「……リン?」
ツリーハウスが仲間になった翌日、目を覚ましたらリンの姿がありませんでした。
リンのことですから近いうちに行動に移すだろうなとは考えていましたが、翌日からですか……。
ともかくリンを探しにいかないと!
「ふえーん! ツリーハウス、おろしてー! こんなみっともない姿、シントにみられたら幻滅されちゃうよー!」
『だめです。聖樹の契約者の言うことも聞けない悪い子にはお仕置きが必要です』
「ふえーん!」
……どうやら、探しに行く前に家の目の前でツリーハウスにつかまっていたみたいです。
服を脱がされ、こちらに向けて股を開かれて胸も強調するように絞り上げられた恰好で。
「ああ、シントが出てきちゃった……」
『どうです、シント? 愛する女性のあられもない姿は?』
「とりあえず、下ろして服を着せてあげてください。あまりにも惨いです」
『そう? じっくりと鑑賞してもいいのよ? 特に乙女の恥ずかしいところとか。なんだったらいじくり回しても問題ないし』
「そんなー!」
「そんな真似しませんよ。リンには別の罰を言い渡しますから」
『そう? じゃあ、下ろしてあげる。今度勝手な真似をしようとしたらもっと恥ずかしい恰好を契約者様に見ていただくからね?』
「……はい。よくわからないけど、女としてものすごく恥ずかしかったです。シントには見せられないと感じる程度には」
『それがわかっていればよろしい。契約者様も本能の赴くままにリンを蹂躙してもよかったのに』
「蹂躙する?」
『ローズマリーから聞いていたけどこっちも初心ねえ。まあ、覚悟なしに子供を産むよりもマシか』
「え?」
『リン、服も着終わったんでしょう。言うことは?』
「シント、言いつけを破ってごめんなさい! どうしても〝王都〟の現状を探りたかったの! 本当に精霊様や妖精が連れ去られていると考えると……」
「リン、気持ちはわかりますが、あなたの体も大切にしてください。ああ、あと、別の罰ですが、あなたは一週間、床で寝てください」
「待って! 床で寝るのはいいけど、シントは!?」
「ベッドで寝ますよ?」
「シントの温もりと匂いをかげない!」
「はい。言いつけを、それも一日目から破った罰です。存分に反省なさい」
「……はい。罰を受け入れます」
『あらら。これに懲りたらリンも無理な真似はしないようにね。あなたの家の周りにあるお花だって木々だって私たちの見張りでもあるんだから』
「……はい」
「さて、暴走娘の頭も冷えたようですしメイヤのところで朝食としましょう」
「うん!」
「オゥン!」
「リュウセイも待たせてしまいましたね。ああ、懲罰期間はリンにはシャニービーの蜂蜜はなしですよ」
「そんな!?」
「当然です。さあ、いきましょうか」
落ち込んでしまったリンとご機嫌なリュウセイを連れてメイヤの元へ。
すると、メイヤはまたしても困った表情を浮かべています。
「メイヤ、お困りごとですか?」
『ええ、ちょっと困りごとね。とりあえず、朝食を食べてしまって。それくらいの時間でどうこうなる話じゃないから』
「わかりました。リンもリュウセイも早く食べましょう」
「うん!」
「ワォ!」
僕たちは手際よく朝食の木の実を食べ終えてメイヤの悩み事を聞きます。
ちょっと内容には言葉を失いましたが……。
「火山の精霊が行き場を失っている……」
『そうなのよ。〝精霊狩り〟によって火山を殺されたみたい。いまはまだ問題ないけれど、いずれは力を失って〝精霊狩り〟にあうわね』
「それって一大事じゃないですか! メイヤ様!」
『そうなのだけど……彼が大人しく、神樹の里に来てくれるかどうか』
「ひょっとしなくとも力尽くですか?」
『力試しは挑まれるわね』
「シント……」
「僕が挑むしかないでしょうね」
『この里の代表はあなただからそうなるわ。ともかく、お願いできるかしら? テイラーメイドの服があれば多少の熱や炎は防げるはずだから』
「わかりました。場所はどこに?」
『リュウセイにいま伝えたわ。リュウセイの足で……3時間程度ね』
「では、リュウセイの背中に乗ってですね。リュウセイ、頼みます」
「お願いね、リュウセイ」
「ウォォン!!」
リュウセイが一声鳴くとものすごい気負いで空へと飛び出して行きだしていきました。
途中、山は飛び越えられないのか一度着地しますが、それでもすごいスピードです。
そんな中、おそろいの鎧に身を包んだ人間の集団を見つけました。
あれが〝精霊狩り〟なのでしょう。
リンが怒りを溜めていますが、いまはそれどころではないですね。
そして、リュウセイの足で3時間ほどかけてたどり着いたのは火山の麓。
ただし、この火山もまったく煙を上げておらず、死んでしまっているようです。
目的の精霊とやらはどこにいるのでしょうか?
