路地裏を抜けて歩くこと数分。
冒険者ギルドに到着した俺は早々に中に立ち入ると、迷うことなく受付嬢の座るカウンターへ向かう。
深夜の冒険は危険が付き纏うので、ギルド内に冒険者はほとんどいない。
受付嬢の数も最低限だし、日中に比べると異様なまでに閑散としている。
「作業中に失礼する。俺はギルドマスターと会合の約束をしていた者だ」
「は、はい。お待ちしておりま……え?」
俺がカウンター越しに声をかけると、受付嬢は書き物をする手を止めてこちらを凝視してきた。
カウンターの横の壁には幾つかの受注可能なクエストを記した紙が貼られている。また、近くの掲示板には犯罪者などの手配犯を周知する通知文も掲示されている。
その中には、全身黒色の装いで目以外を仮面で覆い尽くす《《見覚えのある》》イラストもあった。
それらを掲示した人物の名も通知文の下に確かに記されている。
【見つけ次第捕縛し、我が邸宅に持って参れ! チャーリー・ヘンダーソン】
「話は通っているはずだ」
「え……はい、えーっと……貴方様がギルドマスターとお会いになられる方で間違いないのでしょうか?」
受付嬢はこちらの出方を伺うかのような、至極丁寧な様子で尋ねてきた。
同時に掲示板をチラチラと横目で確認しているのがわかる。
どうやら驚いているらしい。瞳孔の動きと急な額の発汗がその証拠だ。
おまけに発する言葉にも微妙な揺らぎを感じる。
間違いない。
受付嬢の視線が向く先は、掲示板に掲示されている黒ずくめの男のイラストと、目の前に佇むの俺の姿だ。
ギルドの受付嬢なら世間を騒がすニュースをよく知っているだろうし、きっと今は現実から目を逸らしたい気分にになっていることだろう。
「どこへ向かえばいい?」
「え、えとえと、ご案内致しますので、右手奥の扉の前に来てください!」
「わかった」
俺は受付嬢に言われた通りに右手奥に見える一枚の扉の前に向かった。
本当は何度もギルドマスターの執務室に行ったことがあるのだが、位置を理解して瞬間転移なんかした日にはあっという間に正体がバレてしまうので控えている。
「こ、こちらへどうぞ……」
カウンターから出てきた受付嬢は扉を開くと、先んじて中に入り歩を進め始めた。
バレてないと思っているのか、横目で俺の顔を見ているのがわかる。
もしかしたら疑心暗鬼な気持ちに陥っているのかもしれない。
きっとこう思っていることだろう。
“ギルマスからは、来客があったら案内しろと指示されていたけど、その来客は本当に目の前の男で合っているのだろうか……?”と。
確かに、公爵家の一人息子が王都中に指名手配をかけて大捜索していた怪しい男が、いざこうして目の前にきたら疑うのも当然だ。
「……あ、あの……こちらでお待ちください」
無言で考えながら歩いていると、受付嬢が足を止めて見知らぬ部屋の前で立ち止まった。
そして、どこか申し訳なさそうな様子で扉を開けると、有無を言わせず俺の背中を押して中へと追いやってきた。
変に抗うのは怪しまれそうなので、俺は流れに身を委ねて部屋の中に入ることにした。
照明すら点いていない部屋の中は真っ暗で気味が悪い。
「執務室は最上階と聞いていたのだが……」
「ご、ごめんなさいっ!」
俺は素知らぬふりをしながら受付嬢に尋ねたが、受付嬢は突如として頭を下げて謝辞を述べると、間を置くことなくバタンっと勢いよく扉を閉めた。
冒険者ギルドに到着した俺は早々に中に立ち入ると、迷うことなく受付嬢の座るカウンターへ向かう。
深夜の冒険は危険が付き纏うので、ギルド内に冒険者はほとんどいない。
受付嬢の数も最低限だし、日中に比べると異様なまでに閑散としている。
「作業中に失礼する。俺はギルドマスターと会合の約束をしていた者だ」
「は、はい。お待ちしておりま……え?」
俺がカウンター越しに声をかけると、受付嬢は書き物をする手を止めてこちらを凝視してきた。
カウンターの横の壁には幾つかの受注可能なクエストを記した紙が貼られている。また、近くの掲示板には犯罪者などの手配犯を周知する通知文も掲示されている。
その中には、全身黒色の装いで目以外を仮面で覆い尽くす《《見覚えのある》》イラストもあった。
それらを掲示した人物の名も通知文の下に確かに記されている。
【見つけ次第捕縛し、我が邸宅に持って参れ! チャーリー・ヘンダーソン】
「話は通っているはずだ」
「え……はい、えーっと……貴方様がギルドマスターとお会いになられる方で間違いないのでしょうか?」
受付嬢はこちらの出方を伺うかのような、至極丁寧な様子で尋ねてきた。
同時に掲示板をチラチラと横目で確認しているのがわかる。
どうやら驚いているらしい。瞳孔の動きと急な額の発汗がその証拠だ。
おまけに発する言葉にも微妙な揺らぎを感じる。
間違いない。
受付嬢の視線が向く先は、掲示板に掲示されている黒ずくめの男のイラストと、目の前に佇むの俺の姿だ。
ギルドの受付嬢なら世間を騒がすニュースをよく知っているだろうし、きっと今は現実から目を逸らしたい気分にになっていることだろう。
「どこへ向かえばいい?」
「え、えとえと、ご案内致しますので、右手奥の扉の前に来てください!」
「わかった」
俺は受付嬢に言われた通りに右手奥に見える一枚の扉の前に向かった。
本当は何度もギルドマスターの執務室に行ったことがあるのだが、位置を理解して瞬間転移なんかした日にはあっという間に正体がバレてしまうので控えている。
「こ、こちらへどうぞ……」
カウンターから出てきた受付嬢は扉を開くと、先んじて中に入り歩を進め始めた。
バレてないと思っているのか、横目で俺の顔を見ているのがわかる。
もしかしたら疑心暗鬼な気持ちに陥っているのかもしれない。
きっとこう思っていることだろう。
“ギルマスからは、来客があったら案内しろと指示されていたけど、その来客は本当に目の前の男で合っているのだろうか……?”と。
確かに、公爵家の一人息子が王都中に指名手配をかけて大捜索していた怪しい男が、いざこうして目の前にきたら疑うのも当然だ。
「……あ、あの……こちらでお待ちください」
無言で考えながら歩いていると、受付嬢が足を止めて見知らぬ部屋の前で立ち止まった。
そして、どこか申し訳なさそうな様子で扉を開けると、有無を言わせず俺の背中を押して中へと追いやってきた。
変に抗うのは怪しまれそうなので、俺は流れに身を委ねて部屋の中に入ることにした。
照明すら点いていない部屋の中は真っ暗で気味が悪い。
「執務室は最上階と聞いていたのだが……」
「ご、ごめんなさいっ!」
俺は素知らぬふりをしながら受付嬢に尋ねたが、受付嬢は突如として頭を下げて謝辞を述べると、間を置くことなくバタンっと勢いよく扉を閉めた。