一つ瞬きをすると、奴隷オークションの会場から【ハイドアウト】に帰還していた。
やはり転移魔法は楽で助かる。
「さあ、着いたぞ」
「……え? ここは……どこ……?」
俺が声をかけると、シエルは柔らかい絨毯の上に座りながら、ゆっくりと視線を動かし部屋の中を見ていた。
転移先は【ハイドアウト】の奥に位置する居住スペースだ。
ここは表にある薄暗い店内とはまるで違う為、初見で【ハイドアウト】だと気づけるはずがない。
「———シエル。君には今日からここで働いてもらう」
「は、働く? わ、私に何をする気……!?」
シエルは自身の体を抱いて小さく震えていた。
まあ、訳のわからない男に買われたと思ったら、いきなり働けと言われたのだから当然の反応だ。
「ついてきてくれ」
シエルはまだ状況が飲み込めていないようなので、俺は特に説明をせずに、薄暗いバーカウンターに連れて行った。
「———ここは……この前の……」
昨日と立っている位置は逆だが、どこにいるかは察してくれたようだ。
「ここで働いてもらう」
「え?」
「どうだ? 働いてくれるか?」
「マスターは? マスターはどこ? ここには優しいマスターがいたの……」
シエルはわなわなと震えながら、辺りを見回していた。
少し話しただけなのに、優しいと評してくれるとはありがたい。
「マスターはどこにいると思う?」
俺は優しいと呼ぶには低すぎるトーンで、不敵に笑いながら聞いた。
「……ま、まさか!」
すると、シエルは口をぽっかりと開けながらも瞳の奥を震わせた。
これは妙な妄想を膨らませているな。ちょっと驚かせてやろうと思っただけなんだが、思った以上に本気に捉えられてしまった。
精神的に弱っていることだろうし、変な冗談は控えた方が良さそうだ。
「悪い、俺がマスターのスニークだ」
「えぇ!?」
俺が顔を覆うほど大きな黒いマスクを外すと、シエルは心底驚いたというような表情をしていた。
そして彼女は続け様に口を開く。
「……どうして? どうして私を買ったの……? 出会って間もないのに、大金を叩いてまで、使えるかどうかも分からない奴隷を買うなんてばかばかしいよ!」
確かに、俺は腐るほど金を持っているが、こんな使い方は馬鹿なのかもしれない。
だが、そこにはしっかりとした理由があった。
「シエルを買ったのは俺の自己満足と偽善的な心だ。そこは否定しない。だが、一度見知った人間が酷い目に遭うのはちょっと悲しいだろ?」
パーティーメンバーに騙され、金を返すことが出来ず奴隷になる。
他にもこれと同程度、又はそれ以上の苦しい思いをしている者はたくさんいるだろう。
だが、それは俺からしたら他人なので全員は救えない。
救える範囲で命を救った。それだけだ。
先ほど逃した奴隷たちも一緒だ。最低限の手助けをしただけにすぎず、それ以上のサポートはしてやれない。
「……シエルは俺の記念すべき初めての客なんだ。簡単に見捨てたら寝覚めが悪いだろ?」
「……っっ……ぅぅ……」
シエルは喜びか、悲しみか、はたまた双方か、詳しい感情は分からないが、涙を流しながら綺麗な笑顔を浮かべていた。
俺は涙を流す彼女に寄り添い続けたのだった。
やはり転移魔法は楽で助かる。
「さあ、着いたぞ」
「……え? ここは……どこ……?」
俺が声をかけると、シエルは柔らかい絨毯の上に座りながら、ゆっくりと視線を動かし部屋の中を見ていた。
転移先は【ハイドアウト】の奥に位置する居住スペースだ。
ここは表にある薄暗い店内とはまるで違う為、初見で【ハイドアウト】だと気づけるはずがない。
「———シエル。君には今日からここで働いてもらう」
「は、働く? わ、私に何をする気……!?」
シエルは自身の体を抱いて小さく震えていた。
まあ、訳のわからない男に買われたと思ったら、いきなり働けと言われたのだから当然の反応だ。
「ついてきてくれ」
シエルはまだ状況が飲み込めていないようなので、俺は特に説明をせずに、薄暗いバーカウンターに連れて行った。
「———ここは……この前の……」
昨日と立っている位置は逆だが、どこにいるかは察してくれたようだ。
「ここで働いてもらう」
「え?」
「どうだ? 働いてくれるか?」
「マスターは? マスターはどこ? ここには優しいマスターがいたの……」
シエルはわなわなと震えながら、辺りを見回していた。
少し話しただけなのに、優しいと評してくれるとはありがたい。
「マスターはどこにいると思う?」
俺は優しいと呼ぶには低すぎるトーンで、不敵に笑いながら聞いた。
「……ま、まさか!」
すると、シエルは口をぽっかりと開けながらも瞳の奥を震わせた。
これは妙な妄想を膨らませているな。ちょっと驚かせてやろうと思っただけなんだが、思った以上に本気に捉えられてしまった。
精神的に弱っていることだろうし、変な冗談は控えた方が良さそうだ。
「悪い、俺がマスターのスニークだ」
「えぇ!?」
俺が顔を覆うほど大きな黒いマスクを外すと、シエルは心底驚いたというような表情をしていた。
そして彼女は続け様に口を開く。
「……どうして? どうして私を買ったの……? 出会って間もないのに、大金を叩いてまで、使えるかどうかも分からない奴隷を買うなんてばかばかしいよ!」
確かに、俺は腐るほど金を持っているが、こんな使い方は馬鹿なのかもしれない。
だが、そこにはしっかりとした理由があった。
「シエルを買ったのは俺の自己満足と偽善的な心だ。そこは否定しない。だが、一度見知った人間が酷い目に遭うのはちょっと悲しいだろ?」
パーティーメンバーに騙され、金を返すことが出来ず奴隷になる。
他にもこれと同程度、又はそれ以上の苦しい思いをしている者はたくさんいるだろう。
だが、それは俺からしたら他人なので全員は救えない。
救える範囲で命を救った。それだけだ。
先ほど逃した奴隷たちも一緒だ。最低限の手助けをしただけにすぎず、それ以上のサポートはしてやれない。
「……シエルは俺の記念すべき初めての客なんだ。簡単に見捨てたら寝覚めが悪いだろ?」
「……っっ……ぅぅ……」
シエルは喜びか、悲しみか、はたまた双方か、詳しい感情は分からないが、涙を流しながら綺麗な笑顔を浮かべていた。
俺は涙を流す彼女に寄り添い続けたのだった。