対峙するのは二人のBランク冒険者だ。

 実力で言えばそこそこと言ったところか、少しばかりお粗末な装備品からして、まだまだCランクから上がりたてだろう。

 少年は軽装備だ。刃渡30センチほどのダガーを両手に持っており、守りの姿勢は一切取っていない。油断ではなく、そういうスタイルだろう。胸や急所、関節部分はもう少し守りを固めるべきだ。あれではBランク以上のクエストに行っても痛い目に遭う。
 まあ、機敏な動きで翻弄し、細かなダメージの蓄積や刃先に塗った毒などで相手を倒すタイプだろうし、これまではスピードありきでなんとかなったのだろう。

 逆に大剣を持った男は大振りな一撃で周囲もろとも吹き飛ばす完全なパワータイプだな。
 切先や刃の手入れが上手く施されておらず、あれでは本当の大剣とは呼べない。単なる鈍器だ。

 鎧は重厚で良いが、些か重厚すぎるような気がする。
 頭から足のつま先まで全てを覆い尽くすフルプレートアーマーを装備することで、外部からの攻撃を遮断し確固たる守りを築けるが、代わりに鈍足になり体力の消耗が激しくなってしまう。

 長期戦に向かないが故に戦いを先急ぐ癖が身につく。

「……ふむ」

 一通り二人の分析を終えた俺は、顎に手をやりどのように倒してやろうか考えた。
 どうせなら二人の弱点をとことんまで突いてやろうか。アレンもああ見えてCランク冒険者程度の実力はあるし、頭を使って戦う俺の意図は伝わるだろう。

 よし、そうしよう。

「じっくり考えてるところ悪いんだけど、こっちから仕掛けさせてもらうよー?」

 数十秒間の沈黙に耐えかねたのか、ダガー使いの少年は痺れ切らしてステップする速度を早めていた。

「元より先手は譲るつもりだ。かかってこい」

 俺はあえて挑発的な笑みを浮かべると、人差し指を使って攻撃をするよう促した。

 こちらから仕掛けたら一瞬で終わってしまうからな。

「むー、なんかムカつくねー。じゃあ、いくよ!」

 俺の挑発にまんまと乗せられたダガー使いの少年は、頬を膨らませてムッとした顔つきになるや否や、すぐさまダガーをこちらに向けながら駆け出した。

 彼は俊敏な動きで、俺との距離を詰める。

「中々のスピードだが……甘い」

 俺は眼前まで迫り来るダガー使いの少年の動きを認識した。

 振り上げる腕の角度とダガーを握る手の角度からして、攻撃は肩口を斬り裂く上段から仕掛けてくるだろう。

「喰らえっ!」

「……」

 苛立ちを孕んだ掛け声と共に繰り出された一撃だったが、先読みしていた俺は余裕で回避した。

 案の定、攻撃は両方のダガーが上から下に振り下ろされるだけの単調なものだった。
 本来のダガーは手数の多さを利用して矢継ぎ早に攻撃を仕掛けるのがセオリーだが、今のは初撃ということもあってか一撃のみだった。

「ふーん、やるじゃん」

「そりゃどうも。だが、今のじゃ物足りない。もっと仕掛けてこい」

「ずいぶん余裕なんだねー……じゃあ、本気で行くからね!」

 またも俺の挑発的な言葉に乗せられた少年は、先ほどよりも敵対心と殺気を纏いながら駆け出した。

 そして、Bランク冒険者に成り立てとしてはかなり速いと言えるスピードで、ダガーを縦横無尽に振っていく。
 足元では小刻みなステップを踏み、まるでダンサーのように舞いながら、手数の多い攻撃を仕掛けてきた。

「やっ! えいっ!」

「……中々やるな」

 年相応の掛け声には目を瞑るとして、その慣れた攻撃のセンスは中々のものだった。
 アレンに選ばれて依頼を任されるだけあるな。

 しかし、パターンが読みやすい。

 上段の次は横薙ぎ、躱されたら決まって反時計回りにステップを踏んで、体術で蹴りを入れてくる。
 蹴りを防がれたら流れるように腹を突こうとしてくるが、それすらも難なくあしらうと、一旦距離を取りすぐさま再度上段攻撃に戻る。

 これの繰り返しだ。途中、状況に応じて細かな攻撃も仕掛けてはきたが、どれもあまり質の高い攻撃とは言えなかった。

 正直期待外れだ。

 そろそろダガー使いの少年との戦いは終わらせるとしよう。

 アレンに力を見せつけたいのと同時に、俺はあまり時間がないんだ。
 バーのマスターとして平穏を取り戻すためにも、今夜中にとっとと決着をつけたい。