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「ねぇ、リリアンナちゃんと結婚式ごっこしたって本当?」
 燃え盛る炎を目の前に、香乃子先生は僕に尋ねてきた。
「いやまあ……そうですよ。昔のことですけど」
 この歳になって、そんなことを好きな人に聞かれると少し恥ずかしくて、口の中で言葉をモゴモゴとさせる。馬鹿にしたように笑うのかと思ったが、彼女は「ふーん」と言いながら、また昇る煙に視線を移した。
「私とはごっこ遊びじゃない方、してくれる?」
「え?」
 思いがけない彼女の言葉に、一瞬言葉を失った。
 ザアッと風が吹く。炎が左右に揺れ、まるでリリちゃんが何かを訴えているようだった。
「もちろんです」
 すると、彼女はくるりと僕の方を振り返り、可愛らしい表情でニッコリと笑った。
「じゃあ、よろしくお願いします」
 一瞬で顔が熱くなった。きっと炎のせいに違いない。
「一生大切にします!」
 これも、リリちゃんがくれた奇跡だ。
 いつか君ともう一度、巡り会えますように。
 そして直接言わせて欲しい。ありがとう、と。

 空に昇る煙が、僕らを見守ってくれている気がした。

【完】