家から出てきた僕たちを見て嬉しそうに駆け寄ってきたリュウセイも僕たちの表情を見てしょげかえってしまいました。

 これではいけないとふたりでリュウセイを慰めてからメイヤのもとに向かうと、見慣れない人影がふたりいます。

 ひとりは青く透き通った体を持つ女性、服なども着ていますがすべて色合いの違いこそありますが青く透き通っています。

 もうひとりは蝶の羽を生やした女性。

 こちらは緑色を基調とした服を着ていますが、要所を覆っているだけで、お腹や手足などは丸出しです。

 彼女たちは一体?

『ああ、来たわね。シント、リン』

「メイヤ様。彼女たちは一体?」

『儂が呼んでいおいたんじゃよ』

「ヴォルケーノボム?」

『青い女性の方は水の精霊ウンディーネ。水の五大精霊。緑のヘソ出しルックはシルフィード。風の五大精霊でんな』

 五大精霊がふたりも?

 それもヴォルケーノボムが呼んだ?

『シント、事情を説明してもいいかしら?』

「ああ、はい。話の腰を折ってしまいすみません、メイヤ」

『いえ、彼女たちが何者かは重要だから。まず、彼女たちの望みはこの神樹の里で暮らしたいということよ。あなたとの契約にも応じるって』

「ええっ!?」

 僕が五大聖霊様のうち3人と!?

『それぞれの事情を話すわね。まずウンディーネだけど、彼女の住処にしていた湖をヒュドラの毒で人間たちが穢し始めたの。最初は浄化で対抗していたんだけど、それも追いつかなくなって、逃げ出してきたってわけ。いまは森の中に潜んでいるけど、一緒に過ごしていた湖の精霊たちも移住希望よ』

「それって大事では?」

『大事よ。だから、申し訳ないけれど早めにシントには決めてもらいたいの』

「わかりました。ウンディーネ様がそれでよろしいのでしたら」

『私のことはウンディーネで結構です。それから名前は〝アクエリア〟を所望します』

「わかりました。では、始めましょう」

 大急ぎで契約の魔力を作り出し、ウンディーネへと送り込みます。

 ウンディーネもそれを受け入れ、〝アクエリア〟となってくれたようですね。

『感謝いたします。早速で申し訳ありませんが、ヒュドラの毒で汚染された仲間もいるのです。清浄な湖を作る許可を』

「メイヤ、構いませんね?」

『シントが望むなら。場所も相談してあるわ』

「ではすぐにでも始めてください。あと、効くかどうかはわかりませんが、神樹の木の実などで作った解毒用のポーションです。もしよろしければお使いください」

『なになからなにまで申し訳ありません。それでは私たちは湖を造らせていただきます。正式なごあいさつはあらためて』

「お仲間の命を優先に。急いでください」

『それでは、失礼いたします』

 アクエリアの後に続き、大勢の精霊たちが駆け抜けていきました。

 仲間に担がれて行っているのは毒に侵されている精霊たちでしょう。

 体がもつといいのですが……。

『シント、あなたのことだからあの子たちのことが心配なんでしょう?』

「はい。また人間の身勝手で精霊が傷つくなど……」

『アクエリアの力があれば間に合うわ。アクエリアは〝清浄な湖〟と言っていたけど、この神域内で造る限りは〝聖浄な湖〟になるもの。ヒュドラの毒程度すぐに浄化できるわよ。重症者にはあなたのポーションも与えられるだろうしね』

「それならいいのですが……そちらの女性は?」

『申し遅れました。私は風の精霊シルフィードと申します。風の五大精霊ですね』

「風の五大聖霊様ですか……あなたも人間の〝精霊狩り〟に?」

『いえ、私はまだ被害を受けておりません。私は風。どこにいるかなど気まぐれでつかみ所のない存在。ただ、配下の精霊や妖精たちには被害が出始めているようですので移住を希望しに参りました』

