二月十四日の朝。
 lineで、

(ゆう)くん。すぐ空港に来て!」

と言われた。

「今日、学校だけど……」

 ムダだと分かってたけど遠慮がちに言った。

「だから?」

 一言だけ! なにも言い返せない。

「佑くん、自分では電車に乗れないから、タクシー頼んでおいた。もうすぐ家の前に来る。空港着いたら電話して」
 
 一方的に話し、一方的に切れた。しかたなく学校には、

「伯父さんが急病で見舞に行きます」

と連絡した。
 伯父さん、ごめんなさい。ぼくのせいじゃないんです。
 
 タクシーはすぐ来た。後部座席に座る。
 猛スピードで空港に向かう。窓の外の光景がめまぐるしく変わっていく。
 結局、最後の最後まで振り回されることになった。
 葛城(かつらぎ)ゆかり。幼稚園からの幼馴染。
 家が近くでいつも一緒に遊んだ。スポーツ万能で気が強い。勝手に予定決めて僕を従わせた。
 遊びのルールもゆかりが決めた。ルールは途中でしょっちゅう変わった。ふたりでゲームして、僕が勝つことはなかった。登下校も一緒。必ず荷物持たされた。
 中学。ゆかりは吹奏楽部に入った。自動的に僕まで入った。
 一応、遠慮がちに拒否したんだけど、ビンタされ、頭をこづかれた。ゆかりのしていることって、絶対DVだ。
 ふたりともフルートの担当。登下校、ふたり分の楽器を僕が運んだ。
 小学中学と、ずっと同じクラス。ゆかりのお父さんが、学校に頼んだんじゃないかと疑ってる。お父さんってPTAの会長を毎年やってたし……。
 ゆかりったら、自分では宿題やらず、僕にさせるんだ。間違えたらガミガミしつこく怒る。ビンタされたり、頭こづかれたり、思いっきり腕をつねられた。首絞められた。
 宿題間違え、長い時間、怒られるのイヤなので、一応、成績は上位だった。
 だけどコレって、あくまで結果論です。
 ゆかりからは

「成績がいいのは、うちの教育のおかげ! 感謝しなさい!」
 
と言われたけれど、僕の心の中では怒りの炎がうずまいてた。ビンタされるのこわいから、決して口には出しません。

「勉強できてもスポーツだめ! おとなしい! 佑くんがいじめられないのは、うちが守ってるからだよ!感謝しなさい」
 
 これは確かに本当だって思う。素直に感謝します。だけど失ったものも多いと思うけれど……。
 小学校、中学校と、バレンタインには、いつも手作りのチョコレートケーキをくれた。チョコくれるのは、ゆかりだけだった。
 中学一年のバレンタインのときなんて、
 
「うちがあげなきゃ悲惨だっただろう」

なんて恩着せがましく言われた。
 うっかり僕にチョコ渡したら、ゆかりからどんな目に遭わされるか分からない。みんな遠慮してるんだ。
 そうに決まってる……多分、そうじゃないかな……そうだと願っている。
 中学二年の二月十四日。急にゆかりが引っ越すことになって、本当にホッとした。
 けれども最後の最後まで振り回された。