空のてっぺんに太陽が昇る、お昼時の帰り道。
 俺とシエルはのんびりと歩きながら、ギルドで起きた出来事について話をしていた。

「ねぇねぇ、どうしてマスターはルーナさんのことを疑ってるの?」

「ん? まあ、胡散臭いからな」

 あの女を信じろという方が無理だ。

「え? 何も知らない私に手取り足取り冒険者のイロハを教えてくれた優しい人だよ? 胡散臭いところなんてないと思うけどなぁー」

「いいか? 無知な人間ってのは、誤った知識や常識が正しいかどうかも分からないから、知らず知らずのうちにどんどん吸収してしまって、やがては盲信して過剰な信頼を寄せてしまうんだ。一つ聞くが、シエルはどうして多額の借金を背負うことになったんだ?」

 俺は至極真っ当で現実的な話をした。
 シエルよ。呑気に頭の後ろで腕を組んで唇を尖らせてる場合じゃないぞ?

「えーっと……まずパーティーメンバーは私を含めて四人いたんだけど、最初はみんな優しくて、何も知らない私のために色々としてくれたんだ。偶然みんな田舎出身だったり、たまたま好き嫌いが似てたり、色んな共通点があって、すぐに仲良くなれたの。中でも、みんなルーナさんに冒険者としての知識を教えてもらってたから、それをきっかけにお礼をしようって話になったんだよね」

 シエルは初めての冒険者活動だったからか、その時の記憶を鮮明に覚えているようだった。
 だが、数々の共通点というのは、おそらく単に向こうが話を合わせてきただけだろう。シエルの言葉を探りながら、彼女のプロフィールを綺麗にトレースしたんだ。

 互いに多くの共通点が見つかると、心理的に親近感を覚えやすくなるので、それを上手く利用されたってわけだ。

「ふむ。シエル以外の他の三人を紹介してきたのはルーナか?」

「そう。よくわかったね?」

「……まあな。続けてくれ」

「うん。それからルーナさんにみんなでブレスレットをプレゼントしようって決めたんだけど、気がついたら私だけが支払う話になってたんだ……」

 シエルは徐々に暗い面持ちになっていくと、最後には言葉を小さくして口をつぐんだ。

「そのプレゼントは高価な物だったか?」

「ううん。小さい露店に売ってたそんなに高くないブレスレットだったよ。初級冒険者四人がお金を出し合えば買えるくらいのやつ。でも、買ってから何日か後に私が一人で受け取りに行ったら、とんでもない金額を請求されたの。最初は拒否したんだけど、王都の人通りの多い道で騒ぎ始めちゃったから思わず受け取っちゃって……」

「……そうか、そういうことか」

 歩きながらも顎に手を当てた俺は、数多くの情報を頭の中で素早く整理していく。

 まずは、ルーナに紹介された三人の初級冒険者だが、こいつらは間違いなくルーナとグルだ。
 無知なシエルに寄り添うふりをして、彼女と強引に仲を深めて上手に罠に誘導したのだろう。
 
 次に露店で購入したというブレスレットだが、おそらくこの露店もグルだろう。購入時と受け取り時で値段が大きく違うなんて普通はあり得ない。きっと全ては計画のうちだ。
 そのブレスレットとやらも本当は貧相な品に違いない。

 最後に借金苦に陥ったシエルが奴隷堕ちすれば話は終わるのだが、一つ引っかかる。
 こんなことをして何の意味があるのだろうか?

 なぜなら、シエルを嵌めて奴隷堕ちさせたところで、彼らには何のメリットもないからだ。

 単なる愉快犯にしては用意周到な犯行だし、金銭目的と考えても、結局はシエル自身が借金を背負うだけで彼らの懐には一銭も入ってこない。

「……うーん、わからないな。シエル」

「なに?」

「少しは疑わなかったのか?」

 俺は思考を続けながらも隣を歩くシエルに尋ねた。