名前のない少年は、孤独だった。だから彼は、いなくなった。
 少年はいじめられていた。
 「痛い……痛い……やめて……」
 少年の言葉はいじめっ子たちには届かなかった。
 「うざい」
 「きもい」
 「死ね」
 毎日の言葉の暴力は少年の心に、まるでナイフで刺したのような傷をつけた。
 何度も何度も何度も刺されたその傷からは、止めないと死んでしまう量の、見えない血が流れる。それでも、手を差し伸べてくれる大人はいなかった。
 少年には親がいなかった。まだ少年が物心つかない時に、両親は交通事故で亡くなってしまったのだ。
 そのためか、少年は、自分の名前を呼んでもらったことがない。親の愛情も知らない。つまり、天涯孤独の身だった。
 人生に絶望した少年は今、学校の屋上に立っている。もう少年に救いなどなかった。
 「さようなら」
 次の瞬間、少年の姿は消えていた。