「ごめんって。でも、これで俺は賭けに勝ったってことだな。俺の謎解きどうだった?」

「……遥にしてはよくできてたと思うよ」

普段やっている謎解きゲームよりはかなり簡単だったけれど、遥が俺の為に考えてくれていたということの方が大事な気がするんだ。

「はは、それ褒められてんのか貶されてんのかわかんねえ」

「褒めてるつもり」

「分かりにくいなあ」

「……」

会話が続かない。
言いたい事や話したい事、聞きたい事は山ほどあるはずなのにどれも声にならなかったのだ。
そんな沈黙を先に破ったのは遥だった。

「俺さ……最期に碧に会えてほんとよかった。これで俺の人生に悔いなしだ」

硝子玉のように澄んだ瞳で真っ直ぐに俺を見つめ、本当に後悔なんて一つもないような顔で柔らかく笑う。

「最期なんて言うなよ。お前にはまだまだ生きててもらわねえと困るんだ」

「碧、俺と出会ってくれて仲良くなってくれてありがとう。お前は最高の親友だ」

困るんだと言っているのにそんな言葉は無視して、屈託のない笑みを浮かべながら言った。

「俺にとっても遥は最高の親友に決まってるだろ……っ」

俺の言葉を聞いて数秒後、遥の綺麗な瞳からいくつもの大粒の滴がぽたりぽたりとこぼれ落ちて白いシーツに丸いシミをつくる。

「あー、ほんとお前と会ったら死にたくなくなるわ……っ」

「死ぬなよ……っ。死ぬな……っ!」

お願いだから、コイツだけは連れて行かないでくれ。

「ごめんな……碧。そんなに泣かないで。俺は碧と生きられて幸せだったから」

涙でくしゃくしゃになった顔でいつもと変わらない太陽の光のように優しく穏やかな笑顔を浮かべながら声を押し殺して泣く俺の背中を摩ってくれる。

それが俺が遥と過ごした最期の時間だった。
数時間後、遥はまるで俺が来るのを待ってくれていたかのように息を引き取った。
苦しみなんて一つもないような安らかな顔をしていて、それにもまた泣けてきてお前を失った悲しみは消えることは無いだろう。
お前以上の人にこの先出会える気はしない。
お前は知らないだろうけど、俺の人生には当たり前のように遥がいるんだよ。それはこれから先も変わらないんだ。たとえ、お前の命が燃え尽きようとも。