「さて、話を聞かせてもらおうか」
「や、やめて! 化け物!」
ルーナは完全に腰が抜けたのか、ヘロヘロと力なく地面に尻をついていたが、その口調だけはまだまだ強気だった。
「自分以外の人間をわざと奴隷堕ちさせた奴に言われたくないな。あいつらのようになりたくないなら、早く知っていることを吐いてもらおうか」
「……っ……あ、あたしは悪くないんだからね! 悪いのは全部あいつらよ!」
わかりやすく狼狽えているが、まだしらを切るつもりだな。
だが、ルーナの性格上、甘い罠で釣ればほいほい騙すことができそうだ。やってみるか。
「あんたもあの三人も悪いことには変わりはないが、本当の黒幕を教えてくれたら、あんたのことは見逃してやる。どうだ? 黒幕を教えてくれるだけでいいんだぞ?」
俺はしゃがみ込んでルーナと視線を交わすと、優しい声色で淡々と述べた。
些か単純すぎる罠だなと自分でも思ったが、彼女は俺の言葉を理解するにつれて、驚きと喜びが混じり合う表情になっていった。
「っ……ほ、ほんと?」
「俺は全部わかってんだ。どうせ裏で全て操ってる奴がいるんだろ? いわば、今回の件の首謀者だ。今ここで正直に話してくれたら、俺がギルマスに取り計らってあんたの罪を軽くしてやるよ」
俺はアレンからもらった金色のコインを見せつけながら言った。
アレンに会いにいく時しか役に立たないと思っていたが、まさかルーナを脅すのに使えるとは思わなかった。
受付嬢である彼女であれば、このコインが何なのかすぐに理解するはずだ。
「そ、それ……!?」
案の定、ルーナはギョッと驚いて金色のコインに目を奪われていた。
何の変哲もない金色のコインに見えるが、やはり知っている人が見れば話が早い。
「俺はギルマスと旧知の仲なんだ。訳あってこの一件の調査をしていてな……どうだ? 話す気になったか?」
指で宙にコインを弾きながら格好つけたが、無論全て嘘である。
アレンはただのお客さんだし、俺はただのバーのマスターだ。それ以上でもそれ以下でもない。
だが、俺の堂々とした態度を見たルーナは信じてしまったらしく、ごくりと息を呑んでからおずおずと口を開く。
「実は———」
ルーナはゆったりとした口調で言葉を紡ぎ始めた。
まとめると、ルーナを始め、後ろで倒れ伏す三人組の男たちはやはりグル。
ある貴族から話を持ちかけられ、これまでに何人もの無知な初級冒険者を奴隷堕ちさせることで、莫大な報酬を得ていたそうだ。
ちなみに、シエルにアクセサリーを高値で売りつけた詐欺師まがいの商人は、単なる雇われの知らないやつらしい。
「初級冒険者を騙して奴隷堕ちさせたのはわかったが、あんたらが貰っている報酬とやらはどこから捻出されているんだ? 奴隷堕ちさせる流れの中で利益を生み出すのは不可能だろう?」
話は概ね俺の予想通りの流れだったが、肝心の部分がわからない。
「この世にはね、利益を求めないで自分の欲求のためだけに大金を払うバカもいるのよ?」
「……その貴族があんたらを雇っていたってことだな」
裏に潜む黒幕、つまりどこかの貴族が、快楽的に行なった犯行ということだろうか。
「ええ。あたしたちが利益を上げる必要は全くないのよ。あの方は単に奴隷という存在が好きなだけ。だから、気に入った女の子がいたらあたしたちに大金を渡して、奴隷オークションに間に合うように奴隷堕ちさせるよう命じてくるのよ。あの方はその奴隷を買うだけ。権力者なら普通に拉致でも何でもすればいいのに、奴隷っていう主従関係にこだわりがあるみたいで、あえて無駄な遠回りをしているって訳。どう? 理解したかしら?」
どこかツンとした態度で煽るように言ってくるルーナ。
少しややこしいが、彼女が”あの方”と呼ぶ貴族こそが黒幕で間違いない。
黒幕はルーナたちに大金を積み、対象を騙して奴隷堕ちさせるよう命じ、その奴隷堕ちした対象を黒幕が買い上げる……という流れか。
庶民からしたら無駄しかないが、奴隷にこだわりのある変態であれば納得がいく。
「……そういうことか。それで……黒幕の正体は誰だ?」
