幸助先輩に抱きしめられている。分かった瞬間、先輩と触れ合ってる部分からじわじわ身体が熱くなる。
「幸助先輩…?」
「好きです。はじめはあんな形で入部して大丈夫だったかなって気にしてたんだけど、一緒に稽古してるうちに、頑張ってるとことか、ダンスが出来たときの安心した笑顔とか見て、好きになってた。紫苑ちゃん、僕の彼女になってください。」
「幸助先輩…私も好きです。ずっと大好きでした。私を先輩の彼女にしてください。」
我慢していた涙がポロポロと流れ始める。大好きだ。演じているときの真剣な顔、それとは全然違う普段の優しい笑顔、初めて会った時から憧れの存在だったけど、一緒に稽古をするうちに好きになった。先輩の背中に手をまわして、ぎゅっと私からも抱きしめる。私たちは少しの間、抱きしめあっていた。そして、どちらからともなく身体を離す。幸助先輩の顔を見たら、少し泣いたのか目のまわりが赤かった。
「そうだ。これ…」
幸助先輩が鞄からプレゼントの包みをだして渡してくれた。開けてみると、紫の花びらのようなシュシュ。
生地に光沢があって星のようにキラキラしている。
「綺麗…」
「渡そうと思ってて、稽古のときにでも使って。」
「ふふ、稽古、頑張れちゃいますね。」
少し気恥ずかしくて、ちょっとおどけたように返す。そして、ちゃんと目を見て
「絶対追いつきますから。待ってなくていいです。ずっと進んでいってください。私、頑張るので。あっという間に並んじゃいますから。」
と笑って言った。私の強気すぎる言葉に幸助先輩は目をぱちくりさせた後、
「僕も頑張るよ。紫苑ちゃんに追い越されないように。追いかけてもらえるように。」
と笑った。
その日は、指先をほんの少しだけ、絡めて手を繋いで帰った。じわじわとあたたかい指先が心地良かった。