「なあ母さん、なんか落書きされてんだけど」

 玄関に突っ立ったまま、部屋に向かって呼びかけた。奥から出てくる母。

「どれ」
「これ」
「あらま。なにこれあんたがやったの?」
「やるわけねえじゃん、俺もう38なんだけど」
「ちょっと掃除しといてよ、道路にまで伸びてるじゃない。うちがやったと近所に思われても困るわ」

 そう言って、庭の物置きからデッキブラシを取り出した母は、それを俺に押し付けた。

「なんで俺が」
「どーせ暇でしょ?仕事もしてなければ予定もないんだから」
「これから散歩がてら、コンビニ行くんだけど」
「それは予定とは言いません!」

 ほら早く!と服を引っ張られ、仕方なく動かす手。

「ちっきしょー、朝から鬼なんだから」
「もう昼ですっ」

 ゴシゴシと白線の上でデッキブラシを動かしながら、俺は道を行くことになった。