「———いよいよ、最後になりました。これまで、エルフや人魚族、犬人族や猫人族など、多くの種族の紹介をして参りましたが、最後に紹介するのは、このオークションで扱うのも初めて、私が実物を見るのも初めての目玉商品! 若干十六歳の魔族と人間のハーフの少女だ!」
興奮した様子の司会の男が叫ぶと、布で覆われた何かがステージ袖から中央へと運ばれてきた。
「なにぃ!? 魔族だと!?」
「大丈夫なのか!?」
「おいおい、魔族を奴隷にするなんて規格外だぜ!」
冒険者や貴族が騒いでいるが、もっともな意見だ。
純血の魔族だとしたら危険だろう。
数千年前より敵対し続ける人間と魔族が相入れるのは不可能に近いのだから。
「———皆様、どうぞご安心ください。奴隷の首輪は装着するだけで全ての力を制御することができる万能なアイテム! いくら相手が魔族であろうと、こちらには一切逆らえません! 万が一に備えて、現在は檻の中に入れた状態での紹介になりますので、ご了承ください! それでは、ご覧あれ!」
司会の男の掛け声と共に布が取り払われると、そこにはスポットライトに照らされた頑強そうな檻があった。
檻の中にはボロ切れのような衣服を身に纏っている銀髪の少女———シエルの姿がある。
何となく純粋な人間ではないとは思っていたが、あの微弱に感じる不思議なオーラは魔族のものだったか。
しかし、魔族の血はかなり薄いのでほとんど人間と変わらないだろう。
遥か昔の先祖の一人が魔族だっただけなのかもしれないな。
「それでは、値段は五百万ゼニーからのスタートになりますが、ここで一つだけ注意点があります! 実はこの奴隷は一千万ゼニーの借金を背負わされているので、皆様ご存知の通り購入した瞬間に借金の返済義務は主に移行します! では、始め!」
これまでは途中で出てきたエルフの女性が最も高く、スタート額が三百万ゼニーだったので、ここにきて最も高い数字になる。
まずは様子見だな。
「五百二十!」
「五百六十!」
「六百!」
魔族という珍しい奴隷が欲しいのか、ここまで競り勝つことのできていなかった貴族たちが、こぞって参加していた。
魔族の奴隷という物珍しさの影響か借金については誰も考慮していないらしい。
中でも六百の声を上げた貴族は、ヘンダーソン公爵家の一人息子———チャーリー・ヘンダーソンだった。
悪徳貴族として有名で、冒険者の間でも煙たがられている存在だ。
金に物を言わせるボンボン息子が好かれるはずがない。気に入らない人間を不幸に貶めるのが趣味らしく、顔を覚えられたら最後とまで言われている。
こんなやつと争うことになるのは不服だが、俺も彼女のことが欲しいので我慢するとしよう。
「六百でよろしいのですか!? では———」
「———七百だ」
俺は静かに、だが確実に通る声を出して、ステージにいる奴隷商人の男に告げた。
一般席の最後方から参加する俺に視線が集まる。
「ぼ、ぼくは七百十だ!」
「七百八十」
「——くっ! な、な、七百九十!」
「八百二十」
チャーリーは恨めしそうな表情で俺のことを睨みつけていたが、俺は間髪入れずに値段を吊り上げていく。
「誰だあの黒髪の男は? あの席にいるってことは一般人だろ?」
「社交界でも見たことがないぞ」
「まさかチャーリー様に喧嘩を売るとはな。ヘンダーソン家が黙っていないぞ。あいつは食い物にされて終わりだな」
オークション会場にいる人々が、俺の姿をジロジロと見ながらざわめき始めた。
視線を感じるが問題ない。目以外を覆い尽くすマスクをつけているし、露出している黒髪はさほど珍しくはないので、それだけではバレないだろう。
それに、そもそも俺は”賢者”と呼ばれてはいたが、顔や姿は全く知られていない。
というのも、俺は『皇』に加入するまではずっとソロで冒険していたのだが、ソロであるが故に目立つことを恐れ、一定の時期ごとに魔法で髪や瞳の色、容姿から性別まで常に変え続けていた。
今の黒い髪と瞳は素の姿になるが、この姿を知るものは『皇』のメンバーのみとなる。
「では、八百二十万ゼニーでよろしいのですね!?」
「———くそ……ッ!」
奴隷商の男は一般席に座る俺と、最前列に座るチャーリーの姿を交互に見ながら最終確認をしたが、チャーリーはこれ以上は金を出す気がなさそうだった。
彼らがしているのは商売だ。
貴族だからといって忖度する気はないのだろう。
金を出す方に譲る。それだけだ。
「かしこまりました! なんと、一般のお客様の手によって、八百二十万ゼニーで落札となりました! そちらのお客様はステージ裏までお越しください! これにて、本日の奴隷オークションを終了致します!」
俺がシエルを無事に購入したと同時に、半年に一度の奴隷オークションは無事に幕を閉じた。
それにしても、たった八百二十万ゼニー……いや、借金を含めると二千万ゼニーに近い額か。
