「参る!」

 戦況の分析もそこそこに、大剣使いの男は地を蹴り手元に力を込めた。
 もっさりとした動きで隙だらけではあるが、リーチのある大剣と重厚な鎧のおかげで何とかなっている形だ。

「おおっ……本当に斬れ味はゼロなんだな」 

 俺は後方にステップを踏むことで横薙ぎ一閃を難なく回避した。
 攻撃は先ほどのダガー使いの少年よりも更に遥かに単調だ。
 攻撃力と防御力のみで戦ってきた完全なるパワータイプだな。
 
「今のを躱すとは、中々やるな」

 体躯がデカくて鈍い動きのモンスターになら当たったかもしれないが、対人戦におけるその鈍足攻撃には全く意味がないと思う。

 堂々とした口調で感心しているところ申し訳ないな……。

「御託はいいから早く本気を出してくれ」

 俺は呆れ混じりにそう言うと、大剣使いの男は肩をすくめて笑っていた。

「くはっ……いいだろう! 我が美技にどれほど耐えられるかな!?」

 男は初撃の時よりも力強く地を蹴ると、体験で床を削りながら駆け出した。

 そして俺との距離が徐々に縮まっていくと、今度は大剣を上に振り上げた。
 先ほどの一撃で既に理解していたが、この男には頭を凝らした戦術が一切ないようだ。
 
 その重さの鎧を着て、その大きさの大剣を上に振り上げた時点で、もう他の攻撃の手立ては限られてくるし、キャンセルは効かなくなっている。

 つまり、俺は上からの攻撃のみに気をつけていれば良いということだ。

「……大剣はな。近接攻撃が全てじゃないんだぜ?」

 俺はゆっくりと迫り来る攻撃を視界に捉えながらも、瞬時に足元に転がる一本のダガーをその手で拾い上げた。

 少年、拝借させてもらうぞ。

「何を意味不明なことを! あまり舐めるな!」

「そんな攻撃は一歩横に動くだけで容易に回避できる」

「なっ!?」

 俺が小さくステップを踏んで攻撃を躱すと同時に、男が振るった大剣は見事に床に突き刺さった。

「おまけに斬れ味ゼロのこの鈍器じゃぁ、斬撃波(ざんげきは)を放つことすらできない」

 俺はそんな体験をダガーでコンコン叩きながら男に声をかける。
 材質は中々良さそうだ。しっかりと手入れをすれば化けるだろうに、勿体無いな。

「ふざけるな! 斬撃波は限られた者のみが放てる唯一無二の一撃! そう易々と放てるものではない!」

 男は怒りを孕んだ声色で体験を引っこ抜くと、またも大振りな横薙ぎで攻撃をしてきた。
 俺は適当に跳躍することで回避すると、男から数メートル距離を保ち、一本のダガーを右手で軽く握った。

「俺は至って真面目だよ。斬撃波はコツがいるんだ。手本を見せてやる」

 俺はダガーを逆手に持ち帰えて、大剣使いの男の姿を見据えた。