走馬灯を見た気がした。それくらいにやばい経験だった。

 犬に追われている俺のことを、祐樹と泰造は終始爆笑していたけれど、どうして助けてくれなかったのだと(のち)に大喧嘩になった。
 痛みはしっかり覚えている。尻に噛みつかれた痕も、小学生の頃の出来事なのに未だにある。
 くくくと俺の肩が震えていくのは、またもや笑いが込み上げたから。

「あん時奈美が仲裁してくんなきゃ、ぜってえ殴り合いになってたよなー」

 祐樹の胸ぐらを掴んだ俺の頬に、奈美から放たれた平手打ち。俺は涙目で眉を寄せた。

“なにすんだよ奈美!”
“友達のこと殴ろうとするなんて、洋太サイテー!”
“はあ!?今奈美、俺のこと殴ったじゃんか!”
“わたしはいいの!女の子だから!それより泣くなうじうじマン!かっこ悪い!”

 奈美の理不尽な言動に、あの時心底ムカついた。それなのにどうして何十年も経った今、それが笑いに変わるのだろう。意味は全然わからないけど。

「奈美……」

 奈美の葬式に行かなかったこと。俺はそれを、後悔した。

 ……って、ちょっと待てよ。