「シント! 危ない!」
「え? ッ!?」
リンの警告によって火山に空いていた洞窟の奥底から飛んできた溶岩の塊を防ぐことができました。
これ、テイラーメイドの服でも防ぎきれませんよね?
『なんだ!? ニンゲンどもが懲りもせずまたやってきたのか!?』
「ええと、あなたがここに住んでいる精霊でしょうか?」
『おう! ここを根城にしているサラマンダーじゃ! 儂は〝精霊狩り〟などに屈するつもりはないぞ!?』
「落ち着いて話を聞いていただけますでしょうか、サラマンダー様。私どもは〝精霊狩り〟ではありません。メイヤ様から頼まれてあなたを保護に参ったのです」
『メイヤ……ああ、神樹の聖霊か。つーことは契約者と守護者か。またずいぶんと子供じゃのう。大丈夫なんか?』
「大丈夫かどうかは私が相手をして差し上げましょう」
『待ちな、嬢ちゃん。あんたは守護者だろう? こういうときは契約者から力を見せるのが筋ってもんよ。まさか儂にびびって戦えないって訳でもあるめぇ?』
「大丈夫ですが……大怪我を負わせては本末転倒では?」
『……それもそうじゃのう。お互い、大怪我をしてしまっては意味がないか。じゃあ、こうすんぞ。儂の尻尾の先に小さな火を灯す。それを消せたら契約者の勝ち。契約者が立てなくなったら儂の勝ちじゃ。契約者なら回復の木の実くらい山のように持たされてるじゃろ』
まあ、確かに。
過保護かと言わんばかりに山のように持たされていますからね。
それを元にしたポーションも、たくさんありますし。
『そいじゃ、いいか? 戦いを始めるぞ? 大怪我をさせないように手加減はしちゃる。全力でかかってこいや!』
「ええ、お願いします!」
まずは手始めにと言うことで《アクアランス》の魔法を撃ち込んでみましたが、届く前に蒸発して消えてしましました。
これはタフですね!
『遠慮はいらんぞ! どんどん撃ってこいや!』
「では失礼して。《アイシクルスコール》!」
さて、氷柱の雨はどうでしょう?
今度は届いてそれなりにダメージも与えているようですが……尻尾の炎はまったく弱まっていませんね。
やはり尻尾そのものを切り落とす?
でもそんな真似はしたくないですし……。
『なかなか、高レベルな水魔法を使いおるな! 次、儂からの攻撃いくで! 《ヴォルケーノショット》!』
ちょ!?
いきなり火山液の魔法ですか!?
何とか氷の盾で防ぎましたが……危なかった。
『ふむ。契約者のにーちゃんは攻撃より防御が得意か。あの一瞬で儂の《ヴォルケーノショット》を完全に防ぎきって原形をとどめている氷の盾を貼れるなんてたいしたもんや』
「ありがとうございます。ぎりぎり、なんですけどね?」
『ぎりぎりだろうとなんだろうとそれだけの盾を貼れることが重要なんじゃ。……これはほかの精霊にも紹介せにゃならんな』
「え?」
『ほらほら。戦いはまだ続いてるで! 次はなにを見せてくれる!?』
うーん、あれ、あまり安全な魔法ではないんですが……効くのがあれしかなさそうですし試してみましょうか。
「行きますよ? 危なくなったら全力でガードしてくださいね?」
「おう! なにを見せてくれるんじゃ!?」
「……《ブリザードプレッシャーズカノン》!」
『なんや!? そんな魔法まで!? 英才教育が過ぎるで、聖霊様!?』
サラマンダーは全力でガードしてくれたみたいで……何とか耐えきったみたいですね。
尻尾の炎も消えています。
『いや、恐れ入ったわ。まさか、氷の上級魔法まで使えるとは。ただ、チャージ時間が必要なのは要練習やな。今後は儂も訓練に付き合ったるさかい実戦訓練も忘れずにな』
「実戦訓練……サラマンダー、神樹の里に?」
『おう、行っちゃる。これほどまでに楽しい契約者様がいるんなら悪くないやろ。あと、儂の知り合いたちにも念話を送っといた。興味を持って集まってくるかもしれんさかい、よろしゅう』
「知り合い?」
『残念ながらこれ以上の話は神樹の里に戻ってからや。人間どもが動き始めおった。ホーリーフェンリルの子供も早かろうが儂の方がまだ早い。背中に乗れ。人間どもを迂回して神樹の里に帰るで』
「お願いします。サラマンダー」
