幸助先輩たちは卒業し、私は2年生になった。授業が終わり、稽古に向かう。相変わらず、稽古場のある体育館は埃っぽい。見慣れた派手な人が駆け寄ってきた。
「あらあらあら?」
「なんですか?」
稽古場の入り口で教授に会った。教授が返事もせずに、まじまじと私を見る。私の周りを一周する。いや、見過ぎだ。そして、近すぎる。一歩下がりながら、もう一度聞いてみる。
「だから、なんですか?」
怪訝な顔で聞くと、教授が満面の笑顔で
「シオンさんね!」
と言った。
「え?」
教授が私を正しい名前で呼んだ。教授は続ける。
「その紫の髪飾り!真っ白の服に映えてて、最近いただいたシオンのブーケみたい!」
そう言って鼻歌を歌いながら、踊るように稽古場に入っていった。呆気にとられた私だけが残される。頭につけた髪飾りを触る。幸助先輩からのプレゼント、稽古のときに必ずつけていて、今では私のお守りだ。
「流石に幸助先輩もそこまでは考えてないよね…?」
もしかして、教授に紫苑の花を連想させるためにこの髪飾りを?教授の性格をよく知っているし…意外と彼は策士なのか?と考える。
「ごきげんよう〜!」
稽古場に教授の声が響く。
「…まぁ、いっか」
教授を追いかけるように、稽古場に入る。鏡に写った紫の髪飾りはライトを浴びて星のようにキラキラと輝いた。