ブブッとスマホが震え、顔認証がスマホの扉を開く。『もうすぐ着くよ』と君からのメッセージ。私はため息をつく。その瞬間がじわりじわりと近づいている。
「咲良!···咲良?」
他人事のように聞こえる声に、私は肩を叩かれて、もう一度名前を呼ばれた。
「咲良、ごめん待たせた」
「ううん、私もぼーっとしてた。ごめん」
「じゃ、行こうか!映画久しぶりだな。ごめんな、俺の趣味に付き合わせちゃって」
「ううん···私も見たかったし!」
最近公開されたばかりの映画で宇宙が舞台のSFもの。主役ではないが好きな韓国ドラマの俳優が出ていて、チェックしていたのだ。映画館につくと、君はテキパキとチケットを発券し、キャラメル味のポップコーンとコーラとオレンジジュースを買ってきた。
「いつものでよかった?」
「ありがと。喉乾いてるから飲んでいい?」
私はコーラをごくりと飲んだ。シュワッとはじける炭酸がたまらなく好き。小さい頃は骨が溶けるからと、今思えば意味不明な迷信のせいで母親から飲むのを止められてた。母に隠れて初めて飲んだ日から大好きになり、映画は決まってコーラと決めている。
「···じゃ行こっか」
シアターの中は満席で、端の席を予約した君に感謝した。両隣に誰かいると落ち着かないのだ。人がいるのは片側だけでいい。生まれた時から常に窮屈さを感じている私。今は君が隣にいる。もう十分だ。
それに今日、私は君に別れを告げる。さっきから気持ちはずっと落ち着かないのだ。
「始まるよ···」
照明が落ち、暗闇が包む。
ぼんやりとスクリーンが浮かび上がる。
「えっ!」と声を上げそうになった口を噤む。
君が私の左手に、そっと手を重ねた。
映画の内容なんて覚えてない。
好きな俳優がカッコイイな···くらいの感想。目の前で繰り広げられている戦いが今作のクライマックスだろう。私の頭の中にあるのは今日の結末をどう迎えるかだ。君は何も悪くない。悪くないのに。カッコイイし、性格もいい。彼氏として高得点。なんで私と付き合っているんだろう。そう疑問に思うくらい。激しい音響が耳に届く度、君は私の手を強く握る。自分が怖がってるのか、私を安心させたくてなのか。どちらにせよ落ち着かない。堪らず私はスルリと手を抜き、両手で大きなコーラのカップを持つと、炭酸の抜けかけた甘い液体を一気に飲み干した。
「映画面白かったなー!宇宙船のCGがかっこよ過ぎて、過去一のデザインだったな。歴代の宇宙船は模型で集めててさ···ごめん、俺話しすぎ?」
「えっ?ううん。かっこよかったよね」
「咲良も、やっと良さが分かってくれて嬉しい。前は苦手だからって見てくれなかったろ?」
「···一度くらい、どんなか見てもいいかなって」
「家に歴代のシリーズ全部あるから、今度一緒に見よう」
君は嬉しそうに顔をクシャッとして笑った。
「腹減ったな···何食べる?咲良の好きなのでいいよ。映画は俺に合わせてくれたし、ご飯は咲良の食べたいもので」
「じゃぁ···あそこのイタリアンのファミレスに」
すぐ目の前のチェーン店を指さして、「行こう」と私は歩き出す。
4人がけの広めの席に通されて、向かい合って座る。ドリンクバーとドリア、それからピザを注文すると、私は「取ってくるね」とドリンクバーに逃げた。食べたらお別れだ。上手くやれてる。コーラとオレンジジュースをトレーに乗せて私はまた席に戻る。君の前にオレンジジュースを置く。「···ありがと」君は不思議そうに首を傾げた。
私はまたコーラを一口飲む。
「咲良、なんか疲れてる?」
「えっ?」
「···いや。気のせいだといいんだけど」
「うん」
「この前の全統模試、どうだった?」
「まぁまぁ、かな。逞斗は?」
「えっ!···俺はギリギリ志望校はA判定だったけど···」
「何でそんな顔するの?凄いじゃないA判定」
「おまたせしました。こちらイタリア風ドリアとキノコとベーコンのピザになります」
私たちの目線をを割くように、店員の手が伸びる。
「食べよ!」
私はピザにかぶりついた。
会話が続くよりも食事に集中した方が気が紛れる。そんな私の意図に反して、彼は話を続けたがる。
「咲良もひとくち食べる?先に食べていいよ」
そう言われて差し出されたイタリア風ドリアのチーズの香ばしい香りが鼻に届く。このファミレスに来たらこのドリアは一口食べたい。私は左手でスプーンを伸ばし、1口分すくった。
「美味しい」
「そう?···よかった」
私の口が空っぽになったタイミングを見計らって、君は静かに口を開いた。
「あのさ、お前···誰?」
「えっと···咲良だけど。何言ってるの?逞斗どうしたの?顔が怖いよ」
睨むように私を観察した逞斗が「目の下の涙ボクロもないし」と、ボソッと言葉を吐く。
「えっ···?」
「ずっとおかしいと思ってた。咲良はコーラ飲まないし、俺の事呼び捨てで呼んだことない。それに、咲良は右利きだ。顔は咲良だけど中身は違う。お前···誰?」
冷たい口調と目線が私を刺した。
上手くやれてると思っていたが、ついボロを出した。
「えっと···」
しどろもどろする私に、バンッと机を叩き、もう一度君は私を睨みつけた。その勢いに気圧されて私はついに口を割ってしまった。
