すぐゆかりの自宅に電話をかけた。ゆかりのお母さんへお悔やみを伝えた。
 それから、ゆかりの名前で届いたバレンタインのプレゼントのことを説明した。
 お母さんも大変驚いててた。一旦、電話を切った後、二時間くらいして返事があった。

「亡くなる一週間前にね。少し調子がいいときがあった。わたし、病院にはいなかったけど、仲のいい看護士さんに付き添ってもらって院内の郵便局に行ったって聞いた。そこで支払いの手続きしたみたい。調べてみたらね。ゆうちょの通帳、ほとんど残高がなかった。医療保険のお金や見舞いなんかで百万以上あったんだけど」

 お母さんの言葉はびっくりすることばかりだった。

「洋菓子店にも問い合わせてみたら、

『個人情報なので答えられない』

と言ってたけど、事情を話したら、しばらく責任者と相談してから教えてくれた。ずいぶん先まで、毎年、予約しているそう。お店では、前例がないと言って最初は断ったけれど、ハッキリ

「もうすぐ病気で死ぬんです。わたし以外にチョコ貰えない友だちにあげたいんです」

とお願いされたって言っていた。オーナーの人からは、

「キャンセルされるならいただいた代金は無条件で、お母さんへお返しします」

と言われたけれど、そのままお願いしておいた」

 お母さんの声は涙声だった。

「ごめんなさい。迷惑だけど、来年から毎年、チョコレートが届くから……。木戸君が引っ越す場合は連絡しておいてくれる。お願いね」

 ゆかりがひとりで勝手に決めた予定が、ずっと残っているんだ。チョコレート専門店だって困っただろうな。
 ゆかりったら、本当に勝手なヤツだって思う。
 だけどやっぱり、嬉しかった。今日のバレンタインに、秋月さんと予定入れなくてよかった。
 自分勝手な幼馴染のことを、今日だけはぜったい忘れられないと思うから……