「ふむ……」

 意味不明な行動に俺は思わず疑念の声を漏らす。

 それとほぼ同時のことだった。

 俺は部屋の奥、暗闇の向こうから妙な気配を感じ取り、ゆっくりと後方に視線を移した。

「……何者だ?」

 後方には二人の男が佇んでいた。
 一人は背が高く、重厚な鎧を身に纏い、片手で巨大な大剣を持っている。
 もう一人は背が低く装備も軽装だが、両手に鋭利なダガーを装着しており、小刻みなステップを踏んでこちらの様子を窺っていた。

「悪いね、ギルマスから直々の依頼なんでね。大人しく戦ってもらうよー」

「理由は聞かされていないが、我々は来訪者と模擬戦をするように依頼されている。Bランク冒険者が二人がかりで申し訳ないと思っている」

 背が低い男、否、声色からしておそらく少年だろうか。
 少年は伸びやかな軽い口調でダガーを構え、背の高い男は低い声で謝辞を述べて大剣を構えた。

 特段、俺への私怨や殺気は感じない。

 “模擬戦”という言葉に聞き間違いはない。
 であれば、どうして彼らがこうして俺と対峙しているのか、その理由は明白だった。

「要は、まだ見ぬ来客の腕試しってところか」

 アレンは単なるバーのマスターに紹介された謎の人物を信用していないのだ。故に、こういった形で、それなりの実力者と相見える機会を強制的に設けたわけだ。

 本当に強いやつならBランク冒険者くらいなら倒せるだろ? と笑っているアレンの顔が頭に浮かぶ。

 きっと今も魔道具が何かで監視しているはずだ。
 多分、あの天井についている透明な球体がそうだろう。
 
「……」

 俺は数歩前に足を踏み出すと、二人の姿がより鮮明に見える位置に立ち対峙した。
 同時に二人はギョッと驚いた顔つきになる。

「あ、あれ? その格好って……」

「目元以外を覆い尽くす黒い仮面……いや、マスクか? そして黒い髪と全身を隠すほど大きな黒いローブ……少し前まで、チャーリー様が血眼になって探していた者に容姿がそっくりだ」

 二人は俺の全身にゆっくりと強い視線を這わせていた。
 やはり、チャーリーが直々に通知文を掲示し、大々的に多くの騎士を使って捜索していたので、謎の黒ずくめの仮面の男は結構名が知れているらしい。

 ただ、仮面ではなくマスクなので悪しからず。

「へへへ、ギルマスって凄い奴と知り合いなんだね。きっと強いんでしょ? ならこっちも少し本気を出さないとやられちゃうかもだね!」

「うむ」

 二人は強い眼光に切り替えて武器を構え直した。

 数多くの貴族や冒険者などが参加していた奴隷オークションという一大イベント。
 背の低い少年の言葉からして、それらを台無しにした俺という存在の強さはまだ曖昧な段階なのだろう。

 俺からすれば、相手の佇まいや武器の構え方、呼吸の落ち着きや僅かな視線の動きや全身の挙動を見るだけで、相手の強さは一瞬で把握することができる。