大方話の流れを理解した俺は最後に最も大切な質問を投げかけた。
これさえわかれば話は終わりだ。
俺の問いにルーナは一呼吸置くと、すっと息を吸い込んでこちらを見つめた。
「チャーリー・ヘンダーソンよ。知っての通り、公爵の一人息子ね」
「……チャーリーか」
心のどこかでそんなことではないかと予想はしていたので、これと言って大きな驚きはない。
ただあのバカ貴族ならやりかねないと思う。
まあ、これで聞くべきことは全て聞くことができたので、もうルーナと後ろの三人組の男たちは用済みだ。
「はい、話は終わり! じゃあ早くあたしを解放しなさい! 約束通り正直に洗いざらい話したんだから、ギルマスにも言わないこと! いい?」
ルーナはパンッと両手を叩いて空気を一変させると、甘えたい猫のような声色でこちらの様子を窺ってきた。
「約束なんかしたか?」
開放的な顔つきで清々しくなっているところ悪いが、俺は約束を守らない男なんだ。
「え? な、何言ってるのよ!? 調査に協力したり罪を軽く……いや、帳消しにしてくれるって言ったじゃない!」
「話してくれてありがとう。それじゃあ、後は暗くて寒い牢獄の中で罪を償ってくれ」
本当にそこまでは言ってないから知らない。
罪を軽くするとは言ったが、それは俺の裁量で決まる。悪は罰せられるべきだし、見逃す余地は全くない。
「はぁー!? 何言っちゃってんの!?」
ルーナはそんな俺のわざとらしい言動が気に入らなかったのか、怒りを露わにして胸ぐらを掴んできた。
「眠れ」
俺は即座に魔法を唱えて彼女を眠りの世界に誘った。
やかましい。縄でぐるぐる巻きにしてギルマスの部屋に送り込んでやるから静かにしてくれ。
「……これでよし。さあ、飛んでけ。瞬間転移」
俺は眠りにつくルーナと三人組の男たちを、頑丈に解けないようにキツく縄で縛ると、懐から取り出した紙にサラサラとメモを書き込んだ。
そして、すぐさま転移魔法を発動させて彼らとメモを一緒にある場所に送り込んだのだった。
こいつらの処置はしっかりとした機関に任せるとしよう。
「や、やめて! 化け物!」
ルーナは完全に腰が抜けたのか、ヘロヘロと力なく地面に尻をついていたが、その口調だけはまだまだ強気だった。
「自分以外の人間をわざと奴隷堕ちさせた奴に言われたくないな。あいつらのようになりたくないなら、早く知っていることを吐いてもらおうか」
「……っ……あ、あたしは悪くないんだからね! 悪いのは全部あいつらよ!」
わかりやすく狼狽えているが、まだしらを切るつもりだな。
だが、ルーナの性格上、甘い罠で釣ればほいほい騙すことができそうだ。やってみるか。
「あんたもあの三人も悪いことには変わりはないが、本当の黒幕を教えてくれたら、あんたのことは見逃してやる。どうだ? 黒幕を教えてくれるだけでいいんだぞ?」
俺はしゃがみ込んでルーナと視線を交わすと、優しい声色で淡々と述べた。
些か単純すぎる罠だなと自分でも思ったが、彼女は俺の言葉を理解するにつれて、驚きと喜びが混じり合う表情になっていった。
「っ……ほ、ほんと?」
「俺は全部わかってんだ。どうせ裏で全て操ってる奴がいるんだろ? いわば、今回の件の首謀者だ。今ここで正直に話してくれたら、俺がギルマスに取り計らってあんたの罪を軽くしてやるよ」
俺はアレンからもらった金色のコインを見せつけながら言った。
アレンに会いにいく時しか役に立たないと思っていたが、まさかルーナを脅すのに使えるとは思わなかった。
受付嬢である彼女であれば、このコインが何なのかすぐに理解するはずだ。
「そ、それ……!?」
案の定、ルーナはギョッと驚いて金色のコインに目を奪われていた。
何の変哲もない金色のコインに見えるが、やはり知っている人が見れば話が早い。
「俺はギルマスと旧知の仲なんだ。訳あってこの一件の調査をしていてな……どうだ? 話す気になったか?」
指で宙にコインを弾きながら格好つけたが、無論全て嘘である。
アレンはただのお客さんだし、俺はただのバーのマスターだ。それ以上でもそれ以下でもない。
