仕事を辞め実家に引きこもった俺がどうしてこんな風になったのかを、幼馴染みのふたりには説明せずともバレていた。

「奈美は愛する園児たちを最期の最期まで庇ったんだ。それを誇ってやれよ」

 はっと目の前の息を吸う。そんな俺に、泰造は続ける。
 
「洋太お前、チャップリンのこと好きだったよな。だったら笑えよ。人生で起こったムカつくことも悲しいことも、とことんムカついて悲しんだら笑っちまえよっ。じゃないとこれから先、もっと生きんの辛いだけじゃんか。人生の道なんて、死ぬまでいつまでも続くんだぞ。今日もしお前が楽しめたなら、お前の苦い過去は喜劇に変わったんだ」

 懸命な訴えかけに、涙が出てしまいそうになる。祐樹とふたりで用意してくれた、俺専用のドン底道。確かに笑えた自分がいた。当時、その瞬間瞬間は、あんなに嫌だったことも。

 何も答えずに鼻を啜っていると、俺に歩み寄った祐樹が箱から何かを取り出した。

「応援してんだってさ、奈美」

 それは、淡い色した便箋。

「たとえ会えなくなっても、ずっとずっと俺らのこと応援させてくれって。だからいつまでも、全力で突っ走れってよ」

 おもむろに受け取ったその手紙。それは思い通りにならぬ『人生』という名の道の上で、もう少し頑張ろうと思える内容だった。