「全然だめじゃん…」

 三週間をかけて、八割ほど完成した自分の作品を見て、俺はゾッとした。

「こんなんじゃ、賞なんか取れねえよ……」

 家にあった写真を丸写ししただけの、花畑。

 何のメッセージ性も感じられぬその絵は虹以上にカラフルで綺麗ではあるが、俺の目にはモノクロに映る。

 颯馬のように、審査員の心を揺さぶりたい。

 本当はわかってた。
 そんなんじゃ、良い作品なんかできっこないって。
 けれどいつの間にやら俺の頭は、入賞することだけに支配されていたんだ。

 美術室にいることも、美術部の一員であることも恐縮した俺は席を立ち、顧問の元へと静かに向かった。

「今回のコンクール……俺、エントリーするのやめます……」

 それともうひとつ。

「もう、絵を描くことからも離れようかなと……」

 各々の作品に集中している部員たちの邪魔にならぬよう、細やかな声で告げたつもりだったけれど、廊下へと一歩出れば、再び俺の幼馴染は追いかけてきた。

「なんでだよ咲也っ。絵、やめんなよっ」