翌日。

 王都中がとある話題で持ちきりになっていた。

 昨日は夜半過ぎに帰ってきて、しばしの睡眠をとってから早朝に起床し、先ほどまで朝の散歩に繰り出していたのだが、王都の住民のみならず冒険者から貴族、治安維持に努める騎士団まで、同様の話題で騒がしくなっていた。

 かくいう俺はというと、そんな話題に驚くフリをしながらも新聞を購入し、昨日の出来事を回顧していた。

「おー、流石は期待の若きギルドマスター様だな。こうも早く大々的に取り上げるなんて、やるじゃないか」

 俺は店内のカウンターに佇みながら、迫力のある新聞の見出しを眺めていた。

【冒険者ギルドの人気受付嬢を捕縛し尋問へ! 多くの初級冒険者を騙して大金を搾取!? 仲間の三人組の男たちも捕縛!】

 良い見出しだ。
 ルーナにそっくりな美女の似顔絵まで付いているし、アレンは仕事に移すのが中々に早い。
 
「後はアレンがなんとかしてくれるだろうし、俺は静かにバーのマスターに戻るぞ」

 俺は新聞を畳んでカウンターの上に投げ置いた。

 黒幕の正体はメモ用紙に書き込んでおいたし、後は何とかしてくれるだろう。

 これで俺の役目は終わった。
 シエルを嵌めた実行犯は裁けたし、これ以上出る幕はない。

「ふわぁぁぁぁ……ぁぁぁー……眠いねぇ、おはよ~」

 思考がひと段落したところで、居住スペースから寝巻きのままのシエルがやってきた。

 ぱやぱやと眠たげな瞳で大きな欠伸をしている。

「おはよう。よく眠れたか?」

 今の時刻はお昼の少し前だったがバーの経営は夜から始まるので、この時間に起きるのは何ら問題はない。
 
 それに昨日は初めてのちゃんとした仕事をして疲れたのだろうし、まだまだ眠ってもらっても構わない。

「うん!」

「そりゃよかった。顔を洗って身支度を整えたら買い物に行こうか」

「はーい。早めに準備済ませるから少し待っててね」

「ああ」

 とたとたと小気味良い足取りでシエルは立ち去った。

 基本的にバーを営業というのは辺りが暗くなってから始めるので、日中の時間を使って食材などの買い出しを事前に済ませておく必要がある。
 と言っても、ここ【ハイドアウト】は客入りがかなり少ない部類なので、高頻度で大量に買い出しに向かう必要は全くない。
 今はシエルに慣れさせるために、あえて買い出しに向かっているのだ。
 
 普段の日常生活を過ごすことで、彼女の性格と個性を分析して得意なことを見つけ出すのが狙いだ。

 今のところ、物覚えは良いが不器用で初めてのことはとことん苦手。素直な性格で表情に全てが出るタイプというのはわかっている。

 何ができるのかについてはまだまだ模索中である。

「……必ず何か得意なことがあるはずなんだよなぁ」

 カウンターに寄りかかりながら考える。

 俺の経験上、全く何もできない人間は存在しない。
 
 例えば、体力が極めて少ない代わりに攻撃に転じると一発のパワーが凄まじかったり、逆にパワーが乏しい分、器用さに長けていて後衛に向いていたり……などなど。
 
 それはシエルも例外じゃないと思う。

 手先が不器用で深い思考が苦手、尚且つ魔法はてんでダメとなると、注視すべきは肉体になる。

 健康体ではあるが細い体躯には秘められた何かが眠っていそうだ。

 今日の今日で何かを見つける必要はないが、いつか彼女の得意分野を探す機会を設けるとしよう。