だが、それだけで彼女のことを救えて、尚且つ雇用できる人材が手に入るなんて儲けもんだな。
興奮した様子の司会の男が叫ぶと、布で覆われた何かがステージ袖から中央へと運ばれてきた。
「なにぃ!? 魔族だと!?」
「大丈夫なのか!?」
「おいおい、魔族を奴隷にするなんて規格外だぜ!」
冒険者や貴族が騒いでいるが、もっともな意見だ。
純血の魔族だとしたら危険だろう。
数千年前より敵対し続ける人間と魔族が相入れるのは不可能に近いのだから。
「———皆様、どうぞご安心ください。奴隷の首輪は装着するだけで全ての力を制御することができる万能なアイテム! いくら相手が魔族であろうと、こちらには一切逆らえません! 万が一に備えて、現在は檻の中に入れた状態での紹介になりますので、ご了承ください! それでは、ご覧あれ!」
司会の男の掛け声と共に布が取り払われると、そこにはスポットライトに照らされた頑強そうな檻があった。
檻の中にはボロ切れのような衣服を身に纏っている銀髪の少女———シエルの姿がある。
何となく純粋な人間ではないとは思っていたが、あの微弱に感じる不思議なオーラは魔族のものだったか。
しかし、魔族の血はかなり薄いのでほとんど人間と変わらないだろう。
遥か昔の先祖の一人が魔族だっただけなのかもしれないな。
「それでは、値段は五百万ゼニーからのスタートになりますが、ここで一つだけ注意点があります! 実はこの奴隷は一千万ゼニーの借金を背負わされているので、皆様ご存知の通り購入した瞬間に借金の返済義務は主に移行します! では、始め!」
これまでは途中で出てきたエルフの女性が最も高く、スタート額が三百万ゼニーだったので、ここにきて最も高い数字になる。
まずは様子見だな。
「五百二十!」
「五百六十!」
「六百!」
魔族という珍しい奴隷が欲しいのか、ここまで競り勝つことのできていなかった貴族たちが、こぞって参加していた。
魔族の奴隷という物珍しさの影響か借金については誰も考慮していないらしい。
中でも六百の声を上げた貴族は、ヘンダーソン公爵家の一人息子———チャーリー・ヘンダーソンだった。
悪徳貴族として有名で、冒険者の間でも煙たがられている存在だ。
金に物を言わせるボンボン息子が好かれるはずがない。気に入らない人間を不幸に貶めるのが趣味らしく、顔を覚えられたら最後とまで言われている。
こんなやつと争うことになるのは不服だが、俺も彼女のことが欲しいので我慢するとしよう。
「六百でよろしいのですか!? では———」
「———七百だ」
俺は静かに、だが確実に通る声を出して、ステージにいる奴隷商人の男に告げた。
一般席の最後方から参加する俺に視線が集まる。
「ぼ、ぼくは七百十だ!」
「七百八十」
「——くっ! な、な、七百九十!」
「八百二十」
チャーリーは恨めしそうな表情で俺のことを睨みつけていたが、俺は間髪入れずに値段を吊り上げていく。
「誰だあの黒髪の男は? あの席にいるってことは一般人だろ?」
「社交界でも見たことがないぞ」
「まさかチャーリー様に喧嘩を売るとはな。ヘンダーソン家が黙っていないぞ。あいつは食い物にされて終わりだな」
オークション会場にいる人々が、俺の姿をジロジロと見ながらざわめき始めた。
視線を感じるが問題ない。目以外を覆い尽くすマスクをつけているし、露出している黒髪はさほど珍しくはないので、それだけではバレないだろう。
それに、そもそも俺は”賢者”と呼ばれてはいたが、顔や姿は全く知られていない。
というのも、俺は『皇』に加入するまではずっとソロで冒険していたのだが、ソロであるが故に目立つことを恐れ、一定の時期ごとに魔法で髪や瞳の色、容姿から性別まで常に変え続けていた。
今の黒い髪と瞳は素の姿になるが、この姿を知るものは『皇』のメンバーのみとなる。
「では、八百二十万ゼニーでよろしいのですね!?」
「———くそ……ッ!」
奴隷商の男は一般席に座る俺と、最前列に座るチャーリーの姿を交互に見ながら最終確認をしたが、チャーリーはこれ以上は金を出す気がなさそうだった。
彼らがしているのは商売だ。
貴族だからといって忖度する気はないのだろう。
金を出す方に譲る。それだけだ。
「かしこまりました! なんと、一般のお客様の手によって、八百二十万ゼニーで落札となりました! そちらのお客様はステージ裏までお越しください! これにて、本日の奴隷オークションを終了致します!」
俺がシエルを無事に購入したと同時に、半年に一度の奴隷オークションは無事に幕を閉じた。
それにしても、たった八百二十万ゼニー……いや、借金を含めると二千万ゼニーに近い額か。
だが、それだけで彼女のことを救えて、尚且つ雇用できる人材が手に入るなんて儲けもんだな。