「私は、美桜。咲良の妹です」
「咲良!···咲良?」
他人事のように聞こえる声に、私は肩を叩かれて、もう一度名前を呼ばれた。
「咲良、ごめん待たせた」
「ううん、私もぼーっとしてた。ごめん」
「じゃ、行こうか!映画久しぶりだな。ごめんな、俺の趣味に付き合わせちゃって」
「ううん···私も見たかったし!」
最近公開されたばかりの映画で宇宙が舞台のSFもの。主役ではないが好きな韓国ドラマの俳優が出ていて、チェックしていたのだ。映画館につくと、君はテキパキとチケットを発券し、キャラメル味のポップコーンとコーラとオレンジジュースを買ってきた。
「いつものでよかった?」
「ありがと。喉乾いてるから飲んでいい?」
私はコーラをごくりと飲んだ。シュワッとはじける炭酸がたまらなく好き。小さい頃は骨が溶けるからと、今思えば意味不明な迷信のせいで母親から飲むのを止められてた。母に隠れて初めて飲んだ日から大好きになり、映画は決まってコーラと決めている。
「···じゃ行こっか」
シアターの中は満席で、端の席を予約した君に感謝した。両隣に誰かいると落ち着かないのだ。人がいるのは片側だけでいい。生まれた時から常に窮屈さを感じている私。今は君が隣にいる。もう十分だ。
それに今日、私は君に別れを告げる。さっきから気持ちはずっと落ち着かないのだ。
「始まるよ···」
照明が落ち、暗闇が包む。
ぼんやりとスクリーンが浮かび上がる。
「えっ!」と声を上げそうになった口を噤む。
君が私の左手に、そっと手を重ねた。
映画の内容なんて覚えてない。
好きな俳優がカッコイイな···くらいの感想。目の前で繰り広げられている戦いが今作のクライマックスだろう。私の頭の中にあるのは今日の結末をどう迎えるかだ。君は何も悪くない。悪くないのに。カッコイイし、性格もいい。彼氏として高得点。なんで私と付き合っているんだろう。そう疑問に思うくらい。激しい音響が耳に届く度、君は私の手を強く握る。自分が怖がってるのか、私を安心させたくてなのか。どちらにせよ落ち着かない。堪らず私はスルリと手を抜き、両手で大きなコーラのカップを持つと、炭酸の抜けかけた甘い液体を一気に飲み干した。
「映画面白かったなー!宇宙船のCGがかっこよ過ぎて、過去一のデザインだったな。歴代の宇宙船は模型で集めててさ···ごめん、俺話しすぎ?」
「えっ?ううん。かっこよかったよね」
「咲良も、やっと良さが分かってくれて嬉しい。前は苦手だからって見てくれなかったろ?」
「···一度くらい、どんなか見てもいいかなって」
「家に歴代のシリーズ全部あるから、今度一緒に見よう」
君は嬉しそうに顔をクシャッとして笑った。
「腹減ったな···何食べる?咲良の好きなのでいいよ。映画は俺に合わせてくれたし、ご飯は咲良の食べたいもので」
「じゃぁ···あそこのイタリアンのファミレスに」
すぐ目の前のチェーン店を指さして、「行こう」と私は歩き出す。
4人がけの広めの席に通されて、向かい合って座る。ドリンクバーとドリア、それからピザを注文すると、私は「取ってくるね」とドリンクバーに逃げた。食べたらお別れだ。上手くやれてる。コーラとオレンジジュースをトレーに乗せて私はまた席に戻る。君の前にオレンジジュースを置く。「···ありがと」君は不思議そうに首を傾げた。
私はまたコーラを一口飲む。
「咲良、なんか疲れてる?」
「えっ?」
「···いや。気のせいだといいんだけど」
「うん」
「この前の全統模試、どうだった?」
「まぁまぁ、かな。逞斗は?」
「えっ!···俺はギリギリ志望校はA判定だったけど···」
「何でそんな顔するの?凄いじゃないA判定」
「おまたせしました。こちらイタリア風ドリアとキノコとベーコンのピザになります」
私たちの目線をを割くように、店員の手が伸びる。
「食べよ!」
私はピザにかぶりついた。
会話が続くよりも食事に集中した方が気が紛れる。そんな私の意図に反して、彼は話を続けたがる。
「咲良もひとくち食べる?先に食べていいよ」
そう言われて差し出されたイタリア風ドリアのチーズの香ばしい香りが鼻に届く。このファミレスに来たらこのドリアは一口食べたい。私は左手でスプーンを伸ばし、1口分すくった。
「美味しい」
「そう?···よかった」
私の口が空っぽになったタイミングを見計らって、君は静かに口を開いた。
「あのさ、お前···誰?」
「えっと···咲良だけど。何言ってるの?逞斗どうしたの?顔が怖いよ」
睨むように私を観察した逞斗が「目の下の涙ボクロもないし」と、ボソッと言葉を吐く。
「えっ···?」
「ずっとおかしいと思ってた。咲良はコーラ飲まないし、俺の事呼び捨てで呼んだことない。それに、咲良は右利きだ。顔は咲良だけど中身は違う。お前···誰?」
冷たい口調と目線が私を刺した。
上手くやれてると思っていたが、ついボロを出した。
「えっと···」
しどろもどろする私に、バンッと机を叩き、もう一度君は私を睨みつけた。その勢いに気圧されて私はついに口を割ってしまった。
「私は、美桜。咲良の妹です」