せっせと鶏皮を運んでいる子猫は、西君にすっかり餌付けされてしまったみたいで、もう手渡しできるのではと思うほどの距離まで近付いていた。

ただ、完全には警戒心を解いていないみたいで、すぐに引き返せる態勢だけはとっている。

それに、植木の向こうからは、この子のお母さんの視線も感じた。

「そっか。たくさん苦労をしてきたんだね」

「意味わかんないこと言ってごめん。私の言ったこと、信じなくて良いからね」

必要以上に打ち明けてしまったのは、きっと西君が私のことを決して馬鹿にしたりせず、それどころか、私の純粋な眼を向けながら話を聞いてくれたからだと思う。

「三宅さんは、人間として生きていくの?」

「……」

はっきりと答えられないのは、心のどこかで決めきれない自分がいるから。

「私は人間の血の方が濃いみたいだから、人間として生きていくことになると思う。成長するにつれて、ひげは抜け落ちて、耳もだんだん小さく、尻尾も短くなってきたし。でも、猫としての私が消えていくのは、少し寂しい気もする……」

人間らしく生きることで、大好きなお母さんとのつながりが消えていく恐さもある。

今、目の前にいるこの子も近いうちに独り立ちをするだろう。

親離れした猫は、お母さんのことをどう思って過ごすのだろう。

寂しいのかな。

それとも、赤の他人だって割り切るのかな。

完全な猫ではない私には、その気持ちがわからない。

西君は暫く何も言わず、私の膝に何度も顔を擦り付ける子猫を眺めていた。

「さっきから三宅さんにべったりだね。やっぱり同族だと思ってるのかな」

「うーん、どうだろう。男の人は声が低いから怖いってのもあると思う。男の人の声が頭に響くから苦手って言ってた子もいたし」

「おお、猫ならではの回答。もしかして、この子と話せたりするの?」

「ううん。小さい頃は何となく話せていたけど、今はさっぱり。それに、猫は仕草や雰囲気を読み取ることの方が多くて、言葉はあまり使わないんだ」

「言葉を使わずに会話をするのか。人間の僕らと違って、なかなか高度なことをするね」

西君の視線を感じた子猫は、少し嫌そうな顔をして植木の方へと戻って行った。

「俺、嫌われちゃったかな」

「そんなことないよ。ご飯をくれるから、良い人だって思われてるよ」

「もので釣ってるみたいで、なんか嫌だな」

「西君って、本当に猫が好きなんだね」

「めっちゃ好き。それに三宅さんと話したら、もっと好きになった」

……。

「さて、俺達も帰ろうか」

「……う、うん」

「好き」という言葉を聞いただけで、私の心臓の鼓動は勝手に乱れる。それに顔が少し熱くなる。

私に向けて言ったんじゃないのに。