あ、小橋。

 大通りから路地に入った白線は、細い小川の真上に来た。川も狭ければ橋も狭い。俺はひと休みがてら腰を下ろし、足を放り出す。

 穴場なんだよな、ここ。人気(ひとけ)もないし、けっこう小魚も泳いでるし。

 遠い昔、祐樹と泰造と釣った魚を奈美に見せては、「可哀想だからすぐに戻してやんなよ!」だなんて怒られたりもした。
 ふっと溢れる笑み。すぐにぎょっとする。

「え!まじかよおい!あれ、俺のテスト!?」

 ぶらんぶらんと揺蕩(たゆた)わせていた足の先、船のかたちに折られたテストの答案用紙が、こちらへ向かって流れてきた。帆の部分に見えた名前が洋太(ようた)だったから、俺にはあの日の記憶が蘇る。

“洋太、いつまでそこにいるの?”

 耳に残っている、心配そうな奈美の声。

“とっちゃったもんはもう、しょーがないじゃん。次は0点とらないように、頑張ればいいんだよ。そーやっていつまでもうじうじしてる洋太、かっこ悪いよっ”

 おっかない母にこの点数は見せられぬと、俺はランドセルを背負ったまま、いつまでもここでしょげていたんだ。