だが、俺の堂々とした態度を見たルーナは信じてしまったらしく、ごくりと息を呑んでからおずおずと口を開く。
「実は———」
ルーナはゆったりとした口調で言葉を紡ぎ始めた。
まとめると、ルーナを始め、後ろで倒れ伏す三人組の男たちはやはりグル。
ある貴族から話を持ちかけられ、これまでに何人もの無知な初級冒険者を奴隷堕ちさせることで、莫大な報酬を得ていたそうだ。
ちなみに、シエルにアクセサリーを高値で売りつけた詐欺師まがいの商人は、単なる雇われの知らないやつらしい。
「初級冒険者を騙して奴隷堕ちさせたのはわかったが、あんたらが貰っている報酬とやらはどこから捻出されているんだ? 奴隷堕ちさせる流れの中で利益を生み出すのは不可能だろう?」
話は概ね俺の予想通りの流れだったが、肝心の部分がわからない。
「この世にはね、利益を求めないで自分の欲求のためだけに大金を払うバカもいるのよ?」
「……その貴族があんたらを雇っていたってことだな」
裏に潜む黒幕、つまりどこかの貴族が、快楽的に行なった犯行ということだろうか。
「ええ。あたしたちが利益を上げる必要は全くないのよ。あの方は単に奴隷という存在が好きなだけ。だから、気に入った女の子がいたらあたしたちに大金を渡して、奴隷オークションに間に合うように奴隷堕ちさせるよう命じてくるのよ。あの方はその奴隷を買うだけ。権力者なら普通に拉致でも何でもすればいいのに、奴隷っていう主従関係にこだわりがあるみたいで、あえて無駄な遠回りをしているって訳。どう? 理解したかしら?」
どこかツンとした態度で煽るように言ってくるルーナ。
少しややこしいが、彼女が”あの方”と呼ぶ貴族こそが黒幕で間違いない。
黒幕はルーナたちに大金を積み、対象を騙して奴隷堕ちさせるよう命じ、その奴隷堕ちした対象を黒幕が買い上げる……という流れか。
庶民からしたら無駄しかないが、奴隷にこだわりのある変態であれば納得がいく。
「……そういうことか。それで……黒幕の正体は誰だ?」
大方話の流れを理解した俺は最後に最も大切な質問を投げかけた。
これさえわかれば話は終わりだ。
俺の問いにルーナは一呼吸置くと、すっと息を吸い込んでこちらを見つめた。
「チャーリー・ヘンダーソンよ。知っての通り、公爵の一人息子ね」
「……チャーリーか」
心のどこかでそんなことではないかと予想はしていたので、これと言って大きな驚きはない。
ただあのバカ貴族ならやりかねないと思う。
まあ、これで聞くべきことは全て聞くことができたので、もうルーナと後ろの三人組の男たちは用済みだ。
「はい、話は終わり! じゃあ早くあたしを解放しなさい! 約束通り正直に洗いざらい話したんだから、ギルマスにも言わないこと! いい?」
ルーナはパンッと両手を叩いて空気を一変させると、甘えたい猫のような声色でこちらの様子を窺ってきた。
「約束なんかしたか?」
開放的な顔つきで清々しくなっているところ悪いが、俺は約束を守らない男なんだ。
「え? な、何言ってるのよ!? 調査に協力したり罪を軽く……いや、帳消しにしてくれるって言ったじゃない!」
「話してくれてありがとう。それじゃあ、後は暗くて寒い牢獄の中で罪を償ってくれ」
本当にそこまでは言ってないから知らない。
罪を軽くするとは言ったが、それは俺の裁量で決まる。悪は罰せられるべきだし、見逃す余地は全くない。
「はぁー!? 何言っちゃってんの!?」
ルーナはそんな俺のわざとらしい言動が気に入らなかったのか、怒りを露わにして胸ぐらを掴んできた。
「眠れ」
俺は即座に魔法を唱えて彼女を眠りの世界に誘った。
やかましい。縄でぐるぐる巻きにしてギルマスの部屋に送り込んでやるから静かにしてくれ。
「……これでよし。さあ、飛んでけ。瞬間転移」
俺は眠りにつくルーナと三人組の男たちを、頑丈に解けないようにキツく縄で縛ると、懐から取り出した紙にサラサラとメモを書き込んだ。
そして、すぐさま転移魔法を発動させて彼らとメモを一緒にある場所に送り込んだのだった。
こいつらの処置はしっかりとした機関に任せるとしよう。