「うっわ。高いビルばっか」

 案の定、と言うべきか。
 図書館に着くや否や、旅行ガイドブックコーナーに真っ直ぐ()を進めた颯馬は、数ある資料の中から迷うことなくニューヨークに関する一冊を取り、捲っていた。

「見てみろよ咲也、この超高層ビル群。まるで映画の世界だ」

 言って、手元で広げた本を、嬉しそうに見せてくる颯馬。俺はそれに微笑を落とすと、『カナダ』と書かれた背表紙に手を伸ばす。

 そうだ、カナダへ行こう。
 いやいや、なんでだよ。

 たまたま目についただけの、俺にとっては何の縁もゆかりもない国の本。思い入れ皆無な地域の景色を描いたって、それは審査員の心に響かない気がした。

 前髪に細やかな風を送るだけで、すぐに閉じられたその本。
 旅行ガイドブックコーナー内の、国内へと移る。

 俺に馴染みがあるとすれば、祖父母が住む北海道くらいかなと思いながら、ずらりと並ぶ背表紙を指先で撫で、その文字を探すが。

 ああ、でもだったら家のアルバムを漁ればいいだけのことか。

 と、思ったから、その指を離す。

 頭の中、繰り返されるコンクールのテーマ。

 そうだ、◯◯へ行こう。
 そうだ、◯◯へ行こう。

 う〜ん……

 コンビニや学校なんかの、身近な場所の方がいいのだろうか。それとも遥か彼方にある宇宙への憧れを、絵にしたら面白い?はたまた幼い頃は存在すると信じていたファンタジー世界でも描いてみようか。

 考えあぐねながら館内を彷徨(うろつ)いている間、颯馬は静かに俺の後ろをついてきた。