王都の冒険者ギルドのギルドマスターであるアレンが【ハイドアウト】に顔を出してから、今日で早一週間が経過していた。

 その間、特に目立った客足はなく、ごくたまに一般の民が興味本位で軽く飲みにくる程度だった。

 そして肝心のチャーリー・ヘンダーソンの仮面を付けた黒髪の男の捜索についてだが、こちらは俺の予想通りあっさりと終了していた。

 噂によると相当な数の騎士を捜索に動員していたようだが、特徴があまりにも少なすぎて諦めざるを得なかったのだろう。
 良いことだ。これからもずっと大人しくしていてくれると助かる。
 
 そうすれば俺も確実な安寧を手に入れられるし、トラブルに見舞われずに日常を過ごせる。

「やっぱり王都のギルドは立派だな」

 今日、俺はシエルに連れられて冒険者ギルドへと足を運んでいた。
 何でも、直接会って話したい人がいるらしい。
 
「王都以外のギルドってどんな感じなのかな?」

「これより二回りは小さいと思うぞ」

 俺とシエルはギルドの目の前に立ち、下から上まで建物を眺めていた。

「そうなんだ」

 聞かれたから教えてあげたのに、あまり興味なさそうに返事をするシエル。
 特に何の意味もない質問だったらしいので、話を本題に戻すことにした。

「ところで、会って話したい人っていうのは誰なんだ?」

「受付のお姉さん……えーっと……あそこの一番奥にいる金髪の!」
 
 シエルは開け放たれたギルドの入り口に駆け足で向かうと、カウンター越しに見える一人の受付嬢に向かって指を差した。
 
 金髪の髪を後ろで一つに束ねていて、大人びた雰囲気を醸し出す上品な女性。
 首には高価そうな鉱石が目立つネックレス、耳にはきらりと光る真珠のピアス。細く長い指には大きな宝石があしらわれた指輪をつけている。

 胸元を曝け出すセクシーな服装は、単純な男の視線を奪って離さない。
 
 俺は彼女のことを知っている。

「……」

「どしたの? ルーナさんと知り合い?」

「いや、別にそういうわけじゃない」

 俺は即座に首を横に振った。

 知り合いではない。俺が一方的に知っているだけだ。

「わかった! 見惚れてたんでしょ? ルーナさんって美人だもんねー。スタイルもいいし、雰囲気も大人の女性って感じだし。冒険者の男性から言い寄られることも多いらしいよ?」

「そうなのか。それで、シエルはあの人とはどういう関係なんだ?」

 別に彼女の恋愛事情に興味など微塵もなかった。
 ただ、表面だけを見れば、多くの男を虜にしている事実に納得はいく。

「ルーナさんは私の冒険者登録をしてくれた人なんだよね。どの装備を買えば良いとか、最初に行くべきクエストとか、パーティーの組み方とか……何をすればいいのか全部教えてくれたんだー。だから、今日は冒険者を辞めた報告と感謝を伝えておこうかなって思ったの」

「ふーん……あの人が全部教えてくれたのか」

「うん!」

 シエルは溌剌とした笑みを浮かべて返事をしていたが、俺は心に嫌な引っ掛かりがあった。
 
 ルーナについてはあまりいい話を聞かない。
 自身に言い寄る男を騙して悪質な美人局(つつもたせ)をしているという噂を聞いたことがある。

 普通のギルドの受付嬢が身につけるには、あまりにも高価なアクセサリーを惜しげも無く身につけているところを見ると、どうも単純な噂話とは思えない。

「俺もついていっていいか?」

「え、うん。いいよ?」

 シエルは特に疑問に思うことなく快諾すると、どこか楽しげな足取りでルーナが待つカウンターへ向かった。