「さて……記憶を抜き取るか」
俺はぐでんと背中合わせに眠る公爵とチャーリーの元へ向かうと、左右それぞれの手を二人の頭の上に翳し、集中力を高めてから魔法を発動した。
「記憶影法」
口にした瞬間。
俺の頭の中には膨大な量の他人の知らない記憶が入り込んでくる。
赤子の頃から甘やかされて育ったチャーリー。彼は何人もの奴隷をその手をかけ、人を殺すという行為に何の罪悪感も抱いていない。父である公爵も同様で、間抜けなチャーリーを隠れ蓑にして裏で悪事を重ねていた。他の貴族の邸宅に爆弾を仕掛けたり、ギルドに権力的な重圧をかけて金をむしり取ったり、極め付けは先ほどの合成獣作成だ。作成に伴って無数の奴隷が実験台となり、過去には人間同士を人工的に組み合わせたりもしていた。
「……反吐が出る」
記憶影法は抜き取る記憶の取捨選択ができないので、善悪問わず自分の頭の中に取り入れられてしまう。この二人のような悪党に使ってしまうと、善など微塵もないのでただ具合が悪くなってしまう。
代わりに、それに耐えられれば記憶の全てを手に入れられる他、その者が持つ能力、知恵、経験などの普通では手に入れ難い要素から、筆跡や趣味スキルなどの簡単なものまで、文字通り全てをコピーすることができる。
つまり何が言いたいかというと、俺は公爵とチャーリーのフリをして全ての悪事に関する文書を作成し、それらをアレンのみならず王都全域に拡散し、ヘンダーソン公爵家が行なってきた悪事の全てを公のものにする。
ついでにこの邸宅も貰っちゃおうか。
どうせ誰も使わなくなるし、捨ててしまうのは勿体無いからな。
何かに活用できるかもしれないので、競売に出すとでも書いておいて、今度それを俺が正式に買い取ろう。
「さあ、公爵の記憶を全てゲットしたことだし、公的な文書としてサインもしちゃって、全部の悪事を書き連ねていこうか。ついでに奴隷も解放して信憑性を高めよう。あわよくば奴隷オークションを潰すこともできるし、一石二鳥を遥かに超えられるな」
俺は明日以降、このビッグニュースが世間を騒がせるかと思うと、胸に宿る高揚感を隠すことができなかった。
やがて、あたかも公爵本人が筆を走らせたかのような公的な文書を作成し終えると、俺は苦悶の表情で眠りにつく二人を縄で縛りつけた。
こいつらはアレンの執務室に送り込んでやるか。
「この文書は公爵の胸元にでも忍ばせておくか。よし、瞬間転移」
俺は背中合わせにして縛りつけた公爵とチャーリーのことを、一瞬にしてアレンの元へ届けた。
これで残りやるべきことは一つか。
「取り敢えず奴隷たちは治療をしてから、全員まとめて冒険者ギルドの一階フロアに飛ばすか」
俺は未だ漆黒の炎に焼かれ続ける合成獣の横を通り抜けると、奴隷たちが閉じ込められているフロアに足を運んだ。
改めて、暗い空間の中で憔悴しきった彼らの姿を確認する。
「……悪いが、完全に治癒はできない」
彼らを完全に治療することは容易いが、それでは奴隷として劣悪な環境で過ごした証明ができなくなる。
胸が痛むが、致命傷になりうる大きな傷だけ簡易的に治して、死なない程度に生かすことにした。
状態的には満身創痍の一歩手前といったところだろうか。
可哀想だがこちらにも事情があるのでな、殺したりはしないから許してくれ。
俺は両の掌を擦り合わせた。
「———静風療癒」
俺が回復魔法を発動させると同時に、ジメジメとして真っ暗な空間に穏やかなそよ風が吹いた。
頬を僅かに掠めるほどの弱々しい風には魔力が含まれており、それを浴びた者は表面的な傷を回復することができる。
今回のように広範囲に簡単な回復魔法をかけたい時はおすすめだ。
やがて、優しい風が収まったので、俺は間髪入れずに空間全体に転移魔法を発動させた。
「……よし、終わり」
これで今夜行うべき全ての工程を終えた。
今後についてはまた今度考えよう。
別に急ぐことでもないし。
それよりも明日は王都が騒がしくなりそうだな。
シエルの驚く顔が楽しみだ。
俺はぐでんと背中合わせに眠る公爵とチャーリーの元へ向かうと、左右それぞれの手を二人の頭の上に翳し、集中力を高めてから魔法を発動した。
「記憶影法」
口にした瞬間。
俺の頭の中には膨大な量の他人の知らない記憶が入り込んでくる。
赤子の頃から甘やかされて育ったチャーリー。彼は何人もの奴隷をその手をかけ、人を殺すという行為に何の罪悪感も抱いていない。父である公爵も同様で、間抜けなチャーリーを隠れ蓑にして裏で悪事を重ねていた。他の貴族の邸宅に爆弾を仕掛けたり、ギルドに権力的な重圧をかけて金をむしり取ったり、極め付けは先ほどの合成獣作成だ。作成に伴って無数の奴隷が実験台となり、過去には人間同士を人工的に組み合わせたりもしていた。
「……反吐が出る」
記憶影法は抜き取る記憶の取捨選択ができないので、善悪問わず自分の頭の中に取り入れられてしまう。この二人のような悪党に使ってしまうと、善など微塵もないのでただ具合が悪くなってしまう。
代わりに、それに耐えられれば記憶の全てを手に入れられる他、その者が持つ能力、知恵、経験などの普通では手に入れ難い要素から、筆跡や趣味スキルなどの簡単なものまで、文字通り全てをコピーすることができる。
つまり何が言いたいかというと、俺は公爵とチャーリーのフリをして全ての悪事に関する文書を作成し、それらをアレンのみならず王都全域に拡散し、ヘンダーソン公爵家が行なってきた悪事の全てを公のものにする。
ついでにこの邸宅も貰っちゃおうか。
どうせ誰も使わなくなるし、捨ててしまうのは勿体無いからな。
何かに活用できるかもしれないので、競売に出すとでも書いておいて、今度それを俺が正式に買い取ろう。
「さあ、公爵の記憶を全てゲットしたことだし、公的な文書としてサインもしちゃって、全部の悪事を書き連ねていこうか。ついでに奴隷も解放して信憑性を高めよう。あわよくば奴隷オークションを潰すこともできるし、一石二鳥を遥かに超えられるな」
俺は明日以降、このビッグニュースが世間を騒がせるかと思うと、胸に宿る高揚感を隠すことができなかった。
やがて、あたかも公爵本人が筆を走らせたかのような公的な文書を作成し終えると、俺は苦悶の表情で眠りにつく二人を縄で縛りつけた。
こいつらはアレンの執務室に送り込んでやるか。
「この文書は公爵の胸元にでも忍ばせておくか。よし、瞬間転移」
俺は背中合わせにして縛りつけた公爵とチャーリーのことを、一瞬にしてアレンの元へ届けた。
これで残りやるべきことは一つか。
「取り敢えず奴隷たちは治療をしてから、全員まとめて冒険者ギルドの一階フロアに飛ばすか」
俺は未だ漆黒の炎に焼かれ続ける合成獣の横を通り抜けると、奴隷たちが閉じ込められているフロアに足を運んだ。
改めて、暗い空間の中で憔悴しきった彼らの姿を確認する。
「……悪いが、完全に治癒はできない」
彼らを完全に治療することは容易いが、それでは奴隷として劣悪な環境で過ごした証明ができなくなる。
胸が痛むが、致命傷になりうる大きな傷だけ簡易的に治して、死なない程度に生かすことにした。
状態的には満身創痍の一歩手前といったところだろうか。
可哀想だがこちらにも事情があるのでな、殺したりはしないから許してくれ。
俺は両の掌を擦り合わせた。
「———静風療癒」
俺が回復魔法を発動させると同時に、ジメジメとして真っ暗な空間に穏やかなそよ風が吹いた。
頬を僅かに掠めるほどの弱々しい風には魔力が含まれており、それを浴びた者は表面的な傷を回復することができる。
今回のように広範囲に簡単な回復魔法をかけたい時はおすすめだ。
やがて、優しい風が収まったので、俺は間髪入れずに空間全体に転移魔法を発動させた。
「……よし、終わり」
これで今夜行うべき全ての工程を終えた。
今後についてはまた今度考えよう。
別に急ぐことでもないし。
それよりも明日は王都が騒がしくなりそうだな。
シエルの驚く顔が楽しみだ。