「え。なんで咲也、空を描かないの?今回のお題、“自分の好きなもの”だよ?」

 颯馬に対して劣等感を感じたあの日から、俺は絵を描くことはやめなかったけれど。

「べつに俺、空以外にも好きなものあるし」

 でも、大好きな空を描くことはやめた。だって敵わないから。

 中学校に上がって入部した美術部。
 顧問から、与えられたお題。

 俺の返答に「そう……、」と頷いた颯馬の、なんて釈然としない顔。

「空以外の好きなものってなに」
「そうだなあ、ゲームとか?」
「え。じゃあ、ゲーム描くの?」
「それかハンバーグでもいいし」

 俺は咲也が描く空が好きなのにな、と呟いて、颯馬は自身のスケッチブックと向き合う。

 筆先を青色に染めた颯馬に、一瞬青空を描かれるのかと思い焦燥感に駆られたけれど、彼の完成させた絵は、穏やかな海だった。

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