空港の待合。ゆかりは両親と一緒。すぐ僕に気がついた。大きな紙バッグを持って走ってきた。
 ショートパンツからのぞく太目の足。ピンクのハイソックスが、いまにも破れそう。
 セミロングの髪。ちょっとつりあがった目。僕の前だと、ものすごくつりあがることがある。大きな口。毎日、うるさく僕に指図。ギャーギャー、いつも僕のこと怒る。
 大きな手のひら。僕の腕つかんで、自分ひとりで決めたところへ連れていく。人の意見なんて何も聞かない。
 このときだってそうだった。僕の手を取って、空港内のコーヒーショップに行った。なにも聞かず、ホットミルクとクリームソーダ頼んだ。僕の前にはメロンクリームソーダ。

「今日、バレンタインでしょう」

 紙バッグから五十センチくらいある大きな箱を取り出した。ピンクの包装紙で包んであった。

「うちがつくったチョコレートケーキ。昨日徹夜だった。とっても美味しいから感謝しなさい」

 最後の最後まで恩着せがましく言われた。

「どうせ佑くんなんて、うちしかチョコレート貰えない可哀想な少年だからね。毎年、バレンタインの日に郵便か宅急便で送ってあげる。祐くんの相手をしてくれるのって、うちだけでしょう」

 最後の最後まで勝手に決めつけられた。

「うちのこと、離れたとこに住んでる恋人って紹介していいからね。うちの画像、送るから!」

 
 「感謝しろ」と言いたいみたい。本当に最後の最後まで自分勝手だと思う。

「佑くんの将来が、すっごく心配。うちが結婚してあげるからね。高校出たらすぐにでもいいから」

 最後の最後まで勝手に予定決めてる。もう少しの我慢、我慢です。

「別にゆかりなんかいなくたって、なんにも困りません」

 本当はそう言い返したかった。だけど長年、頭、押さえつけられてた習性ってのは、そう簡単には治りません。

「そうっ! 高校出たらすぐ結婚して、うちが佑君を二十四時間守ってあげるから。佑くんも、それでいいよね」

 さっきから ニーッと意地悪く笑って、上から視線で僕のこと、見つめてる。
 考えてみれば、今日まで毎日、この表情、見せられてたんだ。