『おうよ!』
サラマンダーは火山の反対方面を迂回しながら飛び去り、最初は神樹の里からまったく違う方向へ、そのあと神樹の里へと向かいました。
帰り着いたのは夕方間近でしたが……帰り着いたとき、怒っていたのはメイヤでしたね。
それもサラマンダーに対して。
『サラマンダー。人間どもをまく必要があるのはわかります。ですが、ここまで遅くなる意味があるのですか?』
『いや、ほんまに堪忍や、聖霊様。つい調子に乗ってしまって……』
『まったく……サラマンダーはお調子者です。サラマンダー、来たのですからお役に立ちなさい』
『なんでっしゃろ』
『シントとリンの家の近くに温泉を湧かせなさい。その程度の管理、朝飯前でしょう?』
『まあ、〝神霊〟じゃなかった〝創造魔法〟があれば朝飯前やな。水浴び用の池があればいいわけやし』
『水浴び用の池はとっくにあります。あとはそれを……』
『温泉にするなら景観もよくせんとな。ドライアドとかはおるか?』
『いますよ?』
『あとは……ノームか。ノームがいない分は契約者に頑張ってもらうか』
『サラマンダーあなたも凝り性ですね』
『当然やろ! 儂の契約者が入る温泉や! 見栄えも良くせにゃ!』
ん?
契約者?
『つーわけで、神樹の里の契約者よ。儂とも契約してくれや。名前は……〝ヴォルケーノボム〟が希望やな』
「ええと、わかりました。では始めます」
僕から出た契約の魔力はサラマンダーに吸い込まれてサラマンダーの体が輝きました。
これで契約成立?
『よっしゃ、これで問題ない! 早速だが、水浴び用の池に……』
『その前にシントたちの食事です。ヴォルケーノボムはどこに住むつもりですか?』
『神域の隅っこにでもねぐらを作って過ごすわ。儂のねぐらは常に高温だから周りになにもない方がええやろ』
『心得ているなら結構。さあ、シントたちは夕食ですよ』
僕たちも昼食はサラマンダーの背中で軽くしか食べていなかったので助かりました。
普段よりも少し多めに食べて、いよいよ〝温泉〟とやらを作りにいきます。
『ふむ。ここが水浴び用の池か。シント、回りを石で囲って深さを一定にできるか? 腰までつかるくらいや』
「その程度朝飯前ですが……どうするのです?」
『まあ、見てればええ』
ヴォルケーノボムの言うとおり回りを石で囲み深さを一定にします。
すると、ヴォルケーノボムが魔力を送り、水が多少濁ると水がすべてお湯になりました。
『どうや? これが〝温泉〟や。水浴びなんかよりも温かいし気持ちもいいで』
「そうなの? 早速入ってみようよ、シント!」
『なんや、契約者様と守護者はいつも混浴か?』
「混浴?」
『男女一緒に入るっちゅうことや。止めはせんが、間違いをおこさんようにな。景観の整備は明日ドライアドのツリーハウスと相談しながら決めるとするか。儂はねぐらの場所とねぐら作りに行く。向かって右手側の白い水が出ているところがお湯の吹き出し口で熱い、逆側が水の吹き出し口で冷たい。適度な場所を探してな』
「はい。ありがとうございます、ヴォルケーノボム」
『この程度、気にすんなや。では、おふたりさん、ごゆっくり』
のしのしと帰っていくヴォルケーノボムを見送ると、早速リンは裸になって温泉に飛び込みました。
そして、その温かさに驚いたのかすぐにとろんとした表情になります。
「シント……早く一緒に入ろう? 私このまま寝ちゃうかも」
「寝ちゃだめですよ。僕もすぐに入りますから待っていてください」
僕も服を脱ぎ温泉に入りましたが……これはいいものですね。
一日中飛び回っていた体の冷たさが一気に抜けていきます。
そんな中、リンですが……。
「はあ、温泉もいいけど、やっぱりシントの温もりが一番幸せ……」
相変わらず、こそばゆいことを言ってくれます。
今日からはこの温泉で毎日の疲れをとることになりますし……リンが眠らないようにだけ注意してあげましょう。
ツリーハウスが仲間になった翌日、目を覚ましたらリンの姿がありませんでした。
リンのことですから近いうちに行動に移すだろうなとは考えていましたが、翌日からですか……。
ともかくリンを探しにいかないと!
