「んで、颯馬はさっきからなにを描いてんの」

 没頭している俺の横一直線。一メートル先のコンクリートに尻をつけ、何かの作業をしている颯馬にふと途切れた集中力。

「もしかして、俺のこと描いてんじゃないよな?」

 彼の手元にあるのはキャンバスボード。握っているのは油絵を描く際、下絵に使う画用木炭。
 デッサンしているようにしか見えないから、そう聞いた。

「うん。描いてるよ」

 俺を見て、ボードに目を落として。
 そして再び、俺をじっと視界に捉えて答えた颯馬。

「なんで」
「暇つぶし」
「俺の絵なんか描いたって、面白くないだろ」
「面白いよ、面白い。なんかわくわくする」
「どこが」
「やっぱ大好きなことを真剣にやってる人間の姿って、いいじゃん」

 颯馬の頭を割って、一度でいいからその中を見てみたいと思う。

 一体どういう思考を備えたら、そんなにも瞳が光り輝くのか。

 ふうと空の青に息を吹きかけ、楽しそうに俺を描く颯馬を眺める。

 しかし長いことそうしていられなかったのは、颯馬の眉間に皺が寄ったから。

「ちょっと咲也、こっちばっか見てないで早く絵を描いてよ。俺は空を描いてる咲也を描きたいんだからっ」