颯馬が絵を描くようになったきっかけは、彼曰く俺が作ったらしい。
 じゃあ、なんで。
 なんでその俺が絵をやめるきっかけを、お前が作るんだよ。

 なんて、嫉妬に満ちた最低な考えが脳裏を掠めて、俺は俺を嫌いだと思った。

 振り向いて、俯いて。
 冬めいた風に吹かれ、小さな埃が舞っていて。
 野球部は、季節を問わずに威勢が良かった。

「だってもう、描けねえんだもん」

 はっきりと言った。だけど声は、震えていた。

「前みたいに描けねえんだよ。好きな絵を好きな風に描く描き方を忘れたんだっ。昔はこうじゃなかった…好きだからってただその気持ちだけで絵を描けたっ。だけど最近の俺はもう、どう描いたらどう評価されるかってそればっか気にしてる!」

 最後はちょっと声を荒げてまって、颯馬が俺に八つ当たりをされたと勘違いしたらどうしようかと少し思った。

 まあでも、八つ当たりをしていないとは言い切れないから、勘違いでもないのだけれど。

 乱れた呼吸を整えながら、立ち去るタイミングを見計らう。

 思案顔を作った颯馬は、しばらく黙りこくっていたくせに、俺が背を向けた途端、こんな言葉を投げてきた。

「だったらじゃあ、空描けよっ」