「ふえーん! ツリーハウス、おろしてー! こんなみっともない姿、シントにみられたら幻滅されちゃうよー!」
『だめです。聖樹の契約者の言うことも聞けない悪い子にはお仕置きが必要です』
「ふえーん!」
……どうやら、探しに行く前に家の目の前でツリーハウスにつかまっていたみたいです。
服を脱がされ、こちらに向けて股を開かれて胸も強調するように絞り上げられた恰好で。
「ああ、シントが出てきちゃった……」
『どうです、シント? 愛する女性のあられもない姿は?』
「とりあえず、下ろして服を着せてあげてください。あまりにも惨いです」
『そう? じっくりと鑑賞してもいいのよ? 特に乙女の恥ずかしいところとか。なんだったらいじくり回しても問題ないし』
「そんなー!」
「そんな真似しませんよ。リンには別の罰を言い渡しますから」
『そう? じゃあ、下ろしてあげる。今度勝手な真似をしようとしたらもっと恥ずかしい恰好を契約者様に見ていただくからね?』
「……はい。よくわからないけど、女としてものすごく恥ずかしかったです。シントには見せられないと感じる程度には」
『それがわかっていればよろしい。契約者様も本能の赴くままにリンを蹂躙してもよかったのに』
「蹂躙する?」
『ローズマリーから聞いていたけどこっちも初心ねえ。まあ、覚悟なしに子供を産むよりもマシか』
「え?」
『リン、服も着終わったんでしょう。言うことは?』
「シント、言いつけを破ってごめんなさい! どうしても〝王都〟の現状を探りたかったの! 本当に精霊様や妖精が連れ去られていると考えると……」
「リン、気持ちはわかりますが、あなたの体も大切にしてください。ああ、あと、別の罰ですが、あなたは一週間、床で寝てください」
「待って! 床で寝るのはいいけど、シントは!?」
「ベッドで寝ますよ?」
「シントの温もりと匂いをかげない!」
「はい。言いつけを、それも一日目から破った罰です。存分に反省なさい」
「……はい。罰を受け入れます」
『あらら。これに懲りたらリンも無理な真似はしないようにね。あなたの家の周りにあるお花だって木々だって私たちの見張りでもあるんだから』
「……はい」
「さて、暴走娘の頭も冷えたようですしメイヤのところで朝食としましょう」
「うん!」
「オゥン!」
「リュウセイも待たせてしまいましたね。ああ、懲罰期間はリンにはシャニービーの蜂蜜はなしですよ」
「そんな!?」
「当然です。さあ、いきましょうか」
落ち込んでしまったリンとご機嫌なリュウセイを連れてメイヤの元へ。
すると、メイヤはまたしても困った表情を浮かべています。
「メイヤ、お困りごとですか?」
『ええ、ちょっと困りごとね。とりあえず、朝食を食べてしまって。それくらいの時間でどうこうなる話じゃないから』
「わかりました。リンもリュウセイも早く食べましょう」
「うん!」
「ワォ!」
僕たちは手際よく朝食の木の実を食べ終えてメイヤの悩み事を聞きます。
ちょっと内容には言葉を失いましたが……。
「火山の精霊が行き場を失っている……」
『そうなのよ。〝精霊狩り〟によって火山を殺されたみたい。いまはまだ問題ないけれど、いずれは力を失って〝精霊狩り〟にあうわね』
「それって一大事じゃないですか! メイヤ様!」
『そうなのだけど……彼が大人しく、神樹の里に来てくれるかどうか』
「ひょっとしなくとも力尽くですか?」
『力試しは挑まれるわね』
「シント……」
「僕が挑むしかないでしょうね」
『この里の代表はあなただからそうなるわ。ともかく、お願いできるかしら? テイラーメイドの服があれば多少の熱や炎は防げるはずだから』
「わかりました。場所はどこに?」
『リュウセイにいま伝えたわ。リュウセイの足で……3時間程度ね』
「では、リュウセイの背中に乗ってですね。リュウセイ、頼みます」
「お願いね、リュウセイ」
「ウォォン!!」
リュウセイが一声鳴くとものすごい気負いで空へと飛び出して行きだしていきました。
途中、山は飛び越えられないのか一度着地しますが、それでもすごいスピードです。
そんな中、おそろいの鎧に身を包んだ人間の集団を見つけました。
あれが〝精霊狩り〟なのでしょう。
リンが怒りを溜めていますが、いまはそれどころではないですね。
そして、リュウセイの足で3時間ほどかけてたどり着いたのは火山の麓。
ただし、この火山もまったく煙を上げておらず、死んでしまっているようです。
目的の精霊とやらはどこにいるのでしょうか?
