大学生になった私は相変わらず、『つまらない地味な女』だった。
呪いのように消えない『あの言葉』を思い出すと大学デビューという気にもなれない。最低限、清潔感さえあればいいと思って、毎日、白い服を着ていた。そろそろ校内に現れる幽霊と思われていないだろうか。
服だけではない。授業にでて、友達と雑談程度に話してすぐに帰る。生活もつまらないものだった。

だいたい『つまらない地味な女』ってなんだ。逆に『おもしろい派手な女』を見てみたいくらいだ。
そんなことを考えながら学生課で用事を済ます。帰りに、なんとなく見た学生課の廊下の壁の掲示板には、ボランティアを集うチラシやおすすめのバイトの募集、学内の部活動のポスターなどが貼っていた。吹奏楽部、野球部、サッカー部、美術部、写真部、ミュージカル部、放送部…人数の多い学校なので部活の種類が豊富なようだ。モルック部ってなんだ…？
そんなことを考えながら、掲示板を横目で見て歩いていた。

「っ、えっ⁈」

よそ見をしていたせいで何かにぶつかった。少し視線を下げると、目一杯に広がるビビットピンク。よくよく見ると、人だ。ビビットピンクの正体は帽子だった。というか、着ているワンピースもビビットピンク、なんで見えなかったんだってくらい派手だ。

「すみません！怪我してないですか？」
相手が顔をあげた。終わった。どう考えても教授のご年齢の女性だ。自分の成績に関係しない教授なことを祈りながら、反応を待つと女性は顔をあげ、私を見て
「あら！アンズちゃんね！」
と言った。人違いだろうか？訂正する前に女性は続ける。
「あなたとぶつかって荷物が散らばっちゃったわ。」
「すみません…」
これは私が100%悪い。謝るしかない。
「ちょうどいいわ。荷物が多かったの。一緒に拾って持ってきてちょうだい。」
「分かりました。すみません。」
荷物を持つだけで、お詫びになるなら、助かった。とりあえず重そうなものを自分が拾う。

女性は鼻歌を歌いながら軽そうなものから拾って、
「あなたは謝ってきたけど、壊れるものはないし、私からしたら荷物を持ってもらう理由ができてラッキーだわ！」
ニコッと笑う。笑い皺がとてもチャーミングだ。怒ってないようだ。良かった。
荷物を持って女性に着いていく。スキップでもしそうな足取りの女性を見て「これが『おもしろい派手な女』か…」と思った。