丸山君がついに長い独身生活に別れを告げた。結婚式では久々に、なつかしい顔ぶれが集まった。
 だがこういう場合、案外と会話は続かないものだ。

「いま、なにしてる」

 簡単な近況報告。そして学校時代の思い出。それで終わる。
 笹岡さん。旧姓・秋月さんは僕の向かいに座った。笹岡君は外国に単身赴任中でどうしても帰れなかった。
 普通に挨拶。普通に決まりきった話。披露宴が終わったら夜になっていた。僕は駅から特急。笹岡さんは駅前ロータリーでバスに乗る。

「駅まで一緒に行かない」

 笹岡さんが誘った。駅までの直線道路。昔みたいに肩を並べた。

「佑君。太ったんじゃない?」
「生徒にもいわれた」
「それに髪がね、ちょっと」
「バレンタインにね。生徒から育毛剤貰ったときは、ちょっとガクッてきた」
「バレンタイン、貰えるんだ」
「必ず毎年、一個はね」

 駅が見えたときだった。笹岡さんが少し声を小さくした。

「あのね」

 僕の左手の薬指見ている。いつもはしないけれど今日は特別。

「結婚したの? それとも婚約?」

 僕はなにも言わなかった。駅に着いた。笹岡さんは、なにか言いかけたけど、

「じゃあ」

とバスロータリーに消えた。
 券売機で特急の切符を買った。
 ゆかり。僕だって電車の切符くらいは買えるよ。
 でも、ずっと君が僕のそばにいてくれたのなら果たしてどうなのだろうか。ぼくにはよく分からない。


 特急の乗客は少ない。座席にもたれて窓を見る。 
 ゆかりの顏を窓に思い描く。最近、よくゆかりの顔が浮かぶ。
 僕は年相応というか、年より老けて見えるそうだが、君は別れたときのままなんだ。
 ニーッて意地悪く笑って、上から目線で僕のこと見つめている。

 たぶん本当は、君のその表情が大好きだったんだ。
 僕は君の夫だ。心の中ではいつだって一緒だ。
 生ある限り、この気持ちが変わることは決してないだろう。