ルーナの悲鳴を聞いて駆けつけた酔狂な三人組の男たち。
 そいつらは俺がちょうど探していた奴らだった。

「おお……魔紙写に写った顔と同じだな」

 俺は魔紙写に写し出された三人組の顔と、今目の前に現れた三人組の顔を照らし合わせた。
 全く同じだった。特に述べるまでもない普遍的なルックスだ。
 
「わざわざそっちから来てくれるなんて手間が省けたな」

 俺はルーナから視線を逸らして、三人組の男の方に体を向けた。
 中々に運が良い。

「へへへ、誰だか知らねぇが、その女は俺様たちの大切な商売仲間なのさ。地面に頭を擦り付けて泣いて懇願するなら許してやってもいいぜ?」

「そんな真似をするつもりはない。俺はキミたち三人に少し聞きたいことがあるだけだからな」

 一人の男が発した言葉に俺は真っ向から返答した。
 安い土下座をするほどプライドを捨ててはいない。
 無論、誰かの命がかかっているのなら別だが。

「へへへへへ、強気なやつは嫌いじゃないぜ」

「ボコボコにする価値が生まれるってもんさ」

「この人数差を覆せると思っているのか?」

 誰がどの言葉を吐いたのかはよくわからなかったが、彼らは既に戦闘態勢に入っていた。

 路地裏にどこからともなく風が吹き込み、静かな空気を不穏なものにする。
 三人の男たちは俺の前に毅然とした様子で立ちはだかっていた。

「ふむ……やる気なら仕方がないが、生憎場所があまりよくないからな。一瞬で終わらせてやろう」

 俺は闘志を宿す彼らを嘲るように笑い飛ばすと、目の前に右の掌を向けて瞬間的に魔力を凝縮させた。

 向こうがその気なら受けて立つ。

「尋問が望みだったが、それでもかかってきたか。仕方ない、戦おう!」

 俺は凛とした声で言い放った。
 俺の右の掌には黒々しい小さな球体が顕現し、それらは辺りの空気の全てを震わせていく。
 
「な、何だよその魔法は!?」

「ル、ルーナ! こいつは何者だ!」

「知らないわよ! 急に現れたと思ったら襲われそうになったんだから!」

 動揺しているところ悪いが、生憎時間が惜しいのでとっとと決着をつけさせてもらうぞ。
 それに、俺は襲っていない。余計な被害妄想と虚言は謹んでもらおう。

「重力魔法って知ってるか? 重力根源操作(グラビディ・コントロール)

 俺は狼狽する彼らをよそに右の掌を天に掲げると、顕現した黒々しい小さな球体は彼らの上空に向かう。
 そして、ゆっくりと、それでいて静かに、ふわふわと三人の男たちの中心に落ちていく。

 刹那。彼らを中心にして辺りの空間が歪んだ。

 同時に男たちの表情が驚きと焦燥に変わり、一瞬で身動きが取れなくなる。
 俺の重力魔法は緻密で、絶妙な制御が行われている。まるで自然の摂理が手の中で踊っているかのように、鮮やかで澱みのないものだった。

「ッ!? う、うごけ……ぁ……っ……!」

「んだ……よ、これ……!?」

「……ッッ……」

 三人の男たちの足元から根源的な重力が引き寄せられても尚、何とか身動きを取ろうとするが、数秒が経過すると動きを完全に制約されていた。

 一人はもがこうと根性を見せて歯を食いしばり、もう一人はあまりの驚きに目を見開き、最後の一人は泡を吹いて気絶していた。

 彼ら程度の実力では、全身に襲いかかる強烈な重力に抗うことはできない。

「諦めろ。戦うことはもはや無意味だ」

 俺が威厳のある声で静かに告げると、三人組の男たちの戦闘意欲も次第に消えていった。
 重力魔法の恐るべき威力に、彼らは敗北を悟り始めたのだ。

 それからわずか十秒後。彼らは抗うことをやめて地に倒れ伏した。
 俺は全員が気絶したことを確認すると、ゆっくりと重力魔法を解除し一つ息を吐いた。

「……話を聞く前に気絶させちゃったか」

 地に沈み気絶する三人組の男たちを見て俺は呟いた。
 重力魔法は他の魔法と違って音も出ないし効力の制限も容易なので、こういう時には便利なのだが、久しぶりに使ったせいで少し力加減を見誤った。
 範囲的な制御は得意な方だと自負していたつもりだったが、やはり使わないと鈍ってしまうな。

 まあ、いいか。
 ルーナに尋問すればいいか。

 そう開き直った俺は改めてルーナに向き合った。