「るんるん……ふふん、今日もたくさん稼いじゃったぁ~。男ってほんとにチョロくて助かるわねぇ」

 転移した瞬間。
 俺は楽しげな様子で鼻歌を奏でるルーナの姿を見つけた。場所はほとんど人気(ひとけ)のない路地裏だった。左右に背の高い建物があり、幅はそれほど広くない。大きな通りまでは少しばかり距離があり、二人で話すにはうってつけの場所だ。

 彼女は胸の中に麻袋を抱えて呑気に歩いている。
 パンパンに膨れた麻袋の中には大量のお金か宝石が入っているようだ。

 きっと一仕事を終えたばかりなのだろう。
 であれば、ちょうど良いタイミングだ、

 後は帰るだけだろうし、少しだけ俺に付き合ってもらう。

「おや? ルーナさん、こんなところで何をされているのでしょうか?」

 俺は五メートル後方からルーナに声をかけた。
 彼女は急に名前を呼ばれたからか、それとも俺の声に覚えがあったからか、びくりと肩を震わせてから振り返ってきた。

「……っ! あ、あなた……!?」

「ご無沙汰しております。シエルの所有者であるスニークと申します」

 俺はゆったりとした足取りでルーナに近寄った。

「ス、スニークさん……ね……な、何の用でしょうか?」

 ルーナはギュッと強く麻袋を抱きしめると、瞳を細めてこちらを睨みつけてきた。
 相変わらず、わかりやすく素直な感情だな。

 俺への嫌悪感が隠しきれていないどころか、表面に顕著に現れている。

「何の用か、それは貴女が一番よくわかっているのでは?」

「……ふんっ、なによ! 説教でもするつもり!? ギルドの受付嬢が夜の仕事をしていたらいけないってわけ!?」

 不貞腐れたような顔つきで堂々と言い放ってきたが、俺が聞きたいのはそんなことではないし、誰もそれを咎めることはないだろう。
 そもそも美人局や夜遊びについて聞いてはいたが、夜の仕事をしているなんて知らなかったしな。

「論点がまるで違いますね。夜の仕事をするのは各々の自由ですし、私が否定することは一切ございません。私が聞きたいのは何人の冒険者をそうやって奴隷に堕としてきたか……それだけだ」

 俺は一歩ずつゆっくりとルーナに近寄ると、敬語を外して彼女に微笑みかけた。
 彼女は完全に言葉を失っているのか、驚く様子すら見せずに固まってしまった。

 もっと強気に攻めてみるか。
 徹底的に攻めて吐かせてやる。

 誰が黒幕か俺は知りたい。