「メイヤ、彼女たちも受け入れて問題ないのでしょうか?」

『そうね。問題ないと思うわ。ただ、風の精霊や妖精は気まぐれだからどこにいるかもわからないし、種族によってはいたずら好きな側面もあるから気をつけないと被害が出るかも』

『そちらについては私の方からいたずらをなるべく控えるように言い聞かせます。……さすがにすべてを防ぐことができないのは困りものなんですが』

「でも、すでに風の精霊や妖精たちにも被害が出ているんですよね?」

『正確には風の妖精というわけではありませんがフェアリーやピクシーにはかなり被害が出ています。風の精霊ですとエアリアルが何名か連れ去られたと』

 酷い……。

 もうそこまで。

『シント、怒りはわかるけど堪えなさい。あなたの感情は契約している者たちすべてに伝わるのよ? あなたは普段通りリンと一緒に過ごしていればいいの』

「しかし……」

『いまはシルフィードを受け入れるかどうかが先決よ。どうするの?』

「もちろん受け入れます。名前の候補は?」

『ありがとうございます。名前は……正直考えてきませんでしたので〝ウィンディ〟と』

「わかりました。契約の魔力をすぐに送ります」

 僕は今日二回目の契約の魔力を出し、シルフィードとの契約を果たします。

〝ウィンディ〟となった彼女は早速仲間たちを呼び込むと、それぞれの方法で僕たちにあいさつしてから方々へと散っていきました。

 風の妖精って気ままですね。

『申し訳ありません。あれでも控えめにさせている方なんですが……』

「気にしていないので平気ですよ、ねえ、リン」

「驚きましたが平気です。よろしくお願いいたします、ウィンディ様」

『こちらこそよろしくお願いいたします、守護者。私の住処は特に決まっていませんのでなにかありましたら空に向かってお呼びかけください。すぐに参りますので』

「わかりました。ところで、フェアリーたちはまだ増えますか?」

『……申し訳ありません。増えると思います』

「いえ、構いません。それだけ人間が横暴な真似をしていると言うことですから」

『私も可能な範囲で仲間を保護して参りたいと考えております。そのときは不在となってしまいますがご容赦を』

「ひとりでも大丈夫ですか?」

『むしろひとりの方が都合はいいのです。透明化できますし、竜巻などで広範囲に甚大な被害を巻き起こせるので』

「それは失礼しました。でも、手伝えることがあったら何でも言ってくださいね」

『はい。お気遣いいただき感謝いたします。私もしばらく休ませていただきますので、それでは』

 ウィンディも飛び去っていき、残されたのは僕にリン、リュウセイ、メイヤ、それからヴォルケーノボムです。

 ヴォルケーノボムはなにか言いたいことがまだあるようですが。

『実はな、まだ来ていない残りの五大属性ノームとライトニングにも声かけしとるんよ。もし来たら受け入れとくれ』

「構いませんよ。住んでいる場所を離れてまでくると言うことは切羽詰まったなにかがあるのでしょうし、いまいる精霊や妖精たちと仲良くしてくれるのなら受け入れます」

『あやつらなら問題ないわ。ノームは土の中を掘り返して鉱脈探しをしていれば気が済むやつで、ライトニングは適当に雷雲を発生させていれば落ち着く変わり者じゃけん。儂と同じく神域の隅っこで暮らすだろうし問題など起きはせん』

「ならいいのですが……」

『とりあえず、朝食にしましょう。そのあとはほかの妖精や精霊たちの様子を見に行きましょうか』

「そうしましょうか」

 メイヤの勧めに従い僕たちは朝食を食べて各所を回ります。

 ローズマリーの花畑では早速フェアリーたちが飛び交っており、シャニービーとも仲良くやっていました。

 その奥には湖ができていて、重症だった仲間たちも僕のポーションと湖の水のおかげで全員助かったとのこと。

 犠牲者が出なくて本当によかったです。

 あと、風の妖精たちは気ままに飛び回っているそうなので確認できませんでしたが、本当に賑やかになってきましたね、神樹の里も。