「咲也のそれ、花畑?」

 コンクールの締め切りまでは、残り一ヶ月半。
 迷いに迷い、『そうだ、◯◯へ行こう』の『◯◯』に俺が当てはめた言葉は、結局祖父母が住む北海道が有する、とある町だった。

 そうだ、美瑛(びえい)町へ行こう。

 観光大使でもないのに、なんでここ。

 と、自分でもツッコミを入れたくなるけれど、これと決めたからには最高の作品に仕上げたい。

 俺が下絵に勤しむ傍で、颯馬の作品はもう完成間近。時間に余裕があるからか、俺の絵を覗き込んできた。

「どこの花畑?」
「北海道のばあちゃんちの近くにある、四季彩(しきさい)の丘ってとこ」
「へえ。行ったことあるの?」
「母ちゃんが花好きだから、帰省した時は必ず」

 広さ十五ヘクタールの敷地を彩る、季節の花々。

 毎年訪れている今ではもう、感動は薄れつつあるが、初めてこの丘を見た時は、花に全く興味のない俺でも胸に込み上げてくるものがあった。

 あの時の感動を、この絵を通じて審査員にも味わってもらえたら。

 ひたすら手を動かす俺に「頑張れ」と言い、颯馬は自身の席へと戻って行った。