それから一ヶ月が経った頃。顧問は新たなコンクールの話を持ってきた。
 今回は市内でも県内でもなく、高校生ならば誰でも参加できるという、全国の大会。
 入賞すれば期間限定で、某有名美術館にその絵が飾られるというビッグな特典までついたもの。

 今度こそは、やってやる。

 そう固く拳を握った俺だったけれど、配られたリーフレットを目にすれば、またもや颯馬に軍配が上がってしまう気がした。

『“そうだ、◯◯へ行こう”のテーマで描かれた絵画作品を募集します。応募はひとり二点まで』

 来年は、ニューヨークの美大に行くことがほぼ決定しているみたいなもんの颯馬。

 そんな夢で溢れた未来を画力が高い彼が描いてしまえば、それはもう、審査員全員の心を震わせてしまうだろうと思った。

「咲也、お前はなにを描く?」

 しかし俺の心情を一切知らぬ颯馬は、のほほんと呑気に聞いてくる。

「あー、まだ決めてないけど」

 そう俯きがちに答えれば。

「じゃあ、今度一緒に図書館にでも行かないか?そこで色々と、イメージを膨らませようよ」

 だなんて言って、にっと白い歯まで見せてくる彼。

 醜い感情を(おもて)に出したくはないから、俺は「そうだな」と微笑んだ。