「シント! 危ない!」
「え? ッ!?」
リンの警告によって火山に空いていた洞窟の奥底から飛んできた溶岩の塊を防ぐことができました。
これ、テイラーメイドの服でも防ぎきれませんよね?
『なんだ!? ニンゲンどもが懲りもせずまたやってきたのか!?』
「ええと、あなたがここに住んでいる精霊でしょうか?」
『おう! ここを根城にしているサラマンダーじゃ! 儂は〝精霊狩り〟などに屈するつもりはないぞ!?』
「落ち着いて話を聞いていただけますでしょうか、サラマンダー様。私どもは〝精霊狩り〟ではありません。メイヤ様から頼まれてあなたを保護に参ったのです」
『メイヤ……ああ、神樹の聖霊か。つーことは契約者と守護者か。またずいぶんと子供じゃのう。大丈夫なんか?』
「大丈夫かどうかは私が相手をして差し上げましょう」
『待ちな、嬢ちゃん。あんたは守護者だろう? こういうときは契約者から力を見せるのが筋ってもんよ。まさか儂にびびって戦えないって訳でもあるめぇ?』
「大丈夫ですが……大怪我を負わせては本末転倒では?」
『……それもそうじゃのう。お互い、大怪我をしてしまっては意味がないか。じゃあ、こうすんぞ。儂の尻尾の先に小さな火を灯す。それを消せたら契約者の勝ち。契約者が立てなくなったら儂の勝ちじゃ。契約者なら回復の木の実くらい山のように持たされてるじゃろ』
まあ、確かに。
過保護かと言わんばかりに山のように持たされていますからね。
それを元にしたポーションも、たくさんありますし。
『そいじゃ、いいか? 戦いを始めるぞ? 大怪我をさせないように手加減はしちゃる。全力でかかってこいや!』
「ええ、お願いします!」
まずは手始めにと言うことで《アクアランス》の魔法を撃ち込んでみましたが、届く前に蒸発して消えてしましました。
これはタフですね!
『遠慮はいらんぞ! どんどん撃ってこいや!』
「では失礼して。《アイシクルスコール》!」
さて、氷柱の雨はどうでしょう?
今度は届いてそれなりにダメージも与えているようですが……尻尾の炎はまったく弱まっていませんね。
やはり尻尾そのものを切り落とす?
でもそんな真似はしたくないですし……。
『なかなか、高レベルな水魔法を使いおるな! 次、儂からの攻撃いくで! 《ヴォルケーノショット》!』
ちょ!?
いきなり火山液の魔法ですか!?
何とか氷の盾で防ぎましたが……危なかった。
『ふむ。契約者のにーちゃんは攻撃より防御が得意か。あの一瞬で儂の《ヴォルケーノショット》を完全に防ぎきって原形をとどめている氷の盾を貼れるなんてたいしたもんや』
「ありがとうございます。ぎりぎり、なんですけどね?」
『ぎりぎりだろうとなんだろうとそれだけの盾を貼れることが重要なんじゃ。……これはほかの精霊にも紹介せにゃならんな』
「え?」
『ほらほら。戦いはまだ続いてるで! 次はなにを見せてくれる!?』
うーん、あれ、あまり安全な魔法ではないんですが……効くのがあれしかなさそうですし試してみましょうか。
「行きますよ? 危なくなったら全力でガードしてくださいね?」
「おう! なにを見せてくれるんじゃ!?」
「……《ブリザードプレッシャーズカノン》!」
『なんや!? そんな魔法まで!? 英才教育が過ぎるで、聖霊様!?』
サラマンダーは全力でガードしてくれたみたいで……何とか耐えきったみたいですね。
尻尾の炎も消えています。
『いや、恐れ入ったわ。まさか、氷の上級魔法まで使えるとは。ただ、チャージ時間が必要なのは要練習やな。今後は儂も訓練に付き合ったるさかい実戦訓練も忘れずにな』
「実戦訓練……サラマンダー、神樹の里に?」
『おう、行っちゃる。これほどまでに楽しい契約者様がいるんなら悪くないやろ。あと、儂の知り合いたちにも念話を送っといた。興味を持って集まってくるかもしれんさかい、よろしゅう』
「知り合い?」
『残念ながらこれ以上の話は神樹の里に戻ってからや。人間どもが動き始めおった。ホーリーフェンリルの子供も早かろうが儂の方がまだ早い。背中に乗れ。人間どもを迂回して神樹の里に帰るで』
「お願いします。サラマンダー」
『おうよ!』
サラマンダーは火山の反対方面を迂回しながら飛び去り、最初は神樹の里からまったく違う方向へ、そのあと神樹の里へと向かいました。
帰り着いたのは夕方間近でしたが……帰り着いたとき、怒っていたのはメイヤでしたね。
それもサラマンダーに対して。
『サラマンダー。人間どもをまく必要があるのはわかります。ですが、ここまで遅くなる意味があるのですか?』
『いや、ほんまに堪忍や、聖霊様。つい調子に乗ってしまって……』
『まったく……サラマンダーはお調子者です。サラマンダー、来たのですからお役に立ちなさい』
『なんでっしゃろ』
『シントとリンの家の近くに温泉を湧かせなさい。その程度の管理、朝飯前でしょう?』
『まあ、〝神霊〟じゃなかった〝創造魔法〟があれば朝飯前やな。水浴び用の池があればいいわけやし』
『水浴び用の池はとっくにあります。あとはそれを……』
『温泉にするなら景観もよくせんとな。ドライアドとかはおるか?』
『いますよ?』
『あとは……ノームか。ノームがいない分は契約者に頑張ってもらうか』
『サラマンダーあなたも凝り性ですね』
『当然やろ! 儂の契約者が入る温泉や! 見栄えも良くせにゃ!』
ん?
契約者?
『つーわけで、神樹の里の契約者よ。儂とも契約してくれや。名前は……〝ヴォルケーノボム〟が希望やな』
「ええと、わかりました。では始めます」
僕から出た契約の魔力はサラマンダーに吸い込まれてサラマンダーの体が輝きました。
これで契約成立?
『よっしゃ、これで問題ない! 早速だが、水浴び用の池に……』
『その前にシントたちの食事です。ヴォルケーノボムはどこに住むつもりですか?』
『神域の隅っこにでもねぐらを作って過ごすわ。儂のねぐらは常に高温だから周りになにもない方がええやろ』
『心得ているなら結構。さあ、シントたちは夕食ですよ』
僕たちも昼食はサラマンダーの背中で軽くしか食べていなかったので助かりました。
普段よりも少し多めに食べて、いよいよ〝温泉〟とやらを作りにいきます。
『ふむ。ここが水浴び用の池か。シント、回りを石で囲って深さを一定にできるか? 腰までつかるくらいや』
「その程度朝飯前ですが……どうするのです?」
『まあ、見てればええ』
ヴォルケーノボムの言うとおり回りを石で囲み深さを一定にします。
すると、ヴォルケーノボムが魔力を送り、水が多少濁ると水がすべてお湯になりました。
『どうや? これが〝温泉〟や。水浴びなんかよりも温かいし気持ちもいいで』
「そうなの? 早速入ってみようよ、シント!」
『なんや、契約者様と守護者はいつも混浴か?』
「混浴?」
『男女一緒に入るっちゅうことや。止めはせんが、間違いをおこさんようにな。景観の整備は明日ドライアドのツリーハウスと相談しながら決めるとするか。儂はねぐらの場所とねぐら作りに行く。向かって右手側の白い水が出ているところがお湯の吹き出し口で熱い、逆側が水の吹き出し口で冷たい。適度な場所を探してな』
「はい。ありがとうございます、ヴォルケーノボム」
『この程度、気にすんなや。では、おふたりさん、ごゆっくり』
のしのしと帰っていくヴォルケーノボムを見送ると、早速リンは裸になって温泉に飛び込みました。
そして、その温かさに驚いたのかすぐにとろんとした表情になります。
「シント……早く一緒に入ろう? 私このまま寝ちゃうかも」
「寝ちゃだめですよ。僕もすぐに入りますから待っていてください」
僕も服を脱ぎ温泉に入りましたが……これはいいものですね。
一日中飛び回っていた体の冷たさが一気に抜けていきます。
そんな中、リンですが……。
「はあ、温泉もいいけど、やっぱりシントの温もりが一番幸せ……」
相変わらず、こそばゆいことを言ってくれます。
今日からはこの温泉で毎日の疲れをとることになりますし……リンが眠らないようにだけ注意してあげましょう。