「だが、あんたの言う事も最もだ。奴隷達は強迫まがいの口止めをされていて情報を聞き出すことすらできねぇかもしれねぇ。そうなると、もうお手上げだ。紙の証拠なんて残ってないだろうしな……」

「紙に残しておいたものだけが記録ではない。全て俺に任せておけ」

「……」

 俺が強気に言い放つと、アレンは言葉を失って放心していた。

 仮にヤツが紙に記録を残していなくとも、頭の中に鮮明ではっきりと宿るものがある。
 それは見た瞬間、聞いた瞬間に知覚し、紙に書かずとも瞬間的に処理することができる人間が持つ元来の力だ。

 俺はそれらを魔法で外界に引き出すことができる。

 故に問題はない。全て俺に任せておけばいい。

「それで、肝心のチャーリー・ヘンダーソンはどこにいる?」

 俺は放心し続けるアレンに尋ねた。

「あ、ああ……お、王都を抜けて西に向かって三十分位歩き進めると、バカみたいにデカい邸宅がある。そこには公爵様も住んでおられるし、対象の一人息子もいる。他には雇われの騎士だったり召使いも大勢いるから侵入は容易じゃないぜ」

「了解した。明朝には戻る」

 俺は即答すると、すぐさま転移魔法の準備を整えた。
 場所は西に向かって歩いて三十分。一度も行ったことがないので転移魔法で直接は行けないが、大体の位置はわかったので近隣に飛んでみるか。

「は? お、おい! まさか一晩でどうこうするって訳じゃねぇよな?」

 アレンは驚きながらも止めてきた。

「元よりそのつもりだ。俺には時間がないんだ」

 早くバーをオープンしたいので、何としてでも今夜中に決着をつける。
 そうすればシエルの心には蟠りがなくなって平穏が戻るし、俺も役目を無事に果たすことができるのだ。

「へへへ……わかったぜ。公爵家を相手にすることを恐れてねぇってことは、もっとヤベェ案件を抱えてるってことだな? 流石は貴族や成金御用達の奴隷オークションをぶっ壊した英雄(ヒーロー)だぜ!」

 アレンは変な勘違いをしているらしいが、単なるバーのマスターはそんなヤベェ案件は一つとして抱えていない。

 俺は単純にシエルが持つ過去の嫌な記憶を振り払って、穏やかな暮らしを手に入れたいだけだ。

「……まあ、そんな感じだ」

 ノリが良く話が弾んでしまいそうだったので、俺は適当に言葉を返して向かう位置を頭の中でイメージした。

 そして、瞬時に邸宅からほど近いであろう位置をピックアップする。
 
「この辺りか……」

「何がだ?」

「いや、こっちの話だ。それじゃあ明朝、また会おう。瞬間転移(テレポート)

 俺は首を傾げてこちらを見てくるアレンに一つ言葉を返して、すぐさまピックアップした位置に転移したのだった。

 転移する最中、アレンが口をおっ広げて驚いているのが見えたが特に気にしない。

 今は公爵家の邸宅とやらに忍び込む術